【2023アイスホッケー女子世界選手権】順位決定トーナメント「日本vsスウェーデン」レポート
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
IIHF女子世界選手権トップディビジョン
会場:CAAセンター(カナダ・ブロンプトン)
5-8位順位決定トーナメント1回戦(現地4/13 20:30FaceOff. )
日本 0(0-1、0-0、0-0)1 スウェーデン
ショットオンゴール:日本23 スウェーデン24
スマイルジャパンに立ちはだかった『永遠の課題』
大会初勝利、そしてグル―プA残留への思いが乗ったパックは、無情にも乾いた金属音を残して右ゴールポストにはじき返された。
第3ピリオド8分40秒に訪れた、この試合最大のチャンスだった。
第2ピリオド以降、スウェーデンのGK、Emma SODERBERGが守るゴールに何度も攻撃を仕掛けながらもこじあけることができなかった日本。しかしパワープレーを繰り返してようやく訪れたこの瞬間。
GKが左サイドに振られたことによって、ゴールマウスが大きく空いた。その瞬間、観衆の誰もが日本の同点ゴールをイメージしたことだろう。
それはスウェーデンゴールを守るSODERBERG本人もそうだった。
「あの瞬間、もうスティックはパックに届かないと思ったので、本当にドキッとして心臓が止まりそうになりました」(SODERBERG)
しかし、ほんのわずかの差でシュートはゴールポストに弾かれる。
「パックがゴールポストにあたった瞬間は『本当に良かった』、と思いました。ゴールポストと一緒に失点を防いだ気分でしたね。日本の攻撃は確かにぶ厚かったです。でも日本のパワープレーをスカウティングしていたので、なんとなくどう攻めてくるかは分かっていましたし、とても落ち着いて臨むことができました。私たちもペナルティキリングには自信を持っていたし、仲間を信頼して戦えました。あの瞬間は今大会強い相手と戦うことによってチームとして大きく成長できた結果なのかも知れません。」(SODERBERG)
それは日本にとって「まだまだ取り組むこと、ありますよ」とアイスホッケーの神様が試練を与えているのか、と思わざるを得ない程の僅差だった。
最後まで重くのしかかった第1ピリオドの失点
この試合、立ち上がりはややスウェーデン優勢で始まった。日本は粘り強く守り、なんとか相手の攻撃をはね返す。
この日、日本のゴールを守るべく先発メンバーに選ばれたのは、前回大会から正キーパーの座をつかみ取った増原海夕(ますはらみゆう/道路建設ペリグリン)ではなく川口莉子(かわぐちりこ/Daishin)。
川口は準々決勝の対スイス戦で途中出場し、被シュート16本に対して15本をセーブ。93.7%のセーブ率を残す健闘を見せていた。大会全体の流れを見ても、この日の先発起用は充分に考えられるものだった。
川口はこの緊張感あふれる試合の先発GKとして充分に役割を果たし、前日同様落ち着いたゴールテンディングを見せて粘り強く守っていた。しかし先制したのはスウェーデンだった。
第1ピリオド9分06秒に日本がクリアしようとしたパックをカットされ、そこからショートカウンター気味にパスを繋がれると最後はJosefin BOUVENGへのマークが甘くなり失点する。
しかし、試合としてはまだ6分の1、はじまったばかり。準々決勝のスイス戦のように、連続失点を許すことはなくロースコアで耐えながら、反撃のチャンスを待つ。
長年のとりくみで日本が育ててきた長所は最後まで運動量を落とさず戦い抜くというストロングポイント。伝統的に後半に強い日本にとっては、そういった土俵へ持ち込むことが狙いのゲームプランということもできた。
攻めに転じる日本。しかし「決めきるための何か」が足りない
その狙い通り、第2ピリオド以降は日本がペースをつかむ。第1ピリオドに日本9:スウェーデン12だったショットオンゴールの数が第2ピリオドは9:4と大きく改善されたことがそれを物語る。日本が目に見えて攻撃の形を組み上げられるようになってきた。
この大会でついに、世界トップレベルと比べても遜色のないパス&シュートのセンスを見せ存在へと成長してくれた床秦留可(とこはるか/リンシェーピン(SWE))と浮田留衣(うきたるい/Daishin)、そして三浦芽依(みうらめい/TOYOTAシグナス)が組んだファーストラインが何度もチャンスを演出する。
またセカンドラインも小山玲弥(こやまれみ/ SEIBUプリンセスラビッツ)、永野元佳乃(えのもとよしの/SEIBUプリンセスラビッツ)、鈴木千尋(すずきちひろ/Guelph Univ.)の運動量がスウェーデンを上回る。積極的なフォアチェックからパックを奪い、ショートカウンター気味にシュートへ繋げる展開を何度も見せる。
その圧力にスウェーデンも次第に後手後手とならざるをえず、軽率にスティックを使って日本攻撃陣を止めるプレーが増えてくる。
この試合日本が得たパワープレーのチャンスは全部で5回あった。早い動きを武器に相手にプレッシャーを与えることは出来ていたと思える。
「どうゴールを奪うか」。必要なのは攻撃へのフォーカス
いっぽうで、記者席から見る限り、そのシュートの力強さ、正確さ、また相手のGKのタイミングをずらす技術などについて、スウェーデンが準々決勝までに対戦してきたチェコやスイスと比べると日本のほうがわずかではあるが劣っているようにも見えた。データをとり数値化すれば、その差はほんの数キロだったり、数㎝だったり、ごくわずかの差かもしれない。しかし、このトップディビジョンの戦いはどのチームも強い相手と連戦をこなす中で選手たちがそのスキルを一気に伸ばせる大会でもある。
大会中に強豪とのスピードに順応し……強い身体の当たりに慣れ……、そういう経験を試合で積むことでチーム力は上がる。大会前の下馬評とはまったく違った結果がでるのは得てしてそういうときだ。
日本は今大会、相手に対応することで守りにおいては成長が多く見られた。しかし得点力という点においては、他国に比べて大会中の成長のスピードに後れをとった感がある。得点についてはこちらが主導権を持って“どうゴールを決めるか”をクリエイトしなければならない。そこにまだ課題が見えた。
例えばだが、SODERBERGは準々決勝でカナダと対戦し、あの得点力の塊のような選手たちを相手に54本中51本を止める素晴らしいセーブをみせ、延長戦まで金メダル候補のカナダを追い詰めた。
カナダの強力なシュートに対して60分間をわずか2点で抑えた、という経験は彼女を急速に成長させるのに十分なことだったろう。そんな相手に対して、それを乗り超えるために。日本も攻撃にフォーカスして、チームをビルドアップする必要があることがこの大会で証明されたと考える。
飯塚祐司監督は「立ち上がりはチームに少し落ち着きがなくて攻めこまれたが、第1ピリオド10分以降はイーブンなペースに持ち込めた。何回かあるスコアリングチャンスをものにできないまま、流れを変えることが出来ず得点をとることができなかった。パワープレーでもラストパスやシュートの精度をしっかり点数に繋げられなかったことが大きな反省点」と、試合後、悔しさをにじませた。
また小池詩織キャプテンの試合後のコメントにも「第2ピリオドから改善は出来たのですが、1点が遠かったです。この試合に限らず大会を通して得点力不足は課題だと思いました。FWだけの問題ではなく、ディフェンシブゾーンでの組み立て方、つなぎの部分で日本はまだまだ未熟なのかなと思います」という言葉があった。
必要なのは「攻撃力」。新たなステップへと進むとき
「決めきれなかった」「あの時間帯で点が取れていれば」「1点が遠い」という言葉は、2008年中国ハルビン大会で女子世界選手権トップディビジョンの取材を始めた時から、試合に敗れるたびに様々な選手、そしてスタッフから毎年のように話されてきた言葉だ。
ハルビンでの大会は日本がトップディビジョンに参加して初めてトップ残留を決めた大会だった。その頃から『その言葉』がずっと日本にはつきまとい続けている。
北京冬季オリンピックが終わって、得点力が高いと評価されてきた選手たちが複数、スティックを壁に掛けた後、それに続く選手がまだ育ち切れていないことが世界との戦いであぶり出されたことをプラスに捉えて、すぐに手を付けなければならない。
『得点力不足』。
日本にとって長年つきまとうこの問題に対して、何らかの答えを見つけなければならない、それも可能な限り早いうちに。
今回大会期間を通して、日本が成長し3位から5位の中位グル―プ相手には充分に戦える力があることも示してくれた。それはポジティブな変化だ。しかし、この『得点力不足』はそのポジティブな要素の成長分を帳消しにしかねない結果となっている。
確実に4強に次ぐ実力を持っている、とのパフォーマンスをこの大会で見せてくれた女子日本代表、スマイルジャパン。
この先、スマイルジャパンはその階段を上るのか降りるのか?
その選択が迫られるときは近い将来、否応なしに訪れるだろう。