X68000とFM TOWNSとオレ。
あのX68000の復刻版が出るらしい。
当時、パソコンといえばNECのPC98に代表される白くてどれも同じような見た目のものばかりだったのに、SHARPのX68000(以下 X68K)は縦置きの本体とモニターがセットになったデザインで他の機種と一線を画す孤高の存在だった。洗練された黒のボディが奏でるのは8重和音の優しい音色で、そのギャップもまたたまらなく魅力的。「スペースハリアー」や「源平討魔伝」など話題のゲームがファミコンとは比較にならないハイクオリティで移植されていたこの夢のハードを、地元の電気屋で手が届かない高嶺の花として眺めていた記憶がよみがえる。
X68Kと合わせて思い出すのが富士通のFM TOWNS。
こちらもグレーのカラーでX68Kと同じ縦置きの機体。そしてCD-ROMが標準装備。毎月買っていたパソコン雑誌に出ていた宮沢りえの広告が印象深い。
TOWNSには確かな未来を感じさせるものがあった。中でも「ハビタット」はその象徴だろう。まだインターネットが普及していない時代に、アバターを使ったパソコン通信でまだ見ぬ誰かとやりとりをすることに狂おしいほど憧れた。
当時のパソコン相場は安くても30万ほど。小学生の自分では持てるものを全て出しても太刀打ちできる金額ではなく、電気屋に鎮座しているX68KやTOWNSをただ眺めてそのたびため息をつく日々を過ごしていたが、ついに中学入学祝いとしてパソコンを買ってもらえることになった。将来ゲームプログラマーになりたいから必要なのだと親にプレゼンし続けた結果だが、公務員1馬力の家庭でも子どものためにそんな高額を出せるくらい日本に勢いがあった時代でもあったのだ。
X68Kのカッコよさに憧れ、TOWNSの未来に果てしない期待をしていた12歳。そんな自分だったはずなのに、いざようやく人生初のPCを買うところまできたとき、実際に選んだのは件の電気屋であまり視界に入れていなかったPC98だった。
お金の問題ではない。X68KやTOWNSは親の出せる予算から足は出ていたが、それでも本気で望めば交渉の余地はあったと思う。だけど、自分はそれをしなかった。ワクワクする魅力はあるがマイノリティであるX68KとTOWNS にベットする勇気が持てなかったのだ。
白くて量産型のデザインで、刺激的な要素はX68KやTOWNS に劣るPC98。でも、日本一のシェアとソフト量を誇るこのパソコンには堅実なPCライフを過ごす自分の姿がイメージできた。
「98は家庭用ゲーム機で言うならファミコンだ。まずはそれを手に入れないと!」
「X68KやTOWNSは友達が誰も持ってないからソフトの貸し借りができない!」
「98でも友達が持ってるMSXに十分優越感を持てる!」
こんなふうに98を選ぶ理由を並べて正解だと思い込んだ当時の自分は、さながら刺激的だが定職に就かない彼氏を捨てて安定した男を選ぶ婚活女子のようだった。
PC98を選んだことが間違いだったとは思わない。98によって見ることができた景色は、今の自分にとって間違いなく血肉となっている。ただ、この12歳当時の選択が、イマイチ突き抜けることができない今の保守的な人生の第一歩だったのかもしれないと思うときがある。
ちなみにPC98を選んだことが間違いだったとは思わないが、買った機種はPC98DO。これは人生でもランキング上位の大後悔となるのだけれど、それはまた別の機会に…。
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