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春から研究室に所属する人へ~研究に関する勉強方法~

お久しぶりです。博士課程の1年があっという間に過ぎて、残り数週間で博士2年生になろうとしていることに焦りを感じているやまたくです。

学部3年で研究室に所属した頃は、「雑用が多くて研究に集中できないから早く大学院生になって研究に集中したい」と思っていたような気がしますが、
実際には学年が上がるにつれて、後輩の指導や装置のメンテナンス、業者とのやりとり、学会準備などで実験台の前で研究する時間は減っているような気がします。

つまり春から新しく研究室に所属する皆さん!!
講義もあって大変かもしれませんが始まった瞬間が1番研究できる時間 (先輩も丁寧に面倒を見てくれる時間) なので良いスタートダッシュが切れるように頑張ってください。

というわけで本日は、新しく研究室に入る人や、大学院から新しい研究室に移動する人に向けて、研究テーマに関する勉強の方法についてつらつらと文章を書いていこうと思います。(というか過去の自分が研究室に入った当初に知りたかった情報をまとめていきます…)

なお、筆者の専門は高分子化学・光化学・計算化学ですので、分野が異なると全く違った意見が出てくるかもしれませんが、一個人の経験に基づく話だと思ってご容赦ください。


研究テーマに関する勉強の方法

研究室に入って一番最初に困ることは「研究テーマに関する勉強の方法」だと思います。

多くの場合、研究室に入る前までは、答えのある問題をできるだけ早く・正確に答えらる人が評価されます。

しかし研究室に所属すると、答えのわかっていない問題を、さまざまなアプローチで解明していく力が求められます。

極論、学部までの定期試験で成績が良いことと、研究を論理的に進められるかはあまり相関がないように思います。
(もちろん、研究室配属までに頑張って蓄えた知識が無意味とは言いませんが、蓄えた知識を自分の研究に活かせるかどうかは別問題だと思います。)

ではどうやったら
・研究のための知識は身につくのか?
・身につけてきた知識を研究に活かせるのか?
ということをまとめていきます。

一般的な勉強方法としては「類似分野の論文を読む」「学会に参加して情報を収集する」といったところだと思いますが、この手の方法は研究室に入りたての学生にはハードルが高すぎます。

類似分野の論文や総説を読むことに関しては私自身、研究テーマが決まった初日に先輩から80本を超える論文が送られてきて、「知識がないだろうからこれ全部読んでおいて」と言われ、背筋が凍ったのを今でも覚えています。
(博士課程に進学した今だから言えることですが、学士課程の卒論を書くだけなら80報も読む必要はないかもしれません。ただ、自分の研究の立ち位置を理解して先行研究や類似の研究を行っているグループとの差別化をきちんと行うためには80報では知識量として少なすぎるので、将来的にはそれよりはるかに多くの論文を読む必要が出てきます。)

また学会に参加して情報を収集することも、慣れてくれば簡単というか一番手っ取り早いわけですが、知識のない状態で学会に参加してもお経を聞いているのと同じで何一つ吸収できないまま観光だけして帰ることになってしまいます。

というわけで研究室に入りたての学生がまずやるべきことは以下の5つだと思います。

  1. 研究室の先輩の博論、修論、卒論を読む

  2. 前年度のゼミの資料すべてに目を通す

  3. 学会誌のアーカイブに残っている記事で興味が持てそうなものから読む

  4. CSJカレントレビューで興味を持てそうなものを一冊買って読んでみる

  5. 一報でも良いから直近のその分野に関する英語の総説を読み切る


1. 研究室の先輩の博論、修論、卒論を読む

研究室の先輩の博論、修論、卒論を読む。」に関しては当たり前ですね。よほど大型の新プロジェクトが始まらない限り、研究室の先輩の論文が一番参考になります。また、卒論や修論に向けてどれだけ実験をしなければいけないのかの大体の目安がわかります。

個人的には博論→修論→卒論の順に読むことをお勧めします。なぜなら博論はクオリティが修士までに比べてはるかに高く、日本語も綺麗にまとまっているはずだからです。一方、学部の卒論は大体の場合は推敲が甘く修正の余地が多く残されているものです。(私自身、卒論の文章を読み返すと書き直したい箇所が数多くあります。)したがって、勉強するという意味では博論から読み、研究だけではなく文章の書き方や論理の組み立てについて学ぶと良いでしょう。

また、先輩の博論を読むときには、図中の文字の大きさや色の使い方にも着目し、どのような工夫がされているのか意識しながら読むと勉強になると思います。


2. 前年度のゼミの資料すべてに目を通す

一通り先輩たちの博論・修論・卒論に目を通した後は、「前年度のゼミ資料全てに目を通す」ようにするといいと思います。

研究室によっては、研究の報告会だけではなく、最近の論文を紹介し合う雑誌会や、一つの教科書(多くの場合は海外の教科書)に関する輪講、自主ゼミなどの資料も残されていると思います。

そういった資料に目を通すことで、前年度までの研究室のゼミの様子をざっくり把握し、1年間に自分がやらなければいけないことを具体化できるはずです。

研究室によって報告会の頻度や資料の分量などは違うと思いますが、先輩たちの資料を見て、ゼミのどれくらい前から準備を始めなければいけないかを把握するようにしましょう。

また、基本的に前年度に輪講で扱った教科書をもう一度輪講することは、よほど重要な教科書でない限りしないはずなので、過去のゼミ資料を使って勉強しておかないと、先輩たちはみんな知っているけど自分は知らないということが起きてしまいます。

もちろん、研究室に所属してすぐの時点で先輩に知識量で勝てるはずはありませんが、自分から主体的に知識を蓄え追いつこうとすることが大切です。


3. 学会誌のアーカイブに残っている記事で興味が持てそうなものから読む

さて、ここまでは研究室にあるデータを読み漁ろうという内容だったわけですが、ここからは少し違ったアプローチを紹介します。

それが「学会誌のアーカイブに残っている記事で興味が持てそうなものから読む」ということです。私が所属する高分子学会では会誌として「高分子」というものが毎月発行されています。会員になるとPC上で過去に発行されたものを遡って読めるので、タイトルや見出しで興味がありそうなもの、自分の研究に関連しそうなものを読むことができます。

他の多くの学会でも学会誌が発行されているはずなので、ぜひ積極的に目を通すようにしましょう。

基本的に学会誌はその分野をリードする先生や新進気鋭の若手の方々が執筆に携わっており、分野の最先端の研究をわかりやすく解説してくださっている場合がほとんどです。

もしかすれば、自分が所属した研究室の先生が書いている記事が見つかるかもしれません。あれば必ず目を通すようにしましょう。


4. CSJカレントレビューで興味を持てそうなものを一冊買って読んでみる

次も会誌を読むことに近いものですが「CSJカレントレビューで興味を持てそうなものを一冊買って読んでみる」というのを個人的にはかなりお勧めしています。

CSJカレントレビュー」とはCSJ (日本化学会) が編集している本の一つで、最新研究や重要研究についてテーマごとにまとめられたものです。毎年2冊〜4冊のペースで発行されており、 内容は有機・無機だけではなく、ポリマー、エネルギー、バイオなど様々で、一覧を見れば気になるテーマが見つかるはずです。

CSJカレントレビューの特に素晴らし点は、研究内容をまとめてあるだけではなく、その分野特有の専門用語に関する簡単な説明が巻末についていることです。分野の初学者に優しい設計になっており、単語の定義に立ち返りたいときにも重宝します。また、その分野に関する重要論文についても簡単な説明付きでリスト化されているので、原著論文を確認する際の参考になります。

一冊4千円以上と学生にとっては大きな出費ですが、日本化学会の会員になると割引がありますし、払う価値のある本だと思います。

5. 一報でも良いから直近のその分野に関する英語の総説を読み切る

ここまででも新入生としてはかなり十分な知識がつくと思いますが、やはり避けては通れないのが英語で論文を読むことです。
いきなり研究論文を読んでも良いのですが、個人的には最初に総説(review)を読んだ方が、分野の全体像を掴んだ上で研究に取り組めるのではないかと思います。

ちなみに総説とは、特定のテーマや分野に関する先行研究を体系立ててまとめることで、その分野の研究動向を示すものです。その分野の課題や未解明な部分、今後の展望などが書かれている場合もあり、研究分野の現状を整理できます。

最新の総説を読むことで分野への理解が深まりますし、総説を読み終わった後に、気になった部分で引用されていた論文を読むことで、より詳細な情報を学べます。

総説に関してはいきなりだと選ぶのが大変なので、研究室の先輩に聞いて、一番自分の研究テーマに近そうなものを選んでもらうのがいいと思います。


終わりに

今回は春から研究室に所属する人に向けて、研究分野に関する勉強の方法をまとめてみました。少しでも、新入生の参考になる内容があれば嬉しく思います。

ただあくまで、研究室に入りたての学生が研究分野の全体像を掴むための方法をまとめたものですので、学年の進んだ人はもっと広く・深く勉強する必要があります。今回の記事が好評であれば、そういった学年の進んだ人に向けて、研究テーマが行き詰まった人向けの勉強方法や研究への向き合い方に関する一例をまとめてみようと思います。

また皆さんの研究室での勉強方法についてコメントをいただけると私自身の勉強になります。









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やまたく
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