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【院試解説】令和元年度 東京工業大学 理学院 化学系 問題2 (共通問題)

こんにちは やまたくです。

今日は院試解説の第二弾として

令和元年度 東京工業大学 理学院 化学系 問題2 (共通問題)

を解いていこうと思います。
著作権上の都合から、問題は大学ホームページのリンクからダウンロードしてください。

a) カルボカチオンの安定性に関する問題

基本的にカルボカチオンはアルキル基の数が増えるにつれて安定になります。
すなわち、第一級よりも第二級、さらに第二級よりも第三級のカルボカチオンの方が安定です。

スクリーンショット 2020-04-24 午後1.10.13

また、アリルカチオンは共鳴安定化を受けるため飽和炭化水素化合物よりもはるかに安定になります。

スクリーンショット 2020-04-24 午後1.10.20

以上のことから、安定性の序列は以下の通りとなります。

a)の解答

スクリーンショット 2020-04-24 午後1.14.43


b) 立体化学に関する問題

一応ここでは言葉の定義だけ思い出しておきましょう

エナンチオマー = 鏡像異性体
ジアステレオマー = 鏡像異性体の関係にない立体異性体
エピマー = ジアステレオマーの内,1箇所のキラル中心の立体配置のみ異なる化合物

以上のことから、解答は以下の通りになります。
i) 同一化合物
ii) エナンチオマー
iii) エナンチオマー
iv) ジアステレオマー


c) アンチペリプラナー配座に関する問題

スクリーンショット 2020-04-24 午後1.44.23

上記の反応はNewman 投影式を用いて書くと以下のようになります。

スクリーンショット 2020-04-24 午後1.44.27

この反応でのポイントは2点あり。
1点目:E2脱離反応は脱離するClとHがアンチペリプラナー配座になった時に反応が進行する
2点目:同じアンチペリプラナー配座でも下記の図において左側の配座の方が立体障害を考えると安定

スクリーンショット 2020-04-24 午後1.51.04

ということを考えると、(E)-アルケンが主生成物として得られることになります。


d) i) フリーデル・クラフツ (Friedel–Crafts) アシル化反応

フリーデル・クラフツ反応は芳香環に対してアルキル基もしくはアシル基が求電子置換する反応のことを指します。この反応は1877年にフランス出身のシャルル・フリーデルとアメリカ出身のジェームズ・クラフツによって発見され、現代でも広く利用されています。

スクリーンショット 2020-04-24 午後2.07.08

本問題では分子内で フリーデル・クラフツ アシル化反応を進行させる反応であると考えられるため、生成する化合物は以下のようになると言えます。

d) i)の解答

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d) ii) アルドール (aldol) 縮合反応

アルドール反応はα位に水素を持つカルボニル化合物が、アルデヒドまたはケトンと反応してβ-ヒドロキシカルボニル化合物が生成する反応で、求核付加反応のひとつです。

酸性条件、塩基性条件それぞれで反応が知られており、それぞれ下記のようなステップで進行します

酸触媒の場合
1. ケト-エノール互変異性が加速されてエノールが容易に生成するようになる。
2. 生成したエノールのα炭素がアルデヒドまたはケトンに求核付加する。
3. プロトン化されたままの形のカルボニル基から生成したアルコキシドにプロトンが分子内で移動する。

スクリーンショット 2020-04-24 午後2.48.25


塩基触媒の場合
1. カルボニル基のα位のプロトンが塩基に引き抜かれエノラートアニオンが生成する。
2. 生成したエノラートアニオンのα炭素がアルデヒドまたはケトンに求核付加する。
3. 生成したアルコキシドがプロトン化された塩基からプロトンを受け取って塩基触媒が再生する。

スクリーンショット 2020-04-24 午後3.33.12

今回の問題ではアルデヒドとケトンの交差アルドール縮合反応であり、α水素があることから脱水反応が生じることを忘れないことに注意すると答えは以下のようになります。

d) ii)の解答

スクリーンショット 2020-05-06 午後3.42.02


d) iii) ウォルフ・キッシュナー (Wolf-Kishner) 反応

ヒドラジンの求核付加反応として有名なウォルフ・キッシュナー反応はケトンやアルデヒドのカルボニル基をヒドラジンによって還元してメチレン基にする化学反応のことを指します。

1911年にニコライ・キッシュナー、1912年にルートヴィヒ・ヴォルフによって発見された反応です。実験では溶媒としてジメチルスルホキシド (DMSO) を使用すると室温付近の温和な条件でも反応が進行することが知られています。

スクリーンショット 2020-04-24 午後3.22.37

したがって、d) iii)の解答

スクリーンショット 2020-04-24 午後3.26.00

となります。


終わりに

今回は過去問解説の第二弾として令和元年度 東京工業大学 理学院 化学系 問題2 (共通問題)を解いていきました。

1つの大問で学部の授業のかなりの部分を復習できる良い問題揃いだったという印象です。

質問やコメントがあれば残していってもらえれば嬉しいです。

(この記事は100%合っていることを保証する解答ではないので間違いがあるかもしれません。もし間違い等があればコメントで教えて頂ければ幸いです)

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やまたく
ご愛読いただきありがとうございます