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AI搭載のスマート給餌機を活用し、持続可能な養殖経営の実現へ【愛媛県漁業協同組合うわうみ支所|実装報告】
日本一のシマアジ養殖生産量を誇る愛媛県宇和島市。愛媛県漁業協同組合うわうみ支所は、市の沖合に浮かぶ戸島を舞台に、AI搭載のスマート給餌機により持続可能な養殖経営を目指すプロジェクトを令和4年度から進めている。
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■本プロジェクトの背景
現状、魚類養殖ではタイマー式給餌機を使い配合飼料を給餌するやり方が主流となっている。だがタイマー式給餌機は設定した時間に一定の餌が落ちる仕組みのため、魚の食欲のムラにより食べられず海底に餌が落ちる無駄餌の多いことが課題となっていた。
経費の70%が餌代である魚類養殖において、近年では餌代の高騰が加速しており、適正な給餌による餌代の削減が喫緊の課題となっている。
このことから、魚の食欲を判断し、給餌量をコントロールできるAI給餌機が注目を集めているが、タイマー式に比べて高額な上、シマアジ養殖においての実績が非常に少ないことから、タイマー式とAI給餌機を比較し、その実力を検証することとした。
令和4年度から従来のタイマー式給餌機とAI給餌機どちらも生簀に設置し実装検証を行ったが、令和5年度は、より細かいデータの取得が必要と判断し、新たに魚体測定カメラを設置し、より高頻度なデータ測定を行うこととした。また、養殖管理システム「uwotech」を導入し、データの一元化や、必要な数値の計算を自動化し、検証を行った。
本記事では、令和5年度の実装検証の成果をレポートする。
検証内容:シマアジ養殖における、AI給餌機とタイマー式給餌機の比較
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■コンソーシアムメンバー
統括/愛媛県漁業協同組合 うわうみ支所(戸島事業所)
実装者/戸島シマアジ養殖業者(4名)
餌ロボ対応/パシフィックソフトウエア開発株式会社
科学分析/愛媛大学大学院農学研究科
全体サポート/宇和島市水産課
■事業協力者
魚体重推定カメラ測定解析/古野電気株式会社舶用機器事業部 養殖支援推進室
養殖管理システム「uwotech」対応/Aquacraft株式会社
■比較生簀の構成
4名のシマアジ養殖業者で実装を行なった。
AとBは令和5年度から新規で実装した業者で、CとDは令和4年度から継続している業者。
生簀は、A、B、Cの業者がAI給餌機(図やグラフでは「AI」と表記)のみ設置し、DはAI給餌機とタイマー式給餌機(図やグラフでは「タイマー」と表記)の2つの生簀で検証した。
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■現場目線での評価
・タイマー式とAI給餌機を比較し、使用感の違いを検証
・魚体重推定カメラによる定期的な魚体測定(1年魚は月1回、2年魚は月2回、撮影を行う)
・「uwotech」によるデータ一元化・計算自動化
給餌量・死魚数、水温・溶存酸素、魚体測定結果、増肉係数、日間給餌率など
■科学的分析手法を用いて評価
愛媛大学による、血液や組織サンプルでのストレス測定・遺伝的解析を行う。
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IoTを活用した、次世代の自動給餌システム「餌ロボ」
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実装したAI給餌機は、パシフィックソフトウェア株式会社のインターネット自動給餌システム「餌ロボ」。IoTをフルに活用した次世代の自動給餌機だ。
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超音波センサーで魚群行動をモニタリングする機能を搭載しており、餌への食いつきが悪くなると自動的に給餌をストップ。そのため従来のタイマー式給餌機におけるデメリットとされていた無駄餌(食べられずに海底に落ちてしまう餌)の大幅な削減が期待できる。
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従来のタイマー式給餌機では、設定変更などのために生簀へ行く必要があったが、「餌ロボ」は陸上からの遠隔操作が可能。通信機能を搭載しているので、スマートフォンやタブレットなどのアプリケーションを活用して給餌の開始・停止、スケジュール変更などの操作ができる。
またAI捕食判定による餌の自動節減機能を内蔵しており、AIによる停止と、手動による停止が可能。人の判断で停止もできる機能を加えることで、柔軟に給餌の仕方を調整できるようにしている。
魚体重推定カメラによるデータ取得
令和5年度より、より詳細なデータを取得するために古野電気株式会社の魚体重推定カメラが導入された。1年魚は月1回、2年魚は月2回の頻度で測定を行った。
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魚体重推定カメラには、小型生簀用のUC-300と大型生簀用のUC-600があり、本事業ではUC-300が用いられた。
UC-300はシマアジのほかにブリ、カンパチ、マダイ、サーモンなど、UC-600はクロマグロやブリなどの魚種を対象としている。
魚体重推定カメラは、カメラユニットとカメラを操作するスマートフォン、双方を繋ぐ通信ユニットの3つで構成されている。
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まず、生簀にカメラユニットを投下し、専用のスマートフォンで操作して魚群を5分程度撮影する。
撮影した映像をスマートフォンから古野電気のクラウドサーバーにアップロードすると、AIが自動解析を行い、数日後には魚体重が確認できるという流れだ。魚体重などの解析結果はPCやタブレットなどで閲覧、ダウンロードできる。
養殖管理システム「uwotech」を導入
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当初はエクセルによる手動計算を行なっていたが、今後は事業者自らが管理できるようにAquacraft株式会社の養殖管理システム「uwotech」を導入し、給餌や魚体重測定結果などのデータの一元化や飼育指標となる増肉係数や日間給餌率などの計算を自動化し、比較検証を行なった。
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成果報告:シマアジ養殖におけるスマート給餌機実装事業勉強会
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2024年1月、宇和島市役所にて、本事業の勉強会が開催された。今回のプロジェクトに関わったコンソーシアムメンバーをはじめ、県内の養殖漁業関係者も多数参加。業界におけるスマート給餌機への関心の高さがうかがえた。
勉強会では、事業関係者による実装の概要、成果報告が行われた。
【成果報告】
■へい死について
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このグラフは、各生簀の累積へい死率を表している。
今年は病原性の強い病気が流行ったこともあり、Aの生簀で多くのへい死が出ている。またBについては、へい死率については他の生簀と大きな違いはないが、給餌方法が大きく異なる。
そのため、以降の比較はC、D、タイマーを中心に見ていく。
■増肉係数について
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増肉係数とは、魚を1kg太らせるのに必要な餌量を表す数値。
一般的に水温が下がると魚の食欲も低下して増肉係数が増加するといわれている。
グラフでも、水温が下がってくる10月以降において全体的に増肉係数が大きくなっている。しかし、AI給餌機であるCとDは、上昇幅が小さくなっているが、タイマーは上昇幅が大きくなっている。
これは、タイマー式給餌機が設定した時間に大まかに設定した餌量が、魚の食欲に関係なくただ落ちていくだけに対して、AI給餌機は、魚群が沈んだことで魚の食欲が下がったとAIが判断し、給餌を停止した。すなわち、水温の変化に対応し、過剰な給餌が押さえられ、無駄餌が削減できたといえる。
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月別ではなく、実施年度で増肉係数を見ると、Cは1年魚のときにタイマーより数値が悪くなっており、Dは2年魚のときにタイマーより数値が悪くなっている。しかし、2年間として計算すると、C、Dともにタイマーより増肉係数の値が良くなっており、算出すると1生簀あたり約5%の餌代削減ができた。
■日間給餌率について
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日間給餌率というのは魚体重に対して1日にどのくらいの量を給餌したかを表す数値。
左の1年魚は食欲が旺盛なため、小さい時ほど数値が高くなっているが、成長とともに餌を食べる量が低下するため、右肩下がりのグラフになっている。右の2年魚を見ると、大きな変動はなくだいたい1%前後ぐらいで推移をしている。日間給餌率が出せると、「傾向としてこの時期に何%くらいあげておくと成長がいいから、このくらいの量給餌しよう」というように、適正な給餌量を決めるための判断基準にすることができるため、継続して記録を残していく必要がある。
魚体分析:AI給餌機によるストレス軽減効果、遺伝的解析における違いの検証
愛媛大学大学院農業研究科の協力のもと、AI給餌機によるストレス軽減、遺伝的解析における違いの検証が行われた。
対照区(タイマー式給餌機の生簀)と実験区(AI給餌機の生簀)からシマアジをサンプリングし、科学的分析手法を用いたAI給餌機の導入効果の評価を試みた。
【サンプリングについて】
対象:2年魚
5月・10月・1月に供試魚サンプリング(※)を実施
※成長差が出た時点でサンプリング(魚体測定カメラを導入し、定期的に測定していることが前提)
【サンプル解析】
・血中コルチゾール濃度測定(ストレス測定)
・分子レベル網羅的解析による生理状態の把握(成長、免疫系、消化における効果の検証)
・肉質解析(筋肉の状態観察)
検証結果は以下の通り。
■血中ストレスホルモン(コルチゾール)量(2年魚)
給餌方法やパターンの違いが魚のストレスにどのような影響を及ぼすか、期間中に2回サンプリングを行い検証した。
ストレスホルモンである血中コルチゾルが少ないほど、ストレス度合いは低いことを表している。
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その結果、Cの生簀のストレス度合いが非常に低いことがわかった。
ストレスが少ないことが、成長率の高さや死亡率の低さにつながっているのではないかと考えられる。
2024年1月10日のサプリングはCとD、タイマーの生簀のみで行ったが、全体的にストレスの度合いは下がっている。中でもCが低い傾向にある。
■成長関連ホルモンについて
次に、成長に関連するホルモンについて。
脳下垂体で発現する成長ホルモンGHと、肝臓で発現するインシュリン様成長因子IGF-1の発現を調べた。
このホルモンの数値により、その魚が将来どのように成長するかが見えてくる。
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脳下垂体でのGHの発現にはタイマー式給餌機、AI給餌機でそれほど差はなかったが、肝臓でのIGF-1の発現については、タイマー式給餌とAI給餌機のCの生簀で高い傾向にある。
■次世代シーケンサを用いた網羅的遺伝子発現解析
肝臓での本年度の遺伝子発現に関しては、タイマー式給餌機の生簀の魚と、成長の良いC生簀の魚の肝臓では代謝あるいは成長と免疫に関わる遺伝子群の発現の上昇が認められた。
一方、へい死の比較的多い生簀の魚の肝臓では、免疫に関わる多くの遺伝子群の発現が減少している。
肝臓での遺伝子の網羅的発現解析は、魚の生理状態を精密に知るツールとなり得るということだ。
現場の声:養殖業者・和家紀彦さん
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■餌ロボにについて
令和4年度から1年半近く使用してきましたが、最初はスマホ一つで操作ができるということに驚きました。遠隔操作が可能なので、どこにいても状況の確認ができ、省力化につながりました。給餌に関しては、急激な水温の変化などにより魚の食欲が落ちれば止まるように細かい設定ができます。
AI給餌機に変えたからといって、すぐに死亡率が下がったり、成長が良くなったりということはありません。ただ、餌のやり方など自分で工夫できますし、AIがデータ学習して最適な給餌方法を導き出してくれるようですので、死亡率の低下や成長率の向上も可能性になるかもしれません。また、本実装を経て、健康な魚作りをすることで成長が促進されるということを改めて実感しました。
■養殖管理システム「uwotech」について
魚の在庫管理や原価計算、売上等のデータも管理できるようになっています。個人事業主と法人とでは若干必要とするデータが違ってくるのもあると思いますが、個々に必要なものを入れて活用したいいただければ便利に使えると思います。
今後もデジタル技術をうまく活用して、少しでも仕事の内容を改善できればと思っています。
検証結果から見えてきたこと
■AI給餌器の優位性
2年魚の増肉係数でわかったように、タイマー式給餌機は水温の変化に対応できず、10月から1月にかけて増肉係数が大きくなっていたが、AI給餌機は、細かい設定を使用者が行えること、AIが魚の食欲を判定して給餌をストップさせることができるため、最適な給餌が可能となる。
■生簀の見える化
日間給餌量が出せるようになると、時期や魚の成長具合によって適正な給餌量の判断基準にすることができる。
今年度は、魚体重推定カメラを導入することで、月1回以上の測定ができ、測定結果をすぐに反映させることができた。さらに養殖管理システム「uwotech」を使うことで、簡単に算出結果が出せるようになった。
魚の状態を簡単に見える化できたことは、養殖業のデジタル化がさらに一歩前進したといえる。
■令和5年度の実装成果を踏まえた今後の課題について
AI給餌機は、給餌量の削減には効果が期待できるが、給餌が不足している場合の追加給餌にはまだ対応してない。そのため、どのぐらいの量を給餌するかについては事業者の意思決定が必要になる。その意思決定をするためには、もちろん経験や勘も重要だが、今後は数値として可視化しながら判断することが重要になってくる。
デジタル機器を導入して終わりではなく、その効果を最大限発揮させるためには、日々の記録、定期的な魚体測定によるデータの蓄積が非常に重要となってくる。データが蓄積されることで最適給餌を決める判断材料が増え、給餌量の削減や養殖の効率化、経費の削減が可能となり、最終的には持続可能な経営の実現につながっていくだろう。
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