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水道インフラの安定確保へ!水道管路漏水検知ソリューション実装実績報告【NECネッツエスアイ株式会社】

地中を巡り水を運ぶ水道管が、もしも漏水や破損事故を起こしてしまったら、安心安全な暮らしが脅かされるばかりか、人命に危険が及ぶこともある。地中の見えない「ライフライン」を守るために、「NECネッツエスアイ株式会社」はデジタル技術を駆使したソリューションの実装検証を行った。

(1)ソリューションの概要

同社が提供する「水道管路漏水検知ソリューション」は、衛星画像解析やロガー(センサー)を用いた調査により、地中の漏水を「短時間・低コスト・高精度」で発見し、高度な水道管路維持管理の実現を目指すものである。
 
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導入先は水道管路の維持管理を行う水道局などの水道事業体。ここでは⽔道水を安全、快適に住民へ提供できるよう、⽔道管路の維持管理を実施しており、本ソリューションは補修工事や管路更新計画をより効果的なものにするために、「漏⽔箇所の効率的な発⾒」と「データ蓄積・統合・分析」の提供を⾏う。

検証は次の3ステップで進行する。
[ステップ1] マクロ解析「衛星画像解析」:漏水可能性エリアの絞り込み
[ステップ2] ミクロ解析「ロガー調査」:漏水疑義箇所の特定
[ステップ3] ステップ1・2の結果、新居浜市のデータ、オープンデータをプラットフォームに取込み、総合分析を実施。
 
目標としたのは、漏水調査の「効率性」と、漏水箇所発見の「位置精度」の向上、そして管路更新計画立案のための活用データの有用性立証だ。

今回の新居浜市での実装検証は全国初の試みであった。その内容と結果・成果を、検証ステップ順に追って行く。

(2)「マクロ」「ミクロ」の解析で漏水疑義箇所を抽出

まずステップ1「マクロ解析(衛星画像解析)」ステップ2「ミクロ解析(ロガー調査)」により、新居浜市全域から漏水疑義箇所まで絞り込む。

解析方法概要

衛星画像解析では、衛星から放射する電磁波が地下に存在する水道水までを識別できる特性を用い、その広がり方など総合解析することで、漏水可能性エリアを抽出する。従来の地中の漏水音を聞き取る「漏水音聴調査」と比較すると、水道管路網を一度に「面」的に調査し絞り込めるため、作業効率の大幅向上が見込める。

続いて、上記で検出した漏水可能性エリアに対して、ロガー調査を実施する。水道管の弁栓に設置したロガー(漏水音データを集積する振動センサ)が計測したデータを解析し、漏水疑義箇所を特定する調査だ。タイマー設定による自動計測システムなので、使用水の少ない夜間作業を必要とする作業員の負荷を軽減でき、特別なスキルも不要となる。
 
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デジタル解析による疑義箇所の抽出結果

結果は以下の通り。
■マクロ解析(衛星画像解析)
衛星画像解析では、新居浜市水道配水管全体から約29%へ絞込み、「277」のPOI(*1)を抽出した。
(*1: POI=Point Of Interest 半径100m範囲円で抽出された漏⽔可能性エリア)
■ミクロ解析(ロガー調査)
マクロ解析で抽出した「277」POIを、ロガー調査対象「203」POIと、音調調査対象「74」POIに分ける。
(調査効率を重視し、管路数が少ないPOIや地理的に他所から孤立したPOIは音調調査対象とする。)
そしてロガー調査対象「203」POIを8〜12POIずつにまとめ、「21」のエリアを定義。
その「21」のエリアについて、各エリアに20本のロガーを設置し調査を実施。

21エリアのロガー調査の結果、漏水疑義箇所「22か所」を抽出した。

現地確認調査で漏水箇所を確定

続いて、抽出した「22か所」について現地確認調査を実施。音調調査や簡易ボーリング等で各箇所の漏水有無を調査した。

その結果、22か所のうち、「1か所」の漏水を確認。
さらに、ロガー調査中に発見した漏水が「1か所」、そしてロガー調査外で衛星画像解析結果をもとに音調調査で発見した箇所が「1か所」
本プロジェクトを通して合計「3か所」の漏水を発見することができた。少ないと感じるかもしれないが、今回、ロガー調査実施前に計画的な音聴調査を新居浜市にて実施していたため、この「3か所」は音聴調査で発見困難な「隠れ漏水」であると考えている。

(3)情報統合表示プラットフォームを使ったデータ分析

以上の通り検証ステップ1・2を通して漏水箇所の抽出を達成した。
ステップ3では、ステップ1、2の結果やオープンデータ等を含めた複数の情報を使い、情報統合表示プラットフォームによる総合分析を実施。

機能概要とインプット情報

情報統合表示プラットフォームは、複数の要素の地図情報を重ね合わせて可視化し一元管理を行うものである。各情報をインプットし重ね合わせて表示することで、不健全管路の傾向を分析し、劣化要因と漏水発生時の影響度を把握する。そうして導き出したデータを、管路更新計画立案の参考情報として提供する。

本プロジェクトにおいては、以下3つの提供元からの各種データをインプット情報とした。
・新居浜市上下水道局所有データ(8項目:配水管・消火栓・給水装置等の位置、修繕履歴箇所等の情報等)
・本実証で取得したデータ(5項目:前記調査による漏水可能性エリアや漏水疑義箇所、発見箇所等)
・オープンデータ(18項目:国土交通省や総務省統計局の提供データ。災害想定区域、緊急輸送道路、医療機関や避難施設・浄水場等の重要施設、活断層や土壌の情報、人口密度、交通量等)

検討・分析内容と結果

新居浜市配水管路全域をカバーする対象メッシュ(*2)数は82。取り込んだデータを地図に重ね合わせて表示し分析。メッシュごとに12項目について集計した。
(*2:メッシュ=国で定められた地図を分割する区切り)

検討・分析は以下の2つの方針に沿って実施した。
 
■方針1:管路劣化要因の検討
・目的
経年「以外」の要因があるか。「土壌」「土地利用」に着目し分析する。
・分析手法
「土壌」「土地利用」の種別ごとに、「漏水履歴箇所」の分散・割合を比較する。
・結果
経年劣化していない管路上において、以下の「土壌」「土地利用」が、漏水発生に影響を及ぼす可能性がある。
土壌:礫がち堆積物(段丘礫層)(洪積統)
土地利用:森林
 
■方針2:管路更新重要度が高いメッシュの提示
・目的
「管路劣化度」「漏水発生時の影響度」の観点から、管路更新の重要度が高いメッシュを特定する。
・分析手法
「老朽管比率・漏水箇所数・土壌・土地利用・人口・活断層・災害時利用施設」の7項目について、メッシュごとに評価を行う。
続いて⽼朽管⽐率・漏⽔箇所数・⼟壌・⼟地利⽤から「管路劣化度」を、⼈⼝・活断層・災害時利⽤施設から「漏水発生時の影響度」を評価し、それらを軸とした4象限マトリックスに全メッシュの評価結果を展開することで、重要度評価を実施する。
・結果
マトリクス上で「管路劣化度」「漏水発生時の影響度」のどちらも「大」に位置付けられたメッシュが、管路更新重要度が最も高いと傾向付けられる。

(4)目標に対する成果評価と今後の見立て

以上の検証全3ステップを通して、当初の目標に対する総合評価を行った。

漏水調査の「効率性」

漏水調査の効率性について、同調査距離あたりの「コスト」と「期間」を算出し、従来方式(音調調査)との比較を定量的に示し評価を実施。
結果、従来方式と比較し、「コスト」は約45%削減、「期間」は約50%短縮 となった。
 
これを踏まえ、将来的なコストの考察を行う。
今後老朽管はさらに増え、漏水量も年々増加が予想される。比例して損失コスト(漏水により発生する損失額を給水原価から算出)も増加する。同市の過去実績値から推算すると、今後現在の有収率を維持・改善することは容易ではない。
少なくとも今後5年後も現在の有収率(給水水量と料金回収できた水量との比率)を維持するには、漏水発見量を現在の1.51倍以上にする必要がある。それを実現するには隠れ漏水等を発見することが必要だが、ひとつの方法に捕らわれると限界がある。様々な方法を組み合わせて効率的に調査することで漏水発見量を上げ、損失コストの改善効果が期待できる。

漏水箇所発見の「位置精度」

今回のプロジェクトで発見に至った漏水箇所について、実際の漏水箇所と疑義箇所との差を距離で示すと、その差はある程度抑えられていた。
発見3か所中ロガー調査検出の2か所について、一方は30m、もう一方は15mの差であった。

今回発見した漏水2箇所のロガー設置間隔が、推奨値200m(*3)を大きく超えていた(⼀⽅は約600m、もう⼀⽅は約350m)ことを踏まえると、ロガー設置間隔の距離に比例してズレが大きくなることが検証できたと言える。これにより確認調査実施を前提で漏水有無を検出するのであれば、設置間隔を推奨値200m以上で設置し、より広い範囲を少ないロガー本数で実施することも可能と考えられる。
(*3:設置間隔が200m以内なら誤差1mで検出可能)

更新計画案のための活用データの有効性

情報統合表示プラットフォームによる分析では、多角的かつ新しい観点により、新居浜市が根底に抱えていた問題を抽出し見える化することができた。

本プロジェクトでは新居浜市の地域性が関係する結果もあったが、今後の管路更新計画において有用なデータといえるだろう。
今回は手動で計算・分析を実施したが、今後は自動化し、いつでも・誰でも・簡単に算出できるようにし、更新計画の精度を上げる一助となることを目指す。

(5)今後の展開と価値の発掘

同社は今回の実装効果を用いて、県民への安定した水道供給の「定着」を継続することを理想とし、本ソリューションを他自治体へも展開することを計画している。そしてそこから、以下の5つの価値の獲得を目指す。

1. 現在実施している漏水調査と比較して、コストメリットを得られること
2. 現在実施している漏水調査と比較して、期間的メリットを得られること
3. 現在実施している漏水調査では見逃していた漏水を発見できること(有収率向上へつなげる)
4. 現在GIS等データで管理している管路情報、漏水履歴情報をベースに、オープンデータ等と重ねて分析することで、管路劣化度、漏水発生時のリスクを可視化でき、管路維持管理において有効利用ができる新たな知見が得られること
5. 技術者の知見や技術的情報を可視化することで、人に依存しない効率的な技術継承ができること
 
上記実現に向けて、同社では県内水道事業体を対象にした勉強会を実施し、本プロジェクトの成果を共有するとともに、アンケートにより各事業体の現状把握と課題の整理を行った。その結果、多くの事業体で共通の課題を抱えていることがわかった。例えば漏水調査では「人手不足」「技術継承が困難」、管路維持では「経年化率の上昇」に対し「人手不足」「更新予算不足」等の課題だ。
そのいずれの解決にも「IT技術」活用が効果的であると、同社は推定する。
これから県下全域、さらには全国へのソリューション展開に向けて、ヒアリング・デモ・トライアルを実施し各事業体に適した手法を検討する。そして同社が掲げる理想とその「定着」を目指して取り組みは続く。

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