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林内ネットワークシステムを用いた林業現場の業務革新【株式会社ジツタ|実装報告】

木材の流通は、生産から供給までの過程で非常に多くの事業者が介在する。さらに山間部の施業現場は通信環境が万全ではなく、関係者間の状況把握や情報共有は容易ではない。現場に直接赴くしかないケースも多々あり、急な事態に即応できないことや、作業者の経験や技術力に頼らざるを得ないことなども起こるのが現状である。

株式会社ジツタは、林業におけるICT活用で多くの製品開発とソリューション実績を持つ「スマート林業」のエキスパートだ。本プロジェクトでは、久万高原町・久万広域森林組合とともに新たなネットワークシステムを構築し、デジタルによる林業現場の革新に取り組んだ。

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前年度までの検証結果

前年度(2022年度)は、次世代Wi-Fi通信とWEBカメラを用いたシステム構築により、情報共有や在庫・進捗状況のリアルタイム把握などを可能にした。

2022年度管理機能画面例(右下:Wifi通信機器)

導入効果を検証し、複数の観点からシステムの有効性を明らかにすることができた。

(1) 効率化の実現

作業進捗状況の管理、木材検収作業など、従来は実際に施業地に足を運ばなければならなかったが、伝送された画像や各種データを使って遠隔地にいながらにして行えるようになった。
現地への移動時間や交通・人的コストの削減、資料作成等にかかる作業負荷軽減などを実現できた。

(2) 可視化・精緻化の実現

画像データならびに具体的な数値によるデータのやりとりでは、まず業務を可視化できたことが大きな成果だ。リアルタイムでの状況把握と関係者間の情報共有を可能にし、タイムラグによるミスマッチや認識相違を回避できるようになった。
また同時に、正確性も向上した。検収作業を例にすると、AI技術を用いたシステム検収は、従来方法の手検収よりも短時間で算出できる。作業者の経験や能力による差異も発生しない。デジタル化の強みを活用できた結果と言えるだろう。

前年度の課題に対する今年度の取り組み

一方で課題も明らかになった。
例えば通信手段に用いたWi-Fiの設備は、複数台の設置を必要とし、コストも手間もかかる。ネットワークの安定確保はシステム基盤として必須であり、同時にイニシャルコスト・ランニングコストの削減も導入・稼働展開にとって重要な要件である。

抽出された課題に対して、今年度改めて検討を行い、解決へ向けた対策と新たな取り組みを実施した。

前年度(2022年度)の全体構成
今年度(2023年度)の全体構成

通信環境の再構築

今年度に入り、まず通信環境の整備において業界に動きがあった。KDDIが「Starlink」のサービス提供を開始したのだ。StarlinkはスペースX社が開発した衛星ブロードバンドインターネットで、通信が不安定になりがちな地域においても安定的な利用が期待できる。

本プロジェクトではそれまでのWi-Fi通信に変えてStarlinkを導入し、衛星インターネットサービスと無線通信を用いた林内ネットワークシステムを構築した。

Starlinkアンテナ・無線システム

アンテナを適切な場所に設置すれば安定した通信を確保でき、施業場所の移動に応じて通信機器を移動する際にも、Wi-Fiアンテナに比べて大幅に機材数が少ないため、機材にかけるコストも作業の手間も削減できる。施業現場における通信課題の解消へ、大きな前進である。

安全管理システムの新規開発

またプロジェクトでは、保有するシステム環境やデータを活用した更なる機能搭載の検討も行った。

昨年度は施業地の重機に端末を設置し施業進捗管理システムを稼働させた。端末が位置情報と画像データを自動的に記録し伝送することで、管理者が事務所にいながらにして施業地の進捗状況を把握できるようにした。

そして今年はそこに、新たに安全管理の機能を追加した。
施業&安全管理システムとしてさらに充実し、林業の作業効率化と安全管理機能の強化を同時に実現するものとなった。

この背景には、林業においてずっと重要視されている安全管理の問題がある。
林業における労働災害の発生率は、全産業の中で最も高い。

参考資料:林業労働災害の発生率 出典:農林水産省Webサイト(https://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/anzen/iti.html

死亡災害の発生率も高く、その要因のひとつは、携帯電話の通信環境が整っていない施業地が大部分を占めることから労働災害発生時の緊急通報や対応が遅れるためである。

解決のために今回新規開発したのが、緊急通報機能だ。
施業地の端末に搭載した施業管理アプリ画面に緊急通報ボタンを設け、これを押下すれば組合事務所へアラート発信されるとともに、事務所と消防など設定先へメールで位置情報が発信される仕組みだ。

緊急通報の確実性を高めるため、データ到達のタイムラグを発生させないシステム改修も行った。
本システムを使えば、携帯電話が通信圏外の施業地であっても、救助要請が必要な場合にその場で即座に通報できるようになる。人命に関わる事態を考えれば、非常に大きな利用価値があるといえよう。

実装検証の成果と今後

昨年までに実装済みの機能についても、今年度、改良や新技術の導入などを実施している。
AI丸太画像認識アプリを用いた木材検収システムでは、ハンディスキャナによる対象認識、3Dデータ取得など、新しい技術も採用した。業務上まだ従来方式からすべてをシステムに置き換えることは難しいが、今後さらに精度が上がれば、市場へ木材を運び込むことなく、中間土場や山土場で木材検収を行い取引を成立させることも可能になるかもしれない。

こうした継続事項も含め、各現場で様々な作業効率化の達成とともに、今後への期待感も含めた顧客満足度の獲得も実感している。

そしてシステムは、ここからまた新しいスタートを切る。
デジタル技術の導入やシステムの普及は、稼働フィールドにおける作業効率化やコスト削減の実現がゴールではない。その先に生産性向上や利益向上がある。
通信サービスや各種技術も、今後どんどん変化し進化していくだろう。
それは、限りない可能性と捉えられる。
デジタル化が容易ではない林業界において、このシステムが今後革命的に活躍の場を広げて行くことを期待したい。

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