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シェアすることで、もっと豊かに。人と人がつながるくらし。 Interview 小島雄一郎さん 後編

東京・清澄白河に建てたご自宅の一階に酒屋<いまでや清澄白河>を誘致し、その上階に“大家さん”としてくらす小島 雄一郎さん。後編では、場や所有物をシェアすることで、ゆるやかに広がる人と人とのつながり。個人店がもたらす魅力的な街づくりについて。あたらしいくらしのかたちを実践して3年目を迎える小島さんが今、思うことを伺いました。

>前編は、こちら。
「人生の”変数”を楽しみたい。自分に正直なすまいづくり。」


“小島さんの家”を起点に広がる、幸せの循環。

―  聞いた話によると、小島さんは一階をテナント貸しするだけでなく、二階から屋上までの居住フロアもレンタルスペースとして貸し出されているとか。

小島さん(以下、小島):旅行などで僕が家を不在にする間、貸し出しています。主に個人撮影やパーティーの会場として利用されているみたいです。あとは“ご近所割”をつくって近隣にお住まいの方が借りやすいようにしているので、お子さんがいるママさんたちが使ってくれたりしています。最近は、一階の<いまでや清澄白河>も定休日(月曜日)に貸し出して、スナックごっこができるプランもつくりました。

― すまいをフル活用されていますね! レンタルスペースとして貸し出すことで、これまでに何か困ったことはありませんでしたか?

小島:レンタルする人の使い方が悪いと、困ることはありますね。あくまでも個人宅なのでキレイに使ってもらいたいですし。なので、基本的には僕が対面で直接案内するようにしています。そのほうが遠隔で貸し出すときよりも、みなさんキレイに使ってくれるんですよね。

レンタルスペース利用者に向けたハウスルールをまとめた「小島さんの家の使い方」。

ー たしかに。顔を直接合わせたら「この人が住んでいる家なんだ」と意識しますものね。小島さんはレンタルスペースをはじめる前から、ご自身のプライベートな空間や所有物をシェア(共有)することにあまり抵抗はなかったのですか?

小島:そうですね。もともと、自分だけで“もの”を占有することがあまり好きじゃないんです。家電なども、みんなが気になる話題のものを買うようにしていて。そうすれば(家に訪れた)みなさんに使い勝手を体験してもらえて楽しいじゃないですか。

それに、シェアすることで関係人口も増える。たまに一階に来たお客さんが「じつは、小島さんちをお借りしたことがあるんですよ」と、声をかけてくれることもあって、それもまたうれしかったりするんですよ。

ー なるほど! レンタルスペースとして家を貸しても、利用者の方と再会することはあまりないと思うのですが、一階に店舗があるからまた会えるんですね。

小島:そうなんです。本来、レンタルスペースの予約サイト経由で借りた人の情報は貸す側としては分かり得ないのですが、一階に店舗があることで副次的な効果が生まれています。僕の家を借りた人が一階でお酒を買ってくれたらうれしいですし、角打ちに来たお客さんには「上も借りられますよ」ってスタッフが教えてくれて、後日レンタルスペースを利用してくれることもあります。

 一棟の中で、ゆるやかな循環が生まれているのですね。ところで<いまでや清澄白河>は、商店街からは少し離れた住宅地にありますが、みなさんどのように知って来られているのですか?

小島:ほとんどが口コミですね。「近所のお店で教えてもらった」と来てくれる人も多いです。<いまでや清澄白河>は、20時半には閉まるので「この後もう一軒飲みに行くなら、あのお店がいいですよ」と、逆にオススメすることもあって、お互いにお客さんを送り合っています。

個性豊かな「自分の店」が増えることで、街はもっと面白くなる。

屋上にはバーベキューセットがあり、レンタルスペースの利用者も使うことができる。

― 清澄白河に住んでいて感じる、この街の魅力は?

小島:もともと清澄白河は、木場で採れた木材を小名木川の水路にのせて江戸のほうまで運ぶ途中に、人々が立ち寄った場所。そんな歴史的背景があってか、オープンマインドな人が多い気がしますね。また、その当時の名残で、今は使われていない天井の高い倉庫がたくさんあるのでギャラリーも多いです。美術館もあるし、アートが好きな人にはいい街ですよね。

― 清澄白河といえば、近年はお洒落なカフェやコーヒースタンドが立ち並ぶエリアとして若者にも人気ですよね。

小島:若者や、あたらしい世代による地域コミュニティが生まれはじめている感じはありますね。もともと個人店が多い街なので、知り合い同士のネットワークも強い。前編で話したような、ゆるい「一見さんお断り」のような文化も残っているから、はじめは大変な部分もあるけれど、一度コミュニティに馴染むことができれば、そこからどんどん繋がっていけるよさはありますよね。

リビングの窓から見える、夕暮れの景色。
向かいには、創建1658年と伝わる由緒あるお寺が見えたりと下町の風情が感じられる。

ー 2021年の8月に<いまでや清澄白河>をオープンされて、今年で3年目。現在のくらしも充実されていて楽しそうですが、今後何か挑戦してみたいことはありますか?

小島:二拠点目をつくってみたいですね。以前、那須にキャンプで行ったのですが、東京からのアクセスもいいですし、自然豊かで雰囲気がよかったのでいいかもしれない。

ー 別荘地ですね。そのときには、また店舗付きでつくりたいですか?

小島:店はぜひ入れたいですね。僕、こうして<いまでや清澄白河>をやってみて思うんです。みんなも、店をやればいいのにって(笑)。

ー みんなもお店、できますかね(笑)。

小島:「店舗併用型住宅」は、住宅ローンの適用範囲として認められているんですよ。金融機関によって規定は異なると思うのですが、基本的には店舗スペースが総面積の半分以下であれば、住宅ローンとして融資してもらえる制度があります。

ー それ、ほとんど知られていないと思います…! 基本的には「自分で店舗を営業する人」向けの制度なのでしょうけれど、小島さんの場合は一階の大家として得た家賃収入を住宅ローンの返済に充てることもできるということですよね。

小島:できちゃいますね。一階の家賃収入を差し引いた月々の返済も、レンタルスペースの収入も含めると、かなり抑えることができます。

ー すごい財テクですね(笑)。

小島:自分の店を開くのって、それだけで生計を立てようと思うと難しいのかもしれないけれど、やり方はいかようにもあると思うんですよね。あとは、やってみようという気持ち次第!

ー 「自分だったら、何がやりたいかな」って考えてみるだけでもワクワクしますね。小島さんだったら、これから新たに「自分のお店」を開くとしたらどのような業態がいいと思いますか?

小島:考え方としては「コンビニにないもの」を扱う店がいいと思います。これからの世の中、どんどん属人的になってくると僕は思っているんです。だから「自分が好きなものだけを置く」というテーマで店づくりをすることで、あたらしい個人店のスタイルが生まれてくると、面白くなるんじゃないかな。それこそ、株式会社いまでやは“流通のクラフト化”をテーマに、店舗展開をしているんですよ。

ー 流通の“クラフト化”?

小島:株式会社いまでやは現在、全国に6店舗を展開しているのですが、出店計画はどれもバラバラで。「ここで上手くできたから、他の店舗でも再現しよう」という考え方をしないんです。 

ー つまり、コンビニやショッピングセンターのように「どこへ行っても同じものがある」ということが流通・小売りの概念なのに対して、それだけでは括れない新たなスタイルをつくろうとしている?

小島:それぞれに、その場所ならではの個性を感じられる店が生まれればいいなと。そんな想いから株式会社いまでやでは、今年から「IMADEYA Select」という個人店向けに株式会社いまでやで扱うお酒の一部を提供するサービスをはじめました。
お酒のいいところは、何とでも掛け合わせやすいところ。このサービスを活用することで、今までお酒を扱ってこなかったお菓子屋さんやカフェなどでも、スイーツに合うお酒を提供できるようになります。

ー 小島さんが<いまでや清澄白河>で培った経験が活かされていて、これもまたノウハウの“シェア”ですね。お酒を気軽に楽しむカルチャーの裾野が広がりそうです。

小島:実際に店舗がお酒を扱おうとすると、酒販免許は取れても、酒造メーカーから卸してもらうことが難しいんですよ。急に「うちの店でお酒を取り扱わせてください!」とお願いしても、容易には仕入れられない。あと、酒業界には特約店制度というのがあって「ここにしか卸さない」って決まっていたりもするんです。

ー 生産者としても、ちゃんと美味しく提供してほしいし、正しく飲んでほしいですものね。そこを株式会社いまでやさんが間を取り持ってくれることで、販路を広げるハードルも下がりそうですね。

小島:そうですね。お酒に限らず、そうやって柔軟な仕組みが生まれることで、もっと個人が店をはじめるハードルが下がるといいですよね。スーパーやコンビニには売っていないものが売られるようになれば、街にも新たな個性が生まれて、社会がもっと面白くなるんじゃないかなと期待しています。

― 最後に、小島さんの「旅や移動のお供」をご紹介いただけますか?

小島:海外に行くときには、着物を着るルールにしているんです。着物の魅力を、もっとも発揮できる気がするので。 男性の着物は、着付けもすごく簡単で30分もあれば着られるんですよ。 後輩の結婚式で行ったハワイや、今年は韓国にも着て行きました。

銀座の呉服屋<銀座もとじ>の着物。
「酒ときもの」というテーマで株式会社いまでやとイベントをしたご縁がきっかけで購入。

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Photo: Ayumi Yamamoto

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