見出し画像

素顔の自分に戻れる、もうひとつのふるさとがある幸せ。 「カラリト五島列島」代表 平﨑さん対談 | 後編

「n’estate(ネステート)」の新たな拠点に追加される長崎県五島市のホテル「カラリト五島列島」を運営する株式会社カラリト代表の平﨑雄也さんと「n’estate」プロジェクトリーダー櫻井による対談の後編をお届けします。都市と地方を行き交うことで生まれる価値、5月からスタートする「n'estate with kids」プランへの意気込みなどを伺いました。


>プロフィール&前編の記事はこちら
「そのままの自分でいられる豊かさを、この島が教えてくれた。 」

櫻井:前編に引き続き、五島列島の魅力について聞かせてください。移住してみて、他にどんなことを実感しましたか?

平﨑:自然の豊かさとか、食とかいろいろあるけれど、例えば僕のように移住した人からすると、福岡や長崎といった都市とのアクセスがいいところも魅力かな。飛行機で30分、海路でも高速船を使えば1時間半くらい。意外とすぐに行けちゃうんだという、気軽さは強みですよね。

あと、島の人々の器が大きいところかな。来るもの拒まずといった雰囲気があります。長崎県は出島などの国際的な貿易の窓口だった歴史もあるし、五島列島は江戸時代に多くの潜伏キリシタンが移り住んだ場所でもある。そうやって島に訪れた人にご飯を分け与えたり、芋のつくりかたを教えていたという文献も残っていて。だから、困っている人を見捨てないとか、みんなで助け合おうと言った精神が宿っているのかなと思います。かと言って決してしつこくはなくて、それが居心地いい。

櫻井:それって結構重要なポイントな気がします。クローズドコミュニティすぎると、少し入りづらかったりするし。そういえば「カラリト」と言う名前も、ジメジメしてない、カラリとしたという意味合いも含まれているんだよね。

平﨑:そうそう。司馬遼太郎の小説の中に「からりと晴れた空のように」と言うような一節があって、それを思い出して付けました。一回きりの人生だからカラリと、たのしく生きたい。ここに来ると気持ちいい風が吹いていて、自分らしく戻れる。そんな場所になればいいなと。

「カラリト五島列島」のオペレーションや接客スタイルも、その考え方がベースにあって。人と人が出会って気持ちを通わせることで、はじめて心理的な安らぎって生まれると思うんです。

これは実際にあった例なんだけれど、僕たちスタッフがゲストと一緒にお酒を飲んだり、焚き火を囲んでスタッフからゲストに人生相談をしてみたり。従来のホテルではありえないかもしれないけれど、そうやってゲストとスタッフが一体になってその場をつくって一緒に楽しむような関係性があってもいい。

ただホテルに宿泊するという体験だけでは、また訪れたい場所になるのはなかなか難しいかもしれないけれど、そこであたらしい知り合いができたとか、ゲストとスタッフの関係を超えてたのしく過ごせたとか、人対人の時間をつくっていくことで「また帰りたい」場所になっていくと思うんです。
だから自分たちはゲストのみなさんに対しても、変にかしこまるのではなく、できるだけ等身大で会話し合えるような関係でありたいし、そんな人と人のプラットフォームをつくっていきたいですね。

僕自身が20代の頃に思い描いていた「九州を発展させる」こととアプローチは違うかもしれないけれど、その方が本質的に人が行き交うようになるんじゃないかなと思っています。

つくられた体験では得られない。偶然のできごとこそ、思い出になる。

櫻井:まさに「n'estate」のサービスも、旅行や長期滞在の拠点を提供するのではなくて、そこに「くらし」があることが重要だと思っていて。そのためには、今平﨑さんが話してくれたように、場をつくるだけでは足りないと思っています。そこで人と人がどのようにつながっていくのか、その先に生まれていくものってあると思うから、そう言った意味での場づくりを一緒に考えていけるパートナーとして、これから「カラリト五島列島」ともコラボレーションしていけることがとても楽しみです。

平﨑:その場ならでの体験という意味で“何を”したかももちろん大切だけれど、結局はその体験を“誰と”したかがすごく大事。
あらかじめ用意されている体験メニューって、ある程度は事前に想像することができて、実際に来て確かめる行為に近い。でも、僕たちが提供したいものって、そう言った枠組みの外にある偶然の体験だったり、出会いや会話だったりする。それが一番思い出に残ると思うんですよね。

今回の「n’estate with kids」プランも、ただ保育園に預ける、ただカラリトに泊まるってことだと思い描いたサービスにはならないと思うから、連携させていただく以上は、カラリトのスタッフたちがゲストのみなさんと仲良くなって、安心してプランを使ってもらえるようにすることを第一に考えています。

櫻井:とても心強いです。今後は保育と言う切り口以外にも一緒に何ができるか、いろいろと考えていきたいよね。
「n’estate」 では、そういう"体験"も含めて、すまいの自由度を高めることで働き方や生き方、一人ひとりの人生の能動的な選択肢が増え、ウェルビーイングの向上につながっていくと考えています。平﨑さんは、ウェルビーイングな生活ってどんなものをイメージしますか?

平﨑:ひとことで言ったら「つながり」かな。家族とか親戚とか、仕事仲間とかいろいろなつながりがあるけれど、損得勘定がない素の自分に戻れるつながりや場所があるかないか。
それを私は「ふるさと」という言葉でいつも表現するのだけれど、やっぱりもうひとつ、もうふたつのつながりを持っていることが必要で、それによって人の幸福度って変わってくると思うんだよね。
何かあったときに追い込まれてふさぎ込むんじゃなくて、もうひとつ逃げ込める場所がある人はきっと生きていける。

ときには逃げたっていい。都市と地方に居場所を持つことの価値。

櫻井:そのためにも、自分がほっと落ち着ける、第二第三の居場所を「n'estate」でもつくっていきたいと思っているし、そんなくらしが世の中に浸透していけばいいよね。人生のセーフティネットというか。僕自身、今の都会での生活が立ち行かなくなったら、五島でもきっと暮らしていけるなって思ったりするもん(笑)。

平﨑:現代社会って「逃げちゃダメだ」という感覚が、日に日に強くなってきている気がしていて。SNSで他人と比べるようになって、負けちゃいけない、見えない何かとの競争をずっと強いられているような。その強迫観念から解放された時に、ほっとできるんじゃないかな。

一生懸命やらないことと、逃げることって違う。自分らしさから遠ざかり、鎧を着て生きるというところとは対極のところにウェルビーイングのヒントはあると思っています。

平﨑:そもそも、拠点の捉え方が今後どんどん変わっていくのだろうね。ワーケーションって、地方を第二の拠点としてリフレッシュしながら働くというイメージがあるけれど、五島列島にはそこが逆転している人が多い。島では自然とともにあるシンプルな生活をたのしみながら、ときどき都市に出てインプットしたり、働いたり、刺激を得て帰ってくるような。

櫻井:拠点を持つことの意識は、今確実に変わって来ていると思います。この前も、うちの若手の社員から「n’estateって、都市居住者向けだけのサービスなんでしたっけ?」と聞かれたことがあって。聞けば、その社員は一応東京にも家はあるんだけれど、サーフィンが趣味だから関東近郊でシェアハウスをしていて、そこからでも会社に通えると。つまり、もう生活の基盤が都会中心の価値観では測れなくなってきている。一拠点目は遠くにあって、二拠点目を都心に置くというライフスタイルでもいいじゃないかと。だから、五島列島と東京の二拠点という生活もそう難しいものではないのかもしれない。

平﨑:イギリスには「カントリージェントルマン」という考え方があって。田舎の別荘に住み、その土地に根ざして、土地を守り育む者こそが紳士として誇り高いであるという。それって、すごくいいよなと。

多拠点生活って、考え方は素晴らしいけれど、実践してみるとなかなか大変だと思う。引っ越せばいい、転職すればいいって、そんなに簡単なものじゃなくて、私たちの生活っていろいろな目に見えないものに縛られているものだから。一拠点目から離れにくくなっちゃっているんだよね。

だからこそ、はじめは選択肢がひとつじゃなくてふたつ、三つとあった方がいいし、そのなかからお気に入りを選ぶことができる「n'estate」のようなサービスがあると、それだけでも十分にウェルビーイングは向上していくんじゃないかな。

大好きな島だからこそ、自分たちにできることに全力で向き合いたい。

櫻井:ちなみに株式会社カラリトは、昨年五島列島にホテルをオープンしたばかりですが、今後の展望は?

平﨑:五島列島以外の場所にも、九州全域に拠点を増やしていきたいと思っています。でも、ホテルをオープンしてみて、地域に根付いて活動していくことの難しさも痛感していて、どうしてもペースはゆっくりになってしまいそう。そのぶん地域でできること、関われる部分を増やしていきたいと思っています。

例えばパーク型の映画館とか、音楽ライブとか。地域にそういう声があってもなかなか実現できてこなかったものを、島の人や子どもたちに見せてあげたり。もっと生産者の方々とつながって、彼らの手が回らない部分をサポートしてみたり。本業とは離れる部分もあるかもしれないけれど、好きではじめた地域のことを思うと放っておけない問題がいろいろ見えてくる。そういったところにきちんと向き合って、実行できる会社でありたいと思っています。

櫻井:僕も「n’estate」を通じて、地方や郊外のプレーヤーの方々と交流する機会が今まで以上に増えて、魅力的な拠点や人はたくさんいることを再認識しました。
その中でも、今回新たに連携することになった「カラリト五島列島」や山形の「スイデンテラス」の何がすごいかというと、地域の課題にしっかりと向き合って、地元の人たちだけでは背負いきれていなかった部分を、しっかりと担っていること。
そうやって地域に根付いて活動してくれているからこそ「n’estate」を使ってその地にはじめて訪れるお客さんも、安心して地域の輪に入っていけるに違いないと感じました。

平﨑:極端な話、次に来島するときは「カラリト五島列島」に泊まらなくても、それでいいと思っていて(笑)。「n’estate with kids」での体験がきっかけで、福江島や五島列島を好きになってくれる人がいたり、ライフスタイルを多様化させるひとつの選択肢に加えてもらえるのであれば、もう万々歳です。五島列島にはじめて来られる方も多いと思うけれど、「来てよかった」と必ず思ってもらえる自信があるし、その方々とのつながりをきちんと持ち続けたい。

櫻井:僕自身「カラリト五島列島」には何度も足を運んでいるけれど、ここに来れば誰かがいい人、いい場所、いい何かを繋いでくれるって期待してしまう自分がいて。行くたびに何かアップデートされていくような、ワクワク感があるんですよね。そして、滞在していないときも、頭のどこかで考えている、というか。あ、ふるさと納税もバッチリと五島市にしていますよ! 立派な関係人口です(笑)。
最後に「n'estate」を利用する方々にメッセージがあれば、お願いします。

平﨑:「カラリト五島列島」はまだできたばかりのホテルなので、「n’estate」というプラットフォームを通じて「くらし」の観点から中長期的に滞在するゲストをお迎えできること、お話ができることが、僕たちもとてもうれしいし、スタッフのみんなが楽しみにしています。

「n'estate with kids」プランがスタートする5月は、初夏の到来を感じさせる季節。サップやカヤックなどがはじまる時期なので、アクティブな体験もたのしむことができます。個人的なおすすめは、やっぱり鬼岳。青々とした新緑におおわれた鬼岳に登って、気持ちいい風を感じながら、島の景観を満喫してほしいですね。

>「カラリト五島列島」で、家族みんなの特別なひとときを。
保育サービス付きの「n'estate with kids」プラン

> サービスや拠点について、さらに詳しく。
「n'estate」(ネステート)公式WEBサイト
「n'estate(ネステート)」 Official Instagram

いいなと思ったら応援しよう!