日本代表は彼に警戒すべきだ! 4000kmの旅路を原動力とする“スペインの新星”〜FWニコ・ウィリアムズ編〜
FIFAワールドカップカタール2022・グループステージは、いよいよ佳境に差し掛かった。すでにふたつの“ジャイアントキリング”が起こったこともあり、大混戦の様相を呈しているグループもある。そして、そのうちのひとつがグループE。そう、日本代表がドイツ代表から大金星を挙げたことで、決勝トーナメント進出の可能性を最終節スペイン戦にまでつないだのだ。
『まだ見ぬ景色を2022』を標榜し、その最中に待ち受ける“最大の難所”に挑む日本代表。今回は、第1弾GKウナイ・シモン編に続いて、もうひとりの要注意選手を紹介していく。
最終決戦を前に
日本代表は第2節終了時点で、1勝1敗の勝ち点3でグループ2位につけている。初戦のドイツ戦では下馬評を覆した日本代表だが、続く第2節コスタリカ戦で痛恨の敗戦。勝ち点を積み上げることができずに、最終節を迎えることとなった。
その一方で、スペイン代表は初戦のコスタリカ戦で大量7得点を挙げて、“無敵艦隊”復活の兆しを見せている。グループ“最大のライバル”ドイツ代表との第2節でも最低限の勝ち点1を上積みし、最終節を前に、1勝1分の勝ち点4でグループ首位に立っている。
そして最終節で、日本代表とスペイン代表が、ドイツ代表とコスタリカ代表が、それぞれグループステージ突破をかけて対戦する。日本代表が自力で決めるには、スペイン代表に勝つしかない。引き分けの場合はもうひと試合の結果次第に、負けた場合は帰国の途につくこととなる。
4000kmの旅路の果てに生まれ落ちたこの場所から、青年は“壮大な夢”へ走り続ける
●プレースタイル
ニコ・ウィリアムズの特徴は、両利きであることだろう。ドリブル、ボールコントロールやシュート精度も魅了的な同選手だが、その全ては遜色なく両足を扱えるからこそ。デビュー当時は縦に勝負することが多かったが、ここ最近では中に切り込み、味方との連携や個人技で打開するシーンも多く見受けられる。なかでも、カットインからのシュートという新たな武器は、ニコ・ウィリアムズを数段上のレベルの選手にまで押し上げた。今年7月に行われたプレシーズンマッチのマインツ戦では左サイドからカットインし右足で、ラ・リーガのエルチェ戦では右サイドからカットインし左足で、それぞれゴールを決めている。
さらにもうひとつ、スピードも同選手の特徴だ。アトレティック・クルブに所属し、ガーナ代表としてW杯に出場している実兄のFWイニャキ・ウィリアムズのスピードには劣るものの、対峙した相手DFを振り切りるだけのエンジンを備えている。
●経歴
2022年7月12日生まれのニコ・ウィリアムズは現在20歳。ガーナ人の父親とボリビア人の母親の間に生を受けた。幼少期はスペイン北部の都市パンプローナで育ち、同都市に本拠を置くオサスナの下部組織に入団する。2013年に、イニャキ・ウィリアムズとともにアトレティック・クルブの下部組織に移籍すると、『レサマ』で研鑽を積んだ。バスコニア(Cチーム)、ビルバオ・アトレティック(Bチーム)と着実にステップアップし、2021年4月にトップチームデビューを果たした。
2021-22シーズンはマルセリーノ・ガルシア・トラル前監督(2022年夏に退任)の下、当初は“ジョーカー”的な役割を与えられていた。そんな中で、スーペルコパ・デ・エスパーニャのアトレティコ・マドリー戦やコパ・デル・レイのバルセロナ戦などでの活躍もあり、徐々にプレータイムを増加させていく。
そして迎えた今シーズン、エルネスト・バルベルデ新監督の信頼を勝ち取り、ここまで公式戦15試合のうち14試合で先発出場し4ゴール3アシストを記録。今年9月にはスペイン代表に初招集されると、UEFAネーションズリーグ ポルトガル戦でFWアルバロ・モラタの決勝点をアシストした。その勢いのまま、同選手はカタールW杯行きの切符を掴み、コスタリカ戦、ドイツ戦ともに出場している。
スペインの“新星”として大ブレイクを果たしたニコ・ウィリアムズ。その成功の裏側にあるのは、スペインへの移住を決断した両親への感謝の思いだ。同選手の両親は、戦禍にさらされる母国から北上し、サハラ砂漠を横断するなど命懸けの逃避行の果てに、スペイン北部の都市ビルバオに辿り着いた。ニコ・ウィリアムズは、両親の存在が原動力になっていることを、スペイン紙『アス』に明かしている。
両親が歩んだ4000km(ガーナ〜ビルバオ)の過酷な逃避行の果てに、スペインで生まれ落ちたニコ・ウィリアムズ。この場所から今度は、ニコ・ウィリアムズの“恩返し”という壮大な旅が始まる。