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『聞く技術 聞いてもらう技術』@東畑開人

昨年ぐらいから『聴く』についてのワークショップ
に参加するようになりました。

ワークショップに参加するようになって
初めて自分は普段どのように聴いているかがわかりました。

聴き方というのも様々であり

「発せられた言葉をそのまま聴く」だったり

「言葉の背後にある想いなどに意識を向けて聴く」だったり

「語っているときの表情などに注目しながら聴く」だったり

「自分自身の体験と重ね合わせながら聴く」だったり

上記の聴き方の中で、普段私は自分自身の体験と重ね合わせながら聴くことがほとんどで、それだけに感情移入して聴いてしまっていたようです。

だから、テレビドラマや映画を観ていて、登場人物に感情移入してしまい、泣いたり笑ったりしてしまっていたのかなと思います。

このことは、観ている時間はその世界に没入して、現実の自分から遠ざかっているので、何か嫌なことがあっても、そのことから離れて忘れられるというメリットがある反面、自分ごとのように疑似体験してしまうので、辛いストーリーを見続けることができなくなるというデメリットがあります。

私は対人支援の仕事についたことがないのですが、もし自分がいまのまま対人支援の仕事についたら、毎日クライアントさんから語られる辛い出来事を疑似体験してしまって、心身ともに疲弊していくのではないかと思っていました。

なので、心理学をもっと学びたいという気持ちがありながらも、自分がいざそれを仕事にするとなったら、やっていけるのだろうかという不安にも駆られていたんです。

なのに、なぜ聴くことを学び始め、産業カウンセラーという支援職の資格を取ろうとしているのか?

それは、人に関する部署である人事総務部で仕事をしたり、これから社会保険労務士としてクライアントの話を聴く場面が想定されたからということもありますし、プロボノとして活動している中で誰かの話を聴くことが増えたからでもあります。

聴き方というものを学んでみたら、その場にふさわしい聴き方ができるのではないかと思いました。

実際、学び始めてみると、いままで自分がどのように聴いていたかがわかりましたし、他の参加者の方がどのように聴いているかを目の当たりにすることで、自分がやってみたい聴き方を技術として習得することもできそうな気がしてきています。

そんな学びの途中に、なるほどと思えるような書籍に出会いました。
臨床心理士の東畑開人さんの『聞く技術 聞いてもらう技術』です。


東畑さんは本書の中で、「聞く」を考える上で最重要な区分けが、孤独と孤立のちがいと言っています。

孤独には安心感が、孤立には不安感がある。

孤独の場合は、心の世界でも自分ひとりであるのに対して
孤立の場合は、心は相部屋にいる。

外から見ると、どちらもひとりでいるように見えるけど、孤独の場合、心は鍵がかかる個室にいて、外からの侵入者におびえる必要がないが、孤立の場合は、部屋に嫌いな人、怖い人、悪い人が出たり入ったりしているので、ずっとおびえているとのこと。

そうした想像上の悪しき他者がいるせいで、「あいつは俺を馬鹿にしている」「あの人から嫌われている」「私なんかいない方がいい」という声に脅かされてしまう。

でも、カウンセリングを受けて、カウンセラーに自分の気持ちを言えるようになったり、家族や職場で理解されてゆっくり休めるようになってくると、悪しき他者の存在が消えて孤独な状態になれる。そうすると、人の話も聞けるようになってくる。

不登校やひきこもり、うつ等のメンタル不調の場合も、当初は孤立状態にあり、ずっと心の中に悪しき他者がいて、自分のことを責め続けている。そんなときに家族や職場の関係者が何を言っても、本人は話を聞ける状態ではないわけですね。

また、子どもが不登校になっている場合には、親の支援も大切で、第三者が親の苦労を聞くことができて、親の言葉がやわらかくなり、本人の周囲が平和になってくると、現実の他者が必ずしも危険ではないとわかって、少しだけ学校の怖さがゆるまるとも書いてありました。

だから、不登校にもひきこもりにも親の会があるんですね。まずは第三者が家族の苦労を理解し、話を聞いてくれることによって、家族が孤立から解放され、その家族の理解によって、本人も孤立状態から徐々に孤独になり、自分のことをゆっくり考えられるようになっていく。

ただし、東畑さんはこの回復には時間がかかると言っています。実際、不登校やひきこもりの期間が長引けば長引くほど、回復までに時間がかかると思います。でも、ゆっくりであっても少しずつ前に進んでいくはずですので、焦らないことが大切ですね。

本書の中で最も印象に残った一節を以下に記します。

誰も自分の話を聞いてくれないと思うとき、社会は敵だらけの危険な場所に見える。すると、当然のことながら、他者は悪魔的に見えやすくなる。だけど、もし誰かが十分に聞いてくれたならば、世界には理解してくれる人「も」いると思える。その信頼感が悪魔的に見える人にも人間的事情があるかもしれない、と想像されてくれる。それが「聞く」を再起動する。

「聞く技術 聞いてもらう技術」東畑開人著


「聞く」ことの重要性を教えてくれる一冊でした。