大福の喜び
大福は、朝から自分を買いにきてくれる人を待っていた。
だって、大福は固くカチカチになったら美味しくないし、大きな福をできたてだとより濃く届けてあげられるからだ。
そう、大福は自分には買って食べてくれた人には大きな幸福が訪れる力があることをずいぶん前から知っていた。
食べてくれた人に、大きな幸福を届けられることで役目を果たせたことに安堵をするのだ。自分が食べられてしまっても、自分の魂は新しく創られた大福に新たに生まれ変わり、新しい人に福を届けるのだ。
とある日、朝1番に大福を買いにくる中学生の女の子がいた。
「珍しく若い子が来たなぁ。理由があるんだろう。福が届きますように。」
と、心の中で呟いていたらその女の子は大福を2つ買っていった。
その大福をバックに入れ、自転車に乗った。
「今日は確か休日だから、どこかに行くのかな?」
大福が思いを巡らせていたら、とある大きな病院の前に着いた。
女の子は自転車から降り、バックを肩にかけ、病院の入り口に入って行った。
そして、1階のエレベーターに乗り、3階のボタンを押す。
「誰かのお見舞いかな?」
エレベーターが開き、女の子は右方向へ向い、とある病室前に着いた。壁には女性の名前が記されていた。
「先生〜!こんにちは。」
女の子は中にいる女性に声をかけた。
女の子は、学校の先生のお見舞いに来たのだった。
彼女は、特にその先生が好きだったのだ。
なぜなら、女の子は自分は学校の勉強も大していい成績も取れないし、楽しいと思えるのは給食と、友人とのお喋りだったから、学校の授業には面白みを感じていなかった。ところが国語の時間に教科書のある部分を読んで欲しいと、先生はその女の子を指名したのだった。
彼女は、主人公の気持ちがよくわかったので感情が自然とこもり、夢中になって教科書の一説を読んだ。
読み終わった後、先生が
「あら、とっても読み方が主人公の感情が表現されていて良かったわ。上手ね。また、読んで欲しいな。」
と言ってくれた。
周りの同級生も、とっても褒めてくれたのだ。
それ以来、女の子は国語の時間の物語の一説を読むという時間が好きになった。自分が必ず読めるわけではないけど、読める時には張り切って読むようになった。
学校生活で、楽しみが増えた女の子は先生も好きになった。しかし、ある日先生が朝1番の授業になっても来なかったことがあった。
「どうしたんだろう、先生」
「なんか、体調を崩して入院したらしいよ。」
同級生の会話が耳に入ってきた。
女の子は、お見舞いに行こうと決めた。
そう決めてから、週末に家の近くの和菓子屋に寄り、大福を買ってお見舞いに行くことにした。確か、先生は和菓子が好きって言っていたから。
そんな背景があり、彼女は病室に入り先生に声をかけた。
「あら〜、わざわざお見舞いに来てくれたのね。しかも、私の好きな和菓子を持って!」
そして、先生は女の子に一緒に大福を食べようと誘ってくれた。
大福は、
「女の子が好きな先生が、元気になって、また学校に戻れますように。」
と祈り、2人はその大福を一緒にほうばり、いろんなことを話した。
その後、大福のおかげか、先生は段々と体調が良くなり、学校にも戻れるようになった。
「よかった〜!また僕は福を届けられたな。じゃあ、次はどこの人達に幸福を届けようかな。」
と呟き、別の和菓子屋の大福の中に魂が入り生まれ変わるのだった。
おしまい🍡
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