あまとみトレイル備忘録
2024年5月3日~5日の日程で念願だったあまとみトレイルを歩いてきました。
トラブルもあったけど、無事(無事なのか?笑)完歩することができ、ゴールの瞬間は涙がこぼれそうになりました。
これはその備忘録。
1.1日目(2024/5/3)
準備
旅の始まりはJR飯山駅から。
自宅を午前3時に出発して、6時に駅前の市営駐車場に到着。
さすがに眠い。
ロングトレイルと言えばショートパンツだろうと思って一応持って行ってはいたが、夜の寒さを考えて3日間いつものズボンで通すことにする。
飯山駅は新幹線が停まるからか思っていたよりも大きな駅でまだ新しく綺麗だった。
何でも大阪市と姉妹都市とのことで、駅舎のいたるところにあの気持ちの悪いキャラクターがフィーチャーされた万博のポスターが掲示されてたのには辟易したけれど。
それにしてもザックが重い…。
予定通り6時40分発の在来線に乗り込み長野駅へ向かう。
前半戦(善光寺~里を繋ぐトレイル)
7時28分に長野駅に到着し駅に降り立つ。
山を始めた3,4年前までは、こんなふうに大きなザックを背負って長野駅に立つなんて想像もしなかった。
それはこないだ行った能登町のボランティアや昨年の槍ヶ岳や八峰キレットも同じこと。
山は俺を思いもしないところに連れて行ってくれる。
まずは善光寺を目指して歩き始める。
駅から延びる道それ自体が参道を模したような雰囲気で、自分のようなハイカーには似つかわしくないなと思いつつも気持ちよく歩く。
雲ひとつない晴天で、この旅が素晴らしいものになる良い予感しかしない。
初めての善光寺は歴史を感じさせる美しい建築物だった。
それにしても線香のところで手で煙を体の痛いところに持ってきてしまうのはなんでなんだろう。
善光寺を抜けてしばらく普通のアスファルトの道を歩いて高度を上げていく。
岐路にあるプレートが思っていたよりも小さい上にマップブックと連動しているわけでもないため、序盤から何度かルートをロストしてしまうが、やがてトレイルに入り、里と里を繋いで気持ちよく歩いていく。
里を歩くときは遮るものがなく日光をまともに浴びるので、日傘を持っておけばよかったと思った。
里の風景は美しかった。
リンゴの花の白、八重桜の鮮やかな桃色、真っ青な空、若々しい新緑の緑、菜の花の黄色。その美しい風景の中で暮らす人々の日々の確かな営みとその横を通り過ぎるハイカーという構図を思い浮かべ、何かロングトレイルというものの本質に少しだけ触れたような気がした。
リンゴの木は花だけではなくて木それ自体も白いんだということを初めて知った。そして自販機という文明の利器がそこら中にあるのが当たり前ではないことも(笑)
出発して約4時間。
戸隠神社一の鳥居手前の駐車場で、町中を出てから初めての自販機に遭遇。この激しい喉の渇きを癒してくれそうな一番刺激の強そうなパインソーダのボタンを若干喰い気味に押すも、何故か緑茶が出てきて号泣。
膝から崩れ落ちる。
後半戦(戸隠古道)
後半戦は戸隠神社へ続く戸隠古道を歩くセクション。
自分は全くスピリチュアルな人間ではないけど(妖怪と宇宙人の存在は信じている程度にはスピリチュアル)それでも歴史の重みとある種の荘厳さを感じざるを得ない道だった。
平安時代や鎌倉時代にこの道を歩いた巡礼者たちが一体何を思いながら奥宮を目指したのか、現代に生きる自分には分かるはずもないけれど、魂の奥深いところで古の巡礼者と交わるような不思議な感覚だった。
例えて言うならダークソウルで他のプレイヤーの死を追体験するときのあの感じ。
それにしても戸隠神社!点在にも程があるだろ!
宝光社から中社までが2km、中社から奥社参道口の鳥居までが2km、そこから随神門までが1km、そこから奥社までさらに1kmて(笑)
個人的に一番素晴らしいなぁと感じたのは奥社の鳥居から随神門までの道。
道の両側に小川が流れるのどかな田舎道なんだけど、同時に身の引き締まるような感覚もあって、例えば明治神宮のようなある種演出された崇高さとは全く無縁の、本当に古くからの土着の守り神のようなそんな神社なんだなと肌で感じ理解した。
日が傾いて若干暑さも和らぐ中、随神門からはしんとしたカラマツ林を歩く。
誰もいない林の中を、雪解け水で勢いの増した小川の流れる音と鳥の声と自分の靴が小枝や落ち葉を踏みしめるザッザッザッという音だけが響く。
この一日の終わりにふさわしい音と風景。
一日目の幕営地である戸隠キャンプ場に到着したのは15時半。
大型アウトドアショップでしか見たことがない(そして、誰が買うんだよあんなテントと悪態をついていた)巨大な家のようなテントやモンゴルのゲルのようなどうやって建てたのか分からないテントが所狭しと建ち並び、車を横付けした大勢の家族連れが、一目で分かるこれまた高級な道具を並べてキャンプを楽しんでいた。
まあ金の使い方は人それぞれだし、興味のない人から見れば俺が中古レコードを買い漁ったり映画館に入り浸ったりするのも訳わからんだろうしなとか思いつつ、フリーサイトの隅っこにみすぼらしい一人用の山岳テントを張る。
2.2日目(2024/5/4)
序盤の戸隠牧場
4時半に起きて歯を磨きテントをたたむ。
清々しい朝だ。
日の出と共に歩き始める。
キャンプ場を出て戸隠牧場の中を歩く。
羊たちが真新しい日の光の中で草を食む。
霜の降りた美しい草原の中ずっと遠くまで続く小路に、ここが日本であることを一瞬忘れてしまう。
小路に流れる雪解け水やそこかしこに顔を出すつくしを見ながら、都会にいると暑すぎてもうこれは完全に夏だなとか思ってしまうけど、やっぱりしっかり春はあるんだなって思う。
このセクションは本当に素晴らしくて、同じような写真を何度も撮りまくってしまった。
牧場を抜けると古池という何ということはない池が現れるんだけど、この池にちょうど山々が映り込んでいて、ちょっと言葉を失ってしまうほど素晴らしい風景だった。
今回のロングトレイル全体を通して、こんなふうに観光名所でも何でもない場所でハッとするような風景に出会えたことは、かけがえのないご褒美のようなものだった。
だって時間が違うだけでも見えるものは全く違うしね。
大ダルミ~乙見湖
大ダルミは普通に登山セクション。
公式のfacebookの情報によれば、4月20日時点では深いところで積雪が1mほどありワカン必携となっていたので、内心一番ビビっていたセクション。
2ヵ月前に蝶ヶ岳で雪により前に進めずリタイアというのも経験しているので、ツボ足ではどうにもならない場所があることを理解しつつも、4月20日から2週間経ってるし気温もだいぶ高かったから1mということはないっしょって感じで気合いを入れて進む。
結果、雪はほとんど残っておらずラッキー!
心底安堵する。
山を抜け乙見湖に出て湖の向こうに連なる雪の山々を目にしながらザックを下ろして一息つく。
ここには山小屋風の綺麗な休憩所があって、もはや俺の心の拠り所となった文明の利器、自・販・機もしっかりあった。
管理人のおじさんにどこから来たのか尋ねられたので、少しズルをして長野駅と答えたら、見事にバグってぽかんとしていたのが可笑しかった。
その後「いや今日は戸隠からです」と言ったら「あぁ」って少し納得したような顔をしていたけれど。
笹ヶ峰高原~いもり池ビジターセンター
乙見湖を出て笹ヶ峰高原に入る。
歩きながらどこからでも妙高山が見える。
この旅で何度あの山を目にしたことだろう。
歩きながら、今年いい季節にあの山に登ってみようかと思う。
山頂から自分の歩いた長い長い道を見た時、俺は一体何を思うだろうかとかとりとめのないことを考えながら一歩一歩歩みを進めていく。
笹ヶ峰高原を抜けてから、本来であれば長野側に下り、西野発電所前の吊り橋を渡ってトレイルコースに入るんだけど、冬季は渡れないように踏板が外されていて復旧は5月半ばのため、やむなく新潟側に上がり県道を歩いて大きく迂回することにする。
長い長い県道歩きの際、恐らくこれまで小川を渡渉する際に靴に入ってきた水により少しずつ皮が膨れたせいであろう、両足裏の皮が広範囲に破れて剥けてしまった。
このアクシデントは相当痛かった。
(精神的にも肉体的にも)
以降ペースは急激に落ち、完歩断念の四文字も頭をよぎる。
痛い部分をかばいながら歩いていると、今度はかかとに負担がかかり足全体に痛みが走るようになる。
それでも考えても仕方のないことなので、とにかく少しづつ歩を前に進める。
杉野沢の集落入口でようやく正規ルートと合流し、心の拠り所でキンキンに冷えたコカコーラを2本摂取した。
2日目の幕営地は、あまとみハイカーのために無償で庭を開放してくれている佐藤氏のご自宅。
いもり池ビジターセンターに程近いその場所までまだ4キロほどあることを確認して再び歩き始める。
この時、出発前にネットで確認したビジターセンターの建物の立派なたたずまいに、きっと超冷えた生ビールがあるに違いないからそこで今日一日の旅の疲れを癒そうとそれだけを考え歩いていたが、足を引き摺りながら到着し建物に入り受付の男性にもうビールを注文する勢いで尋ねると、ビールどころかお菓子の類すら売っていないことが判明。
号泣。
またも膝から崩れ落ちる。
結局、幕営地の反対方面に15分坂を下ったところにあるアルペンブリックガーデンという施設でビールを買い込み、坂を上ってビジターセンターに戻り、また逆側に15分坂を下って佐藤氏の庭先にテントを張らせてもらった。
ハイカーは自分を含め3組。
皆無事完歩できればいいと心から思う。
小さくエールを送る。
綾部を走った時もハセツネを走った時もそうだったけど、打算とか偽善とかそういうのとは全く無縁の心の底からのほんとうの気持ちというか、水のような純粋なリスペクトというか。
夜、それはそれは星が綺麗だった。
3.3日目(2024/5/5)
いもり池~野尻湖
4時半に起床し、20分で準備を済ませ5時前に出発する。
足は痛いが幸い歩けないほどではない。
おそらく歩いているうちに悪化して痛みは増してくるだろうけど、何せ最終日なのだ。
自分に活を入れ歩き始める。
例によって、澄んだ朝の空気の中、いもり池の向こうに見える妙高山の山容が惚れ惚れするほど素晴らしい。
世界中のシネフィル同様、映画館の暗闇だけを誰よりも愛する男だったはずなのに、早朝の山の姿を見るだけで泣きそうになるとは…。
ちょっとのことで人間は変わる、自分を変えるなんて実は簡単なんだって思ってちょっと笑ってしまう。
ナウマンゾウのマンホール蓋など見てほっこりしながら野尻湖へ。
キラキラと光が射し穏やかに水面が揺れる野尻湖は本当に美しかった。
桟橋で釣りをする若者、湖畔に寝そべるカップル、ボート遊びをする家族、ウォーキングをする外国人の老夫婦。
皆思い思いの休日を過ごしていて、ああいい風景だなあと思った。
カヌー教室ではしゃぐ10人くらいの子供たちを見て、今日が子供の日だったことに気付く。
そしてアイルランドにいる詩と家のベッドでまだ寝てるであろう旅ちゃんのことを思う。
野尻湖脇のトレイルは間違いなく本トレイルのハイライトのひとつだった。
青々とした若々しい新緑の中を、眼下に野尻湖を望みながらアップダウンの少ないトレイルを歩いていると、歩いていることすら忘れるくらいふわふわとした気分だった。
うまくは言えないんだけど。
歩きながら、無意識にサニーデイのonedayを口ずさんでいた。
あれは夏の終わりの海の歌で、季節も風景も全然違うのに。
たぶんこの場所にふさわしいメロディーだと感じたんだと思う。
この極上のトレイルを抜けるとそこに野尻湖全景とその向こうにそびえる妙高山が文字通りどーんという感じで現れる。
どーん。
池の向こうの妙高山、広い田畑の向こうの妙高山、畜舎の向こうの妙高山、牧場の向こうの妙高山。
今回いろいろな場所でこの山を目にしながら、この場所に暮らす人々や草木や動物たちが、実感としてこの山に護られているようなそんな気がしてならなかった。
それはメタファーとしてではなく、実際にその腕に抱かれているみたいな。
斑尾山~そして旅の終わり
1時間ほど田舎道を歩き、ようやく斑尾山登山口に辿り着く。
そういえばこの日は朝から文明の利器を一度も見ていない。
水は残り少ないが、標高1300m程度の山なんてチョロいだろって思ったのが間違いだった。
ここまで累積で80km以上歩いていることや猛烈な暑さや足裏のアクシデントを抜きにしても、斑尾山は里山にありがちな急登に次ぐ急登のストロングスタイルの山で、息も絶え絶えになりながら、這うようにして何とか登り切った。
頂上に辿り着き、この旅で何度も何度も見たあまとみトレイルのプレートに手書きの汚い字で小さく「ゴールおめでとうございます!」と書かれているのを見て思わず涙がこぼれそうになった。
その後、今回も一緒に歩いてくれたボロボロに汚れた靴を見て本当に泣いた。
4.ロングトレイルを終えて
足が痛い。
マジで痛い。
まともに歩くことができず、日常生活に支障をきたしまくっている。
ただ、この痛みこそが90kmの旅の証なのだと思うと妙に誇らしくもある。
たったの3日間だけど、日の出と共に歩き始めて夕方歩き終えたらテントを張り眠り、翌日また朝日の中を歩き始めるという生活は、大袈裟かもしれないけど、健全な精神の有り様にも通じるようなそんな気がした。
そして自分のこの2本の足でいろんな道を歩きながら、そこに住む人々の暮らしとかハッとする風景とか鳥の声や川の音とか花の色や木々の匂いとかに触れ、普段俺は何でも知っているような顔して偉そうに何か言ってるけど、本当は何も分かってなかったんだなって思った。
それを思えただけでも歩いた価値は十分あったんだと思う。
今回失敗したところをしっかり反省して、次はいつか信越トレイルを歩きます。(宣言)
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