
ファシリテーターが陥りがちなワナ
前回の続き。「ファシリテーターが陥りがちなワナ」について。
こちらの記事「ファシリテーターの準備<その3>会議の目的4象限の話」で、アウトプット(成果物)とアウトカム(結果)、短期目的と長期目的のそれぞれをかけあわせた4象限について説明しました。
会議主催者との目的確認は必要最低限の準備ですが、もうひとつ重要なことがあります。それは、
「ファシリテーターの自分は、どの象限に意識が向きやすいか」という自覚です。
いくら主催者とすり合わせができていても、ファシリテーターの無意識な言動によって必要以上にアウトプットに執着したり、短期的な成果に固執するあまり、プロジェクト本来の目的から遠ざかってしまうことがあります。
ちなみに私自身は、アウトプット、しかも短期のタスク系にこだわる傾向を自覚しています。
この傾向に気がついたのは、ある失敗からでした。
ビジョン作りの失敗体験
以前、ベンチャー企業のビジョン作りの場に同席した際のことです。私は時間内にアウトプット(成果物)を出すことにこだわりすぎて、場の空気をとても残念なものにしてしまいました。
前半のワークショップ形式のブレストは、よい感じで進んでいました。
しかし、後半になってもアウトプットの形がなかなか見えてこなくて、ファシリテーターの私は焦りはじめました。社員たちはそれぞれ事業への強い思いはあるものの、みんなして「どういう形で何を表現すればいいのか」が分からないという状態に陥ってしまったのです。
そういう空気のなか、私は「何としてでもこの時間で成果物(ビジョンの言語化)を作らねば!」という思いにとらわれて、強引に「こういう形でまとめましょう」と提案し、モヤモヤした表情の参加者に発言をうながし、無理くりにビジョンをまとめたのです。
できたビジョンに対する違和感は、参加者全員が感じていました。
数日後、主催者(クライアント企業の社長)に呼ばれて振り返りを行いました。同時に参加者にも事後ヒアリングをした結果、成果物の形にはもっと自由度があってよかったことや、参加者の意識に始めからズレがあったことなどが分かりました。
そして、ビジョン会議のやり直しとなったのです。
ファシリテーターの偏りが招いたもの
自分の意識の偏りに大いに反省をしました。
私は成果に対して完璧主義なところがあります。その時の自分は「決めたからには必ずやらなければならない」という執着にとらわれていました。
それ(決められた成果物を出すこと)が私の役割だと思い込んでいたのです。
そのこだわりの奥底には「成果物がきちんと出来あがることによって、ファシリテーターである私の評価が決まる」という観念に取りつかれていたのです。
結局のところ、自分の評価を意識するあまり「いま目の前で起こっていること」に集中できず、やり直しという事態を招いたのでした。
この時の経験から、事前の目的すり合わせに時間と手間をかけるようになりました。
時間が許せば、会議冒頭に参加者全員で「今日の会議の目的」に納得しているかなど、メンバーを巻き込んだ「目的への合意」もきちんと行うようになりました。
また、想定外の状態になったときには、会議の最中でも「いま何が起こっているのでしょうか」「この状態について、どんな働きかけが必要ですか?」と参加者に問いかける勇気を身につけました。自分の評価を気にするあまり、一人でなんとかしなければ!と頑張るよりも、参加者に協力を仰ぐことにしたのです。
自分自身の偏りを探る3つの問い
会議が硬直するときというのは、たいてい誰かが(あるいは全員が)偏った方向に意識がいっていることが多いです。
ファシリテーターとしてのあなたに聞きます。
あなたはどの象限に意識が向きがちですか?
その理由はなんですか?
その裏にはどんなニーズが隠されていますか?
自分の思考のクセを自認しておくこと。
それが、ファシリテーターが陥りがちなワナから救ってくれる方法のひとつです。