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同じ時間を共有してから、じっくり考える。やっと立てたブランディングの入口
「コレジャナ~イ!」
「な、なんか違う!?」
「あとちょっとな気がする~」
これまで、そんなジグザグ道をザ・ローリング・ストーンしてきた私たち。しかぁし!ついにやりました!!!
「まずは純粋に、ただ聞く」ことからはじめ、「お客様自身がどうありたいか?」を表現できた葵建設工業様の仕事で、やっとトランクらしいブランディングの入口に立てたのです。
「やっとここまで来た…」思わず天を仰いで、感動を噛み締めました。よし、ブランディング、やったるぜ!!!と、飛び出そうとしたのですが、なんと世間は自粛、自粛になっていました。そう、時は2021年。新型コロナによる自粛期間のまっただ中だったのです。
でも、やっぱり今やらなきゃ。私たちは不安を抱えつつ、でも熱の冷めぬままに、新たなブランディングプログラムの提供をスタートしました。
その名も、「BANSO」。名前はすでに決めていました。
企業や経営者に寄り添って走る人、「伴走」という意味です。
「BANSO」をWEBサイトとパンフレットでリリースすると、驚くほどすぐに、数社からお問い合わせがありました。一方で、名刺やWEBサイトのご相談から、「そういうお悩みであればBANSOを」とお勧めしてシフトチェンジしてくださったお客様もあります。
「BANSO」ではまず、経営者にビジョンや理念の成り立ちについてお聞きします。その後、事業のコアメンバー6人に参加いただき、ワークショップを行います。そこでは、彼らが感じている課題や会社の価値、想定するお客様などをじっくりヒアリング。
続けて、どうしたら課題を解決できるか、よりよく変化していけるかを議論して、1つの「コンセプト」としてまとめていきます。
そうして最終的に、このコンセプトを商品やビジュアルに落とし込んでいくのです。これが「BANSO」のブランディングプログラムです。
BANSOは、私たちTRUINKにとっても多くの驚くべき発見がありました。
「壊しているんじゃない、生み出しているんだ」
高級輸入車の整備や、中古車の引き取りと解体を行っている企業、カーレポ様に、リブランディングを検討しているタイミングで「BANSO」をご依頼いただきました。
車の解体と聞くと大きな重機で「壊していく」、そんなことをイメージしますよね。
しかし、BANSOの過程で、カーレポの社員さんはこう言いました。
「自分達は車を壊しているんじゃなく、新たな部品を生み出していると思っている」
ひとつひとつ部品を丁寧に取り外し、分別してアップサイクルできるようにすることは、紛れもなく「生産」ですよね。そこには高い技術が必要ですし、環境保全にも貢献します。
社員さんたちは、カーレポでの解体の仕事に誇りを持っている。それがまっすぐに伝わる言葉でした。この社員さんの言葉に、私たち以上に感銘を受けていらしたのが赤須社長です。
BANSOは、経営者自身が社員の方々の頼もしい姿をあらためて知る機会となり、それが経営を後押しすることになる。カーレポさんとのお仕事によって、私たちもまた嬉しい発見があったのでした。
カーレポ様では、このワークショップで得たさまざまな視点をプラスして、「廃車として引き取った車を蘇らせ、車検を通して2年間貸し出す」サービス、『Choice!』が誕生することになります。
試行錯誤を繰り返しながら、カーレポの社員さん自らが考案したサービスを、デザインで後押しさせていただきました。
今の時代にフィットした画期的なサービス。現在は茨城県内限定のサービスとなりますが、ゆくゆくは全国的に広がってほしいなと思います。近隣の方はぜひご活用ください。
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あとはすべて私たちがなんとかするから
大切な人との「死」とともにあるご家族にどう寄り添うか、そのことを切実に考える機会となった葬儀屋さんのお仕事もあります。ひたちなか市にあるセレモニー鈴正さまです。
BANSOのなかで見えてきた鈴正さんのすごいところは、営業をほとんどせず、ご利用いただいたお客さまからの口コミだけで選ばれている、ということ。そこには徹底したご家族への配慮がありました。
「大切な人をなくしたら、私たちのことを思い出してまずは連絡してほしい。あとはすべて私たちがなんとかするから」
私たちをまっすぐ見て、そうおっしゃった社長ご夫妻の思いをコンセプトにこめました。
生まれたコンセプトは「生きていく人のために、鈴を鳴らそう」。
いつも鈴の音を鳴らして、自分たちの存在に気づいてもらおうという思いを込めています。
デザインも合わせてすべて刷新。すでに認知度の高かった一休さんは、より親しみやすくリデザインしました。
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価値観を転換するアプローチ
私たちがブランディングに関わる価値は、ここにあるんじゃないか。TRUNKが介在することで、自分たちが「当たり前」だと思っていたり、どちらかというとネガティブに感じていたことに「異なる価値」を見いだしたり、ポジティブに転換する機会になるのではないか。
それって、たとえデザインという目に見える結果がなくても、ものすごくクリエイティブなアプローチです。
それまで私は、「デザイナーたるもの、すぐにアイデアを考えないといけない」「すぐにビジュアルで提案しなければいけない」という使命感のようなものに囚われていました。前々からそこに疑問を持っていたけれど、他のやり方が分からずデザインのみに戻ってしまう。それが長年のジレンマだったのです。
「BANSO」はそうではなく、目の前にいるお客様と同じ時間を共有してじっくり会社をみつめ、理解したうえでものづくりにつなげていくプログラムです。アウトプットはこれまでと同じデザインをすることでも、そこに至る経緯が全く異なり、それまで使っていない筋肉が発達していくのを感じました。 より一層、着想に深みや幅が生まれたのです。
私たちはそれから何度も、会社のみなさんが自分たちの存在意義や、会社への愛を再認識していく場面に遭遇しました。「BANSO」をやって本当に良かった。そう、確かな手応えを感じていったのです。
編集協力/コルクラボギルド(文・笹間聖子、編集・頼母木俊輔、イラスト・いずいず)