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謝罪の技法『飯沼一家に謝罪します』【考察と感想】
2024年12月24日に放送されたTXQ FICTIONの2作目、
フェイクドキュメンタリー『飯沼一家に謝罪します』の私的まとめと考察。
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振り返りつつ考察(妄想補完含む)
<矢代誠太郎について>
飯沼家に関わったことが運の尽きだった人。
祭祀考古学・口承文芸学・民俗学の研究者。
飯沼家から「運気を上げて欲しい」と依頼を受け承諾、厄除けを組み合わせた独自の「影の行列」という儀式を一家4人に執り行った。
2004年に飯沼一家への謝罪のため「49日の裁き」を受けた。
以後行方不明。
矢代独自の儀式の内容とは、日本各地の厄除けや風水を組み合わせたものと言えば聞こえは良いけれど「センテンナムフルホビル」というスピ系香ばしい呪文、奇妙な所作、明かりを消した室内で蝋燭を囲み一家4人手が輪繋ぎ。
これは降霊術になってるのでは。
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ある人物から「半端な知識で儀式なんてやるもんじゃない」とばっさり切られていましたが、図星かも。
多田野が言うには当時
「悪い運気を防いでいい運気を取り入れる儀式を研究していた」
「実際に儀式を行える機会は多くない(=サンプルが必要だった)」
そうなので、飯沼家からの頼みは矢代にとって渡りに船。
運気上げの依頼を引き受けた理由は善意とかそういう親切心ではなかったと思う。
しかし「悪い運気を防いでいい運気を取り入れる儀式」の研究って...…いやそれ学術の研究か?と突っ込みたくはなりますが。
矢代の本音を知る余地が無いですが、体を張って「49日の裁き」に臨んだのだし覚悟があったと受け取れる反面、問答無用であの状況に追い込まれた可能性と半々の印象だった。
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心なしか、げっそりしている感じが。
<飯沼一家①について 儀式/テレビ番組での飯沼家>
家族構成①
道隆(父)
綾子(母)
明正(岸本良樹)※矢代とテレビ局には嘘をつき通してる
成美(長女)
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「幸せ家族王」のオーディションの通知が飯沼家闇落ちの契機と思う。
飯沼父・母が「引きこもりで反抗的で陰キャな長男・明正」を陰険に疎外する引き金。
会社の経営難と家計、息子の問題行動に頭を痛めていた一家に降ってわいた一攫千金のチャンス、100万円を獲得したい。
しかし明正に期待は出来ない。
目的に必死になる心は理解できるけれど、飯沼父の会社の部下の甥(岸本良樹)を明正の替え玉に仕立て上げ、一家の周辺(付き合いがあるご近所)も事情を承知で協力(応援メッセージやスタジオ観覧の応援団)
家庭内だけではなく周囲も巻き込んだ「明正替え玉作戦」で団結してるのはどう考えても異様。
飯沼父の「最高の家族です!」
この宣言、応援に来てた会社の部下やご近所さん達はどんな顔で。
番組終盤の明正(良樹)と妹の微妙な表情は、周りへの気まずさもあるんだろうか。
そして矢代の儀式で4人が書いた短冊形の紙の内容。
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明正(良樹)母・父・妹
2話を見ると両親が、数秒で書き終えてる。迷いなし。
追加で妹の「お兄ちゃん」も儀式的にはマズかったと思う。
(矢代の”飯沼一家”の認識とズレが生じる)
「明正お兄ちゃん」と書いていたら幾分結果が変わっていたと思う。
(それはそれでイヤ過ぎる)
<飯沼家②(現在)明正・妻・息子>
1999年10月の飯沼家火災から奇跡的に長男・明正は生存していたことが判明。リンゴ農家を営んでいた札幌の叔父の元へ引き取られ養子に。
2024年現在、明正は妻・菜摘と幼い息子の3人家族。
叔父は既に故人、りんご農園は閉園、自営業で暮らしを立てている模様。
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彼は2004.5.17 AM2:00に放送された「飯沼一家に謝罪します」という番組の存在は「知らなかった」
火事は「親父が借金苦で一家心中しようとした」
やり取りの間、彼の口調は平板でそっけなく、時々ヘラりとした表情。
2話の時点の明正は「幸せ家族王」の家族の印象が前提なので、違和感があるんですよね、冷たいというかドライというか。
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顔の部分が判別できない写真だったので、ほっとして思わず笑んでしまった感じ。
※替え玉の件が明らかになるのは3話
あと明正は、この時にアレが「運気上げの儀式」だったのを初めて理解した様子に見えた。
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<岸本良樹について>
ただただ巻き込まれただけの人(不憫)
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手にしているのはフィルムカメラ、きみ写真部だったりする?
飯沼父の会社の部下の是澤の甥。徳島県在住。
明正成りすましのため上京、儀式参加⇒オーディション⇒番組収録⇒家族旅行をこなした後、徳島へ戻る。
しかし「元気がなくなり、喋れなくなり、動かなくなった」
彼もまたこんな状態になったんでしょうね...…。
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1999年7月下旬~8月下旬が上京期間、その間の宿泊は何処に。
叔父(是澤)のところ(必要な時のみ飯沼家に向かう)か、飯沼家に泊まっていたのか。
あと良樹くんのお父さんって居るんですかね...…?
<岸本悠美子について>
ゴッドマザー(超怖い)
是澤の姉、良樹の母。
2004年放送の番組「飯沼一家に謝罪します」の影のスポンサー。
矢代に公の場で謝罪してもらうため、あの番組を制作し放送した。
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(含み笑い)
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(笑顔から一転して真顔、目が怖い)
「飯沼一家に謝罪します」(2004)の意図は何だったのか。
”公の場で謝罪して欲しい”
そもそもこの理由が分からない。
悠美子さんの中では必要なことだったんでしょうが、でも何故公の場で?
「幸せ家族王」の放送を見た時の彼女の本音は。
東京から帰ってきた良樹の様子が日に日におかしくなる一方で、病院で好転せず、原因は何だ?と考えれば心当たりはもう飯沼家しかない。
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悠美子さんが「良樹を元に戻せ」「息子がおかしくなった責任を取れ」と追及したい相手に飯沼家が真っ先に挙げられる筈。本来は。
弟(是澤=東京の知り合い)から情報を探る間に飯沼家の火事を知り、では次に追及すべき相手は儀式を行った矢代..…という流れだったのか(個人的な解釈)
その結果、背景を詳らかにする「飯沼一家に謝罪します」(2004)なんだろうか...…この辺はこじつけで補完するしかなくてもどかしい。
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でも心電図のモニター、見えないように紙?で画面隠してない???偽装?
「明正が毎年リンゴを送ってくれる」という、飯沼家⇔岸本家の繋がりが不自然でならない。
明正が岸本家の住所を知るには本人(良樹か悠美子)との接触が必須。
でも1999年に良樹と明正がアドレス交換するような交流があったとは思えず(明正の部屋を写した写真は隠し撮り)
また明正が自ら岸本家の住所を調べたとは思えない。
悠美子さんは明正が叔父に引き取られたことは知っているが、
リンゴ農園が閉園したことは知らないのだと思う。
「(明正が)毎年リンゴを送ってくれる」というのは彼女の嘘だと思う。
スタッフにリンゴを振舞ったのは、嘘の補強と演出(かも知れない)
「ずっと良樹のことを気にかけてくれていて」「自分の身代わりでああなった」「きっと心配してくれている」と「(矢代に)後悔してもらうため」の言葉に、暗に明正へ向けて仄めかしをしてる気が。
彼女は儀式の箱の中身を見ている筈だし、更に矢代からの話を総合させれば、当時の飯沼家の内情は想像がつくと思う。
明正に多少同情はしても、良樹の件は絶許である.....というのが私の解釈。
<輪について>
●輪①
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※力技のこじつけだが、時間(3桁の数字)を足すと1161になり、それを分解して1+1+6+1=9、数秘術で9は「完成」とかポジティブな意味、日本で9は忌数。また日付の1999年7月は、ノストラダムスの大予言で空から恐怖の大王が降りてくるとされてた月。
●輪②
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※床に描かれた丸の中に八芒星がある?
・輪③
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「向こう側に行くために必要なんだ」
・輪④
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矢代の儀式で4人それぞれに何かが憑き(降霊)また輪(サークル)がゲート(門)の役割だとするなら、それを探して彷徨い歩いていたのが例のビデオに映る心霊スポット巡りになるんだろうか。
見つからなかったからそれぞれ輪を作っていた?
大きさは輪②に似せてる感じ。
結局は前回と同じ面子で矢代に再度儀式を行ってもらう必要があったのかも..…たぶん。それは飯沼家の火事で不可能になってしまったけれど。
<飯沼明正と「すいません」※4話>
「オカルトにハマっていたんですか?」について、1999年だし世の中終末論や世紀末思想で溢れてた時期だと考えると、鬱屈を抱えた10代少年のオカルト傾倒は有りそうな話。
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目視で確認できるものに劇薬レベルで禍々しい物は無さげ(岸本家の融合体の方が禍々しさが勝る)
ただ現像された元の写真が真っ黒だったことには何か意味があると思う。
儀式後、飯沼家の「影」として外から封じられてたのかな...…縄は廊下側から張られてるっぽいから。
当時、彼が親への反抗・不満か、それ以外の理由(学校でのいじめ等)で引きこもっていたのかは語られず。
あと彼が儀式の様子を伺っていたのは確実だと思う、仏間は多分テレビのある部屋の隣で仕切りは襖、音は筒抜ける。
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鏡を叩く音「影よ私たちの家族から離れ、再び戻ることなかれ」の唱和が聞こえてきたらビビる。
”自分に対して何か呪いをかけてる”
と思い込んだ可能性が(でも間違いでもない)
それで相当気持ちが追い詰められたのと、あんな状態の家族と生活するのは恐怖でしかないのと、誰かに相談することも出来なかったんだろうと想像。逃げだしてしまえば良かったのに(逃げ出せなかった可能性も高い)そうしなかったのは元々漠然と持っていた「ここから連れ出して欲しい(=別な所へ逃げたい)」願望が、家族の異変で更に加速し間違った手段を選んでしまった(と思う)
彼が取り出してきたこれ(↓画像)をあらかじめ用意していたという点で、明正も黒だよなあ...…と(個人の解釈)
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たぶんこれは”いざという時がきた”時の保険。
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厳重に念入りにした封印をスタッフに開封させたのは、自分が触りたくなかったんだろうなと思う。
1999年10月の火事で燃えないように保管(持ち出し)していた点がね...…自分の保身を図る意味があったと思う。
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投げかけれるスタッフの質問に、段々と目が泳ぎ、虚ろな顔つきになっていく明正。
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「岸本さんに毎年リンゴを送ってますよね?」
無言。
否定も肯定もせず。ただ(だめだもう誤魔化せねぇ.…)な表情(に見えた)明正は悠美子さんと違い、はったりをかけることができない人っぽく、嘘をつくのはあまり上手くない(顔に出るし口数が減る)都合の悪いことを誤魔化したり隠そうとして下手を打つタイプに見える。
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1999年10月、明正が何かをやらかした仄めかしと私は思う。
そして「すいません」
いろいろ推測が可能だけど私個人は、スタッフへの謝罪(隠蔽と嘘)岸本悠美子と良樹への謝罪、死んでしまった家族への謝罪、を綯交ぜしたような感じを受けた。
今回の検証番組を放送することで、岸本悠美子は明正へ何かを仄めかし、その結果を期待しているんだろうか。
彼から「すいません」の言葉を引き出し満足か、といったら多分違う。
また現在の明正が「幸せ家族」を築いているのを見て、岸本悠美子はどう感じるのだろう、想像するとちょっと怖い。
良樹を含めた異変について、明正は原因ではないけれど当事者で要因。
また火事が明正が起因(私的解釈)ならば、その過去に向き合う必要があるんじゃないかな、明正の態度は他責で他人事のような無責任さが漂う。
20年前に放送された「飯沼一家」の調査番組「飯沼一家に謝罪します」をTverで見たであろう岸本悠美子さんは今どんな気持ちなのか。
そして北海道の飯沼家はこの番組をみたのか。
結局のところ
「飯沼一家に謝罪します」(2004)の矢代の謝罪は意味がないのだ。
当時の岸本悠美子が、上記の形を取らせることが、最大限の気のすむ形だっただけ。
でも彼女は未だに良樹(と矢代の融合体)と暮らしている。
安置所に置かれた遺体のような状態の息子と。
まとめと感想。
ある「幸せ家族」の裏側に深い闇があったという話で、謝罪は誰が何のために行うのかを考える話で、謝罪と責任は相手が満足するまで負うべきなのか、つらつら考える話でもありました。面白かったです。
おしまい。