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汐澤安彦氏を偲んで
2月17日(月)に東京佼成ウインドオーケストラの演奏会を聴きに行きました。
このコンサートは指揮者、汐澤安彦先生が久々に指揮をされるということで、それは絶対に聴きに行きたい!と発売日当日にチケットを手に入れてました。
しかも、2階のバルコニー席、指揮者を完全に真横から見られる位置を敢えて確保。これで汐澤先生の指揮も表情も奏者も全部見られる。準備万端。
と心待ちにしていた今年の1月7日、まさかの汐澤先生がご逝去されたとの情報が。そんなまさか。お元気そうで安心した、といった情報をいくつか耳にしていたので本当に信じられませんでした。
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先日の演奏会は内容を大幅に変更し、「汐澤安彦氏を偲んで」と題し、東京吹奏楽団さんとのジョイントコンサートになり、汐澤先生のお弟子さんの指揮者や各楽団の正指揮、常任指揮者など7名の指揮者によって当初予定されていた作品を中心に演奏会は行われました。
最後の最後、アンコールではモニターに映し出された塩沢先生が以前コンサートで振られた指揮の映像によるバーンズ作曲「アルヴァマー序曲」で終わり、暖かく寂しく楽しい時間を過ごすことができました。
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汐澤安彦先生は僕が東京音楽大学に入学するずっとずっと前から3,4年生中心の吹奏楽授業、通称Aブラスを指揮・ご指導されておりました。
ぶっちゃけ学生目線で当時の汐澤先生を振り返るなら、
「怖い」
以上です。
いや、大学でこれより緊張する授業などありませんでした。とにかく緊張する。何を言われるかわからないし、ちゃんと譜読み(楽曲の理解)ができていないと1人ずつ立たせて演奏させられるのです。そしてOKが出るまで逃がさない。何度も吹かされる。
4年生の時だったか、同級生のサックスのひとりが担当しているソロが全然譜読みできておらず当然汐澤先生に捕まり、延々とOKが出ずノンストップで個人レッスン状態になりそのまま授業が終わったことがあります。
また、汐澤先生と言えば名言の数々。作品や奏法についてお話する際の例えが凄く、音が小さいトロンボーンの学生に向けて「ベルを天井向けて吹きなさい」、シンバルが聞こえなかった時には「世界中のシンバルを持ってきなさい」などびっくりするような言い回しで驚かされました。ホルンパートは先生に言われる前からマーチングホルンのようにベルアップしたあげく正面にベルを向けて吹くこともあり、先生はご満足そうでした。
授業中、あまりにも仰々しい表現がツボにハマり、譜面台に顔を隠して笑いを堪えていたこともありました。
とにかく大人数で演奏すること、とにかくダイナミックな演奏(振り幅の大きい演奏)を要求することが多く、「f(フォルテ)百万個楽譜に書きなさい」などと言われることもあったので死にそうになりながら全員でこれ以上出せない音量で吹いてヒーヒーしていた記憶があります。本番直前の連日の集中練習では、もう唇がおかしくなっていて、回復しないままの状態で本番(しかも2日連続)やっていた記憶があります。
このようなびっくりするような指示や例えがどんどん出てくるので、何を言ってるのかわからない、と困惑する学生も多かったのですが、汐澤先生の持っている深い音楽性や学生が作品を最大限に表現するための工夫された上での指導だったのでしょう。
自分が東京音大の講師になってわかりましたが、学生って表現の振り幅が思った以上に狭いです。すぐ音を抜いてしまったり、フォルテを維持できていない演奏を聴くと「ブザーみたいな音で吹きなさい!ビーーーーッ!!!」とか言いたくなります(よく言われました)。汐澤先生は当時学生だった僕たちが小さくまとまるような演奏をしていたためにとても苦労されていたのだろうな、と思います。
東京音大Aブラスはずっと昔からアンコールの一番最後をリード作曲「吹奏楽のための第1組曲」の4曲目「ギャロップ」で締めます。ただ、楽譜の指定されているテンポのおよそ3〜4倍のテンポで演奏する、風習があります。
僕の学年は4年生の時、歴代最速で演奏しようと企んでいて、どうしたらあと1秒速く演奏できるか、など陸上選手のように研究していました。
で、学生だからできることですが、本番当日、汐澤先生の指揮を無視して超高速で演奏したところ、終演後の舞台袖で先生から我々に向けて「ギャロップ、速すぎです」とお叱り?を受けました。いい思い出です。ってか速すぎって…だって…そもそも…。
と、話し始めたらキリがないほどインパクトも学びも強い汐澤先生のレッスンでした。吹奏楽を始めたばかりの中学生の頃、とにかくたくさん吹奏楽曲を聴きたくでCDを手に入れまくっていたその多くが汐澤安彦指揮/佼成ウインドの演奏でした。スウェアリンジェン曲集のCDは何回聴いたかわかりません。他の多くの方もそうだったと思いますがアルヴァマー序曲はあのテンポで指定されていた曲だとずっと思ってましたし笑
音楽家としても指導者としても、そして人間としても尊敬する汐澤先生から学べたことを誇りに思い、僕も学生たちへレッスンできたらと思います。
汐澤先生ありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。
荻原明(おぎわらあきら)
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