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#032.楽譜を読むための基本 7「調と音階について その2」

数回に分けて「楽譜を読むための基本」を解説しています。シリーズになっているのでご覧になっていない方はぜひ過去の記事もあわせてご覧ください。特に今回の記事は前回解説した長音階とその求め方の続きですので、ご覧になっていない方はまずは前回の記事をご覧ください。


長調と短調の関係(平行調)

調号はシャープとフラットそれぞれ7つ(ドレミファソラシの7音)まで付けることができますから、何も付いていない調を含めると、最大で15種類の調号があるのがわかります。

15種類とは言いましたが、調には「長調」と「短調」の2種類があり、同じ調号で長調と短調が必ずセットで存在しています。では長調と短調はどのように見分けるのでしょうか。

答えは「音階のスタート位置」、主音が何の音かで決まります。

具体的には長調の6番目の音、言い換えるなら主音より「短3度下」からスタートすると同じ調号の短調になります。この同じ調号の長調と短調の関係を「平行調」と呼びます。

では鍵盤楽器などで音を出してみましょう。

長調の6番目の音は「ラ」ですね

短調の3つの種類 1.自然短音階

いかがでしょうか。この楽譜では調号のつかないC dur(ハ長調)のC音から短3度下へ移動したA音を主音にして順番に音符を並べてみました。なんとなく印象として「短調らしさ」を感じることと思います。その理由は最初の3つの音にあります。

長調の場合、主音から3つ目までの音程が「長2度(ド→レ)」→「長2度(レ→ミ)」

に対して、短調の場合は「長2度(ラ→シ)」→「短2度(シ→ド)」なのです。この短2度音程(=半音程)を感じた瞬間に長調なのか短調なのかを感じ取っている場合が多いです。

しかし、この短音階の最後に「終わった感じがしない」と違和感を覚えませんか?音階の後半に着目してみましょう。

音階は7つの音で構成されていて、8つ目に主音(の1オクターブ上)に帰ってきます。上の楽譜のその7音目から主音に入った瞬間に「あれ?」と何だか煮え切らない中途半端な印象を持ちませんか?

一旦、長調に切り替えてみましょう。

7音目から主音、帰ってきた感じとか、到達した感じとか、そのような「しっくり」を感じます。この違いは何かと言うと、

7音目と主音が半音(短2度)か、全音(長2度)か」の違いなのです。

短音階ではこの部分が長2度になっているため、まだ音階の途中のような印象を持ってしまうのです。このような完全に調号に従った音階を「自然短音階」と呼びます。

でもこれ、主音からスタートしたメロディであれば確かに短調に聞こえるかもしれませんが、もしも第3音からドレミファソラ、とスタートしちゃったら完全に長調になってしまいます。このように自然短音階は短音階でありながら、短調としての存在感が薄いので、もう少し「短調らしさ」を持てる何かが欲しいところです。
そこで、このような手段を取ってみます。

短調の3つの種類 2.和声短音階

自然短音階が何やら不自然な印象を持つのは7音目と主音が長2度だからでした。では、自然になるよう音の高さを変えてしまいましょう。ただし、主音をいじると調そのものが変わるのでそれはできません。したがって消去法で第7音を半音上げることにします。


どうですか、このしっくり感。短音階らしさが出てきましたね。第7音、グッジョブです。

グッジョブなので「第7音」には「導音(どうおん)」の称号を与え、ランクアップさせます。

第7音が主音と短2度(半音)の関係になっている場合、第7音のことを主音へと導く音、という意味で「導音」と呼ぶことができます。したがって、先ほどの自然短音階の第7音は導音とは呼べないのです。



短調の3つの種類 3.旋律短音階

長調も含めて音階は、すべて隣り合う音は「長2度」か「短2度」の音程で構成されていました。

しかし、自然短音階が「自然」と言うわりに不自然だったため、和声短音階では第7音を半音上げたところまでは良かったのですが、それによって第6音と第7音の距離が離れ「半音+半音+半音」の「増(ぞう)2度」音程になってしまいました。

この増2度音程があるからこそ、長調にはない異質感を生み出す、と言ってしまえば聞こえは良いのですが、やはりちょっとインパクトが強すぎるというか、アラビアっぽいので、第6音も半音上げてしまえば増2度が長2度になりますのね。

これで違和感がなくなり、キレイな音階になりました。これで一件落着!

…と思いきや、この音階を下行(主音から下がること)してみましょう。

最初の5つ目くらいまで、これだと長調になってしまいます。前回長調について解説しましたが、これではA dur(イ長調)です。

都合よく音程を変えると、このようにどこかで帳尻が合わなくなってしまいます。なので、下行形は半音上げた音を全部元に戻しましょう。ということで、第6音、第7音を半音上げるのは上行形のみとし、下行形に関しては自然短音階と同じように調号通りにする、ということにしたこれを「旋律短音階」と呼びます。

ということで、ひとつの調号で3種類の短音階ができました。基本的には楽曲を構成している音階は「和声短音階」であり、メロディラインに「旋律短音階」が採用されることが多い、と考えておくと良いでしょう。ですから、短調の作品には「調号と関係なく第7音が半音上がることがとても多い」と覚えておきましょう。

ここまで、短調の仕組みを解説しました。ぜひすべての調号で「自然」「和声」「旋律」の3パターンを五線に書き出し、ピアノやトランペットで演奏してください。

長調は明るい?短調は暗い?

学校の音楽の授業で「長調=明るい」「短調=暗い」と習った方がいらっしゃると思います。しかし、こんな単純な分け方で良いのでしょうか。

短調って暗いだけではないと思うのです。例えば、「カッコイイ」「真剣」「真面目」「深刻」「都会的」「尖った」「夜」「(精神的な)厳しさ、強さ」「メカニック」など、短調の作品にはこのような様々な印象を受けます。むしろ「暗い」と思うことは少ないです。

一方で長調も「明るい」だけでなく「元気」「無邪気」「晴れやか」「優しさ」「暖かさ」「緩さ」「自由」「のどか」など様々な印象を作品によって受けます。

また、長調と短調は別世界ではなく表裏一体。「この曲は長調だから」と言って短調の要素が一切出てこないことはありません。今回の話題の範囲外なので簡単にお話ししますが、ひとつの長調に出てくる音(=音階固有音)だけで作った7つの三和音を分析すると、長三和音が3つ、短三和音が3つ、減三和音が1つです。割合としては7つのうち、長三和音はたった3つしかありません。ですから、長調であっても短調の響きがしばしば聴こえているのです。

長三和音はたった3つ

平行調の話を最初にしましたが、同じ調号で主音が変わっただけで長調、短調が切り変われるのですから、曲の途中でスッと平行調に転調していることも少なくありません。昔ならではの作り方をしているポップス作品や昭和のアニメソングは、大概Bメロと言われる部分が平行調に転調しています。
音階はそれぞれの音に他の調へ移動できる扉が用意されていて、あちこちで気軽に行き来できるのが特徴です。
よほどシンプルな童謡や民謡でない限り、ほとんどの場合どこかが転調しているので、そういった目線で様々な楽譜(単純な作りのポップスや昔のアニメソングなどが良いかと思います)を見てみましょう。

さて、前回今回と調について解説しましたがいかがでしょうか。前回の記事で解説したように調は「ステージセレクト」です。その世界(調)で演奏するからこその魅力、特色があるのだと理解して、あなた自身も全ての調の世界に飛び込みましょう。

要するに全部の調を理解して、演奏できるようにしましょうね、ということです。頑張りましょう!

ということで今回はここまで!


荻原明(おぎわらあきら)

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荻原明(おぎわらあきら):トランペット
荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。