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うんこ漢字ドリルはなぜヒットしたのか

これは、私が高校3年生の時(2018年)に、大学に進学するために書いたものです。私の高校はいわゆるエスカレーターの学校で基本的に評定平均3.0以上を取れば付属の大学まで上がれるのですが、大学の進学には卒業論文を書く必要がありました。これはその全編です。


私は本が好きでよく書店に行くが、ある本に目が釘付けになった。なんと「うんこ」の文字が目に飛び込んできたのだ。そこには『うんこ漢字ドリル 小学5年生』と書いてある。なんて下品でふざけたタイトルなのか、しかも教育参考書に、である。ページを捲るといきなり「うんこの国があったら◯住(えいじゅう)したい」の漢字問題である。ふざけ過ぎで、世の中のモンスターペアレントが黙ってはいないと思いつつも、ページを捲り続け、最後にはなんとも言えないおかしさが込み上げてきて、どこか愉快な気持ちで書店を後にしたのが2017年春のことである。

その後、ドイツから帰国したバイリンガルの小学5年生の従弟にこの本をプレゼントした。なんと漢字嫌いの従弟が嬉々として漢字の「勉強」をする姿を目の当たりにして「これは本物かもしれない」と実感した。この「体験」がこの論文を書く一つのきっかけとなっている。

本論文では、この『うんこ漢字ドリル』の秘密に迫る。そこで私はメインテーマを「なぜ『うんこ漢字ドリル』はヒットしたのか」と設定した。そして、これほどまでにヒットとした理由は何か、またある種の社会現象と呼ぶべき盛り上がりを見せるのはなぜかを、第一に書籍としてのコンテンツの質を含めた出版社の戦略、第二に「うんこ」という言葉の持つ力、第三に日本人の国民性、最後にSNSの果たした役割、の4つの仮説から解き明かす。大まかな論旨展開は以下のとおりである。

まずⅠ章で前提知識となる『うんこ漢字ドリル』の基本情報を押さえる。『うんこ漢字ドリル』が学習参考書としては異例のヒットである事実を統計資料で示すとともに、『うんこ漢字ドリル』が誕生した経緯、そして学習参考書の歴史における『うんこ漢字ドリル』の位置づけを明らかにする。Ⅱ章では、出版社のとった戦略の優位性をコンテンツに施された様々な工夫や販売の側面から考察する。Ⅲ章では、「うんこ」という言葉そのものが持つ力について歴史的側面から考察するとともに、子供と「うんこ」の関係性について精神分析の側面から考察を加える。Ⅳ章では、「うんこ」のような下品なるものがそもそも消費者に受け入れられる土壌が日本にあったのか、日本人の国民性に着目して考察を深める。最終章のⅤ章では、SNSを起点とした情報の拡散がどのように爆発的なヒットに結びついたのかを明らかにする。

序の最後に、6年間の学校生活の集大成である本論文に「うんこ」というテーマを選択したことは、自分としても相当な勇気と決意を必要としたことを正直に告白しておく。論文としての出来が悪ければ人生の汚点として残ることは決定的だが、何よりも将来の自分が読み返して恥ずかしくない、18歳の自分の勇気と決断に拍手できる内容としたい。

Ⅰ.『うんこ漢字ドリル』のヒット

この章では文響社から2017年に出版された小学生向けの学習参考書である『うんこ漢字ドリル』(注1)の基本情報を概括し、『うんこ漢字ドリル』が学習参考書としては異例のヒットである事実と『うんこ漢字ドリル』が誕生した経緯、そして学習参考書の歴史における『うんこ漢字ドリル』の位置づけを明らかにする。

A.学習参考書の歴史と『うんこ漢字ドリル』の登場

 学習参考書の歴史において、『うんこ漢字ドリル』はドリルの全例文に「うんこ」という単語を使用した日本初の漢字ドリルと定義できる(注2)。

(1).漢字ドリルの位置づけ

『うんこ漢字ドリル』は、学習参考書界に新しい風を吹かせ、さらに、学習参考書だけに留まらず、「勉強」の新しい形を示したと評価できる。なぜなら、漢字ドリルはこうあらねばいけない、という固定概念を打ち破ったものであるからである。

そもそも、統計的に見ると「勉強」が好きでない小学生は全体の3割ほどを占める(図1)。この数字は無視できるものではないだろう。

また、小学生の好きな教科・苦手な教科の調査では、国語が好きな教科第5位、苦手な教科第2位という結果だった(図2)。

その理由として挙げられたものの中に、「漢字が嫌いだから」というものがあり(注3)、読みでは約3割、書きでは4割以上の小学生が漢字を不得意と感じている(図3)。

さらに、勉強嫌いの歴史を辿ると古代エジプトにまで行き着きつく。「若者の耳というのは背のほうについている。打たれると彼は言うことを聞く」(H・I・マルー著 横尾荘英 飯尾都人 村清太訳『古代教育文学史』p.7)という文章がエジプトで発見されている。古代の教育は生徒の従順さを前提として教育が行われたため、そうでない生徒には、粗暴な体罰を用いていた。また、ヘブライ語のmusarには教育と矯正、罰とを併せ持って意味していたという(注4)。このことからも勉強は鞭を使って無理やりさせるものである、つまり、若者は勉強が嫌いだったと推測できる。

また、江戸時代の日本で行われていた寺子屋での授業風景を描いた絵がある(図4)。この絵の中で、大人しく勉強をしている生徒は一人もいない。これは、寺子屋では生徒は必ずしも先生の方を向いて座るわけではなく教材も学年もバラバラな自由な教育現場だった(注5)、という前提を踏まえても、勉強に対する「気だるさ」などのマイナスイメージが伝わってくる。やはり、勉強は江戸時代の子供達にとっても「つまらない」「退屈」なものであったと推測できる。これらのことから子供の勉強嫌いは今に始まったことではないということが分かる。

次に2017年の学習参考書の売り上げの市場動向を見ていく。全国出版協会出版科学研究所による『2018年版 出版指標 年報』によると、学習参考書の売り上げでは、前年より約8%増の505億円である。また書店店頭でのPOSデータ(金額ベース)(注6)の対前年比で見ると、2011年から7年連続で増加している。書籍市場全体がマイナスで推移している中、これほど毎年伸長しているジャンルは他には見られない。その伸長の要因となったのはブランドやアニメとコラボレーションした学習参考書の登場によって、これまで参考書を買わなかった新規読者を獲得したことが挙げられる(注7)。そのような例として代表されるのが、『うんこ漢字ドリル』はもちろんのこと、2014年に角川出版から『「カゲロウデイズ」で中学英単語が面白いほど覚えられる本』が出版されたことを始まりとして、中学英文法や中学数学などでシリーズ化された『「カゲロウデイズ」で面白いほどわかる本』シリーズである。このシリーズの最大の特徴は、十代に絶大な人気を誇るカゲロウデイズ(注8)というボーカーロイド(注9)曲に登場するキャラクター達のフルカラーのマンガを通して学ぶことができる点である。また、2016年に学研プラスから初めて出版された、『ボカロで覚える』シリーズもそのような学習参考書である。このシリーズの最大の特徴は十代に人気のボーカーロイド、通称ボカロというツールを用いて制作された曲の歌詞が暗記事項となっていて、曲を覚えながら暗記学習ができる点である。つまり、簡単に言えば楽しく曲を聴いているだけで勉強ができてしまうのである。『「カゲロウデイズ」で面白いほどわかる本』シリーズはシリーズ累計50万部突破、『ボカロで覚える』シリーズはシリーズ累計60万部を突破した(注10)。これらは中学生や、高校生を対象とした学習参考書だが、小学生を対象とした学習参考書ではさらに前の2005年に学研出版から初めて出版された『しずくちゃんドリル』シリーズや、2008年にりんりん舎から出版された『クレヨンしんちゃんの漢字ドリルブック』などのキャラクターのついたドリルが出版された。『しずくちゃんドリル』シリーズは大人気キャラクターであるしずくちゃんのストーリーとシールで楽しく学べる工夫がされている(注11)。また、『クレヨンしんちゃんの漢字ドリルブック』では、クレヨンしんちゃんのキャラたちのセリフによって、漫画を読む感覚で楽しく学べる工夫がされている(注12)。これらを起源として、小学生用の学習参考書の工夫としては、人気のキャラクターとコラボレーションすることが近年の流行りだった。このような学習参考書市場全体の流れの中で2017年3月に文響社から『うんこ漢字ドリル』は出版された。

 さらに、現代のようにキャラクターを使うなどはしていないが、今から100年以上前の『尋常小学読本漢字練習資料 第5学年用』にも「漢字記憶の工夫」や「漢字なぞかけ」などを載せるなどの学習上の工夫が施されている(図5)。

『うんこ漢字ドリル』の出版後、あからさまに『うんこ漢字ドリル』を模倣した漢字ドリルも登場した。それは、2017年8月に水王舎から出版された『まいにちおならでかん字ドリル』、2018年3月に宝島社から出版された『トレンディエンジェルのハゲラッチョかん字ドリル』などである。しかし、どれも『うんこ漢字ドリル』のようにはヒットしなかった。

(2).『うんこ漢字ドリル』の誕生

『うんこ漢字ドリル』の起源は脚本家の古屋雄作氏が作っていた「うんこ川柳」(注13)にある。古屋氏は「うんこ川柳」の書籍化を目指していたが出版社に断られ続けていた。そんな中、2015年頃、古屋氏と中高の同級生であった、山本周嗣氏が自ら社長を務める出版社である文響社(注14)での出版を提案した。このようにして出版されることになった「うんこ川柳」だが、「うんこ川柳」そのままでの出版には売上に対する懸念があった。そこで、山本氏は以前から教育とエンターテイメントに関する本を作りたいと思い教科書やドリルの分野を研究していたため、 その分野に狙いを定め制作をすることにした。

しかし、文響社としては、学習参考書は新規参入であったため、教育図書の編集を手がけているあいげん社(注15)に監修を頼み漢字ドリルとしての学習効果の向上を図った。さらに保護者にインタビューをしてアイデアを得ながら完成させた。完成までには、2年の歳月を要した。また、その後2018年3月に『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル テスト編』、2018年8月に『日本一楽しいひらがなドリル うんこひらがなドリル』などの『うんこ漢字ドリル』シリーズが発売された。さらに、2018年11月には『うんこ算数ドリル 文章題』も発売された。

『うんこ漢字ドリル』を出版した文響社は2010年に創業した新鋭の出版社ながら『人生はニャンとかなる!』(注16)が90万部突破、『超一流の雑談力』(注17)が40万部突破などのヒット本を次々と生み出している気鋭の出版社である。文響社のホームページに記載された会社概要には、「エンターテインメントは、楽しむだけのものではなく、私たちの現実まで変えてしまうほどの力があります。我々は、人々が自分自身の可能性に気付き、新しい一歩を踏み出すためのきっかけになる作品を提供していきます。すべての人の『現実』に、夢と希望を与えるエンターテインメントを」(文響社「Company」、2018年7月27日取得)と経営理念が謳われており、このような会社だからこそ、一般的に企業ではコンプライアンスが先に立ち、企画自体がなくなるか、角がどんどん削られて丸くなってしまうことが往々にしてある中、『うんこ漢字ドリル』は最後まで企画通りの、そのままの形で出版することができたのである。

(3).駿台の漢字問題集事件

『うんこ漢字ドリル』と似たような路線でありながら、社会から酷く批判された漢字問題集も存在する。それは、2015年2月に駿台文庫から出版された『生きるセンター漢字・小説語句』である。2016年1月に、大手予備校「駿台予備学校」の講師が著者となった漢字問題集の例文に多数の性的表現があるとして、フェイスブックの投稿が発端となり、インターネット上で「セクハラだ」などと批判する意見が出た事件である。駿台文庫は漢字問題集の販売停止と書店からの在庫回収を行った。問題となったのは、例文中のカタカナを漢字に置き換える問題で、「彼女のなだらかなキュウリョウをうっとりと眺めた」「胸のデカさに俺はキョソを失った」「きみのエキスをチュウシュツして飲み干したい」「彼女の人生に俺という存在をコクインしたい」などといった表現が多数含まれていた。問題になってから、駿台文庫の担当者は「受験生が覚えやすい例文を目指したが、もう一度内容を精査したい」と説明し、講師も「誤解された部分は直さなければいけない」と話した。しかし、「覚えやすい」などの肯定的な意見もあった(注18)。

 一方で、世の中には下ネタが受け入れられている参考書も存在する。それは2013年にスタディカンパニーから初めて出版された『古文単語ゴロゴ』シリーズである。『古文単語ゴロゴ』は「ゴロ覚え」による覚えやすさが人気の古文単語集で、シリーズ累計100万部を突破し、古文単語集で売上No.1を記録している(注19)。その中には「たゆむ巨乳に油断する」(板野博行『古文単語ゴロゴ』p.153)(注20)など下ネタのゴロが多数収録されている。さらに、下ネタのゴロにはハートマークをつけることで見分けやすくしてある。この二つの極めて似た学習参考書の明暗を分けたのはなんだったのだろうか。それは、売り方にあったと推測できる。次章ではこの売り方について考察を進めていく。

B.学習参考書としては異例のヒット

『うんこ漢字ドリル』は文響社から2017年3月に発売され、発売から約2ヶ月で発行部数227万部を記録し(注21)、2017年間ベストセラー第4位(日販調べ)(注22)、また2017年年間ベストセラー第6位(トーハン調べ)(注23)にランクインしている。さらに、2016年度の全国の小学生の数が約650万人(注24)なのに対し2017年年末には278万部に達した(注25)ことから、単純計算で約43%の小学生が『うんこ漢字ドリル』を使ったことになる。これは、約10人に4人の小学生が使ったということである。また、2017年新刊推定発行部数との比較においても(図6)、『うんこ漢字ドリル』が学習参考書としては異例のヒットであることがわかる。

本章では、学習参考書の全体の流れを掴むとともに、『うんこ漢字ドリル』の概要や「勉強とは子供達にとってどのようなものであったか」など論を進めるにあたって基本的なことを確認した。

Ⅱ.出版社の戦略

前章では『うんこ漢字ドリル』を中心とした今までの学習参考書市場の全体の流れ、またその中で起きた事件について確認した。この章では明暗が分かれた2つの学習参考書があったことを踏まえ、『うんこ漢字ドリル』が売れる商品になるために会社が取った戦略を軸に考察を進めていく。

A.『うんこ漢字ドリル』の工夫

ここでは『うんこ漢字ドリル』のコンテンツ(注26)に施された工夫によりヒットした理由を考察する。

(1).ネーミング

『うんこ漢字ドリル』に施された工夫として、初めに挙げられるのはタイトルだろう。多くの人は『うんこ漢字ドリル』というタイトルのネーミングにまず衝撃を受けるのではないだろうか。

そもそも、岩永嘉弘による『ネーミング全史』によると、ネーミングと言うものは、商品の主役であり、商品の伝えたいことなどの特性をいかに正確に魅力的に印象的に伝えるかが大切である。また、覚えやすく、呼びやすく、聞きやすいネーミングであることも重要であるとされる。さらに、インターネットが普及した現代の社会では、いかに検索してもらえるか、そして、いかに検索しやすい言葉を提供するか、がヒットの鍵になってくる(注27)。

ここで、「ゴリラの鼻くそ」というお菓子を例にして『うんこ漢字ドリル』のネーミングについての考察をしていく。「ゴリラの鼻くそ」とは、島根県にある和菓子屋の有限会社岡伊三郎商店で製造されている黒豆薄甘納豆である。そのユニークなネーミングから全国の動物園でお土産として販売されている。ただの甘納豆に「ゴリラの鼻くそ」と名付けただけの商品ではあるが、小学生などを中心に人気を集めている(注28)。きっかけは、商品化する際、黒豆薄甘納豆を見た社長の友人が「なんか、ゴリラの鼻くそみたいだな、これは。しわしわで真っ黒で」(ゴリラの鼻くそ「すぐ分かるゴリ鼻ストーリー」2018年10月14日取得)という発言をしたことがきっかけだという。動物園の売店で発売したところ、子供たちに人気を博し、やがて、スーパーでもメジャー商品となり、いまや発売され始めた島根県だけでなく全国での発売を目指している。

このように『うんこ漢字ドリル』もこのユニークなネーミングのおかげで話題を集めてことは間違いないだろう。ぱっと目に付くネーミングこそが『うんこ漢字ドリル』が人を惹きつける理由の一つだろう。また、このようなネーミングだったからこそインターネットで話題となり更なるヒットにつながったと推測できる。この点についての詳しい考察はⅤ章で行う。

(2).学習参考書

『うんこ漢字ドリル』は学習参考書として様々な特徴がある。まずはじめに、2011年からの新学習指導要領に対応している点である。また、1年生から6年生までの漢字1006文字をしっかりと網羅している点である。二つ目に、覚えやすい独自の順序を作成している点である。漢字ドリルのプロが漢字の意味や形を踏まえ、研究した独自の順序を採用し、子どもが自然な流れで漢字学習できるようになっている。自然な流れとは、例えば「父」という漢字の後に「母」、またその後に「兄」が来るなど似た意味の漢字を順に学ぶことができるようになっている。三つ目は、大きな見本で、「とめはね」などの間違えやすいポイントや書き順を詳しく解説している点である。1年生は1ページ1漢字、2年生以降は1ページに2つの漢字のみを掲載し、 初めて習う漢字でもしっかり習得できるように書きやすく工夫されている。四つ目に、「うんこ先生」という『うんこ漢字ドリル』オリジナルキャラクターが登場し教えてくれる点である。おちゃめで優しく、ときどき厳しい「うんこ先生」は、覚えにくい漢字や間違えやすい漢字について、うんこにまつわる解説で理解を深めてくれる(図7)。最後に、全漢字を復習できる小型携帯用ホワイトボードと学習証明書がそれぞれの学年に付いている点である。ボードは水性ペンで書けば何度でも繰り返し使うことができる。また、学習証明書には、その学年で習った全漢字が掲載されていて、持ち歩いていつでも復習できるようになっている。以上の五つの特徴は公式サイト(注29)に記されていたものである。また、実際の『うんこ漢字ドリル』にはさらに2つの特徴が紹介されている。一つ目はイラストがほぼ全ページに入っていて、例文も面白いため、笑いながら勉強できる。二つ目は1枚ずつ剥がせる仕様になっている。この仕様は今日覚える分だけ切り取ることができるため、ゴールを見やすくすることができる。これら合計7つの特徴が『うんこ漢字ドリル』にはある。これらは、特徴と紹介されているが、製作者が施した工夫である。

さらに、「うんこ」という言葉を使用したことに対する配慮も欠かさない。『うんこ漢字ドリル』には二箇所「おうちの方へ」という欄が存在する。一箇所目は、表紙裏にあり「うんこ」という言葉を子供にとって口にするだけで楽しくなる魔法の言葉として紹介し、『うんこ漢字ドリル』をきっかけに勉強への意識が変わり笑顔で机に向かう子供が増えて欲しい、という『うんこ漢字ドリル』のコンセプトを説明している。二箇所目は、背表紙に「『うんこ漢字ドリル』の例文は子供の学習意欲向上のためのユーモアであり、実際に真似しないように」などという注意書きがされている。さらに、子供に対しても1ページを使い同様の注意がされている(図8)。

Ⅰ章Bの3で触れた、販売停止に追い込まれた駿台文庫の『生きるセンター漢字・小説語句』は下ネタ問題に対しなんの注意書きもされておらず、配慮に欠けた作りになっていた。一方で、ベストセラーとなった『古文単語ゴロゴ』には下ネタを掲載している旨と、下ネタが嫌いな人に対する謝罪の言葉を掲載している(注30)。学習参考書への下ネタ掲載は、衆目を集める点で劇薬であり、消費者への配慮は必要不可欠な要素であった。『うんこ漢字ドリル』に施されている、消費者への配慮や、「『うんこ漢字ドリル』という題名でふざけていそうに見えながらも、漢字ドリルという商品としての「完成度の高さ」のギャップも効果的だったと考える。

このようなたくさんの工夫が施された『うんこ漢字ドリル』だが批判も存在する。それは、例文が短すぎて、本当の国語力が養われないのではないかという批判だ(注31)。しかし、そこにも『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル テスト編』を出版することで対応した。そもそも、巷で出回っているほとんどの漢字ドリルが短文の例文で構成されているのだから、『うんこ漢字ドリル』だけに限定される問題でもないであろう。

(3).デザイン

『うんこ漢字ドリル』はパッと目を引く表紙が印象的だが、「うんこ」という言葉を全面に押し出したものであるため、うんこの持つ「汚い」「臭い」といったネガティブなイメージをひっくり返すという意図でデザインされている(注32)。ここでは、そのデザインコンセプトの視点から、本書のデザインを象徴する「うんこ先生というキャラクターデザイン」と「漢字ドリルのデザイン」から考察を深める。

一つ目の視点からは、キャラクターがもたらす、「キャラクターそのものの効果」「色がもたらす効果「描線がもたらす効果」「デザインの効果」について論じる。二つ目の視点からは「表紙に使われているフォントがもたらす効果」「キャラクターとイラストを使い分けることによる効果」について論じる。

まず、『うんこ漢字ドリル』には社内のデザイナーがこのドリルのためだけに考えたオリジナルの「うんこ先生」というキャラクターが存在し、表紙などに登場する(注33)。現代においてキャラクターは流行していて、身近な存在である。日本はアニメ大国と呼ばれ、キャラクターの所有率、好意率がともに高い傾向にある(図9)。また特に、小学生のキャラクター商品所持率は100%に近く、ほとんどの小学生がなんらかのキャラクター商品を所有していることがわかる(図10)。そんな慣れ親しまれたキャラクターからは「安らぎ」「庇護」「現実逃避」「幼年回帰」「存在確認」「変身願望」「元気・活力」「気分転換」の8つの効能が得られるという(注34)。これらの中で子供にとっては単純作業のため、苦行である漢字学習の場面での効能は「安らぎ」「庇護」などが該当するだろう。さらに、「うんこ先生」は「ハローキティ」(注35)などに代表される無表情なキャラクター、通称「むひょキャラ」の系譜にあり、むひょキャラの特徴は、キャラクターが無表情なため子供達自らがキャラクターの表情を解釈し、自らの欲する感情を投影することができる。つまり、『うんこ漢字ドリル』内で「うんこ先生」の登場は、無意識に子供達に精神的な「安らぎ」を促し、単純作業である漢字ドリルの苦行から開放する引き金として機能する。

次に、「うんこ先生」に使われている線のタッチに注目する。「うんこ先生」は、ただのまっすぐな線では描かれてはおらず、どこか温かみのある線を用いて描かれている(図11)。この線は「おでんくん」(注36)など他の多くの手書きのキャラクターに取り入れられている。手書きというものが消費者に与える印象は「人間らしさ」「個性」である(注37)。現代では「ベジェ曲線」(注38)を使って書かれたパソコンならではの丁寧さと緻密さを持ったイラストを使うことが多いが、ライトな感覚で覆われた現代だからこそ、手書きという手法がライトな社会のオアシスとして機能すると考えられる(注39)。そして、手書きで描かれたキャラクターは消費者の心まで届く(注40)。つまり、キャラクターの持つ「安らぎ」や、「庇護」の効果が増幅される。

さらに、うんこ先生の色使いに注目する。色というものはそのキャラに全体の漠然としたイメージを与える働きがある。うんこ先生は黄色の体をしているが、黄色という色自体が持っているプラスのイメージは「愉快な」「陽気な」「ハツラツとした」などである(注41)。黄色いキャラクターで代表されるのはピカチュウや、プーさんで「中立」という印象を与えることから老若男女に愛される可能性を保有する(注42)。この「中立」というイメージには「性別を感じさせない」というイメージも含まれており、黄色を使用したことにより男女共に使えるドリルになったのではないかと考える。また、「うんこ先生」の色を茶色にしなかったのは「うんこ」の生々しさを感じさせないためであったと推測できる(注43)。そして、『うんこ漢字ドリル』には蛍光塗料が使われているが、これは商品として目立たせる効果がある(注44)。

また、「うんこ先生」はとても単純なデザインである。シンプルなうんこの形に丸メガネと髭を書けば「うんこ先生」になり、子供が真似して書きやすくなっている(注45)。

二つ目の視点に移る。まず、フォントに注目すると、『うんこ漢字ドリル』というタイトルは、細い手書き風の独特なフォントが使用されている(図12)。細いフォントは、「女性的」「都会的」「軽快な」「繊細な」「若い」という印象を与えると考えられており(注46)、さらに手書き風の独特な雰囲気が「愛嬌」を醸し出し、消費者にポップな印象を与えている(注47)。「うんこ」の持つ負のイメージをフォントによって解消しているのである。また、『うんこ漢字ドリル』のしっかりとしたドリルとしてのアピールポイントである「見やすい書き順」「覚えやすい独自の順序」という文言に使われているフォントはゴシック体である。ゴシック体は「力強い」「頼りになる」「無機質」「元気な」「男性的」という印象を与える。このことにより、アピールポイントを効果的に消費者に知らせることができる(注48)。このように『うんこ漢字ドリル』はフォントすらもを効果的に活用しているのである。

次に、『うんこ漢字ドリル』内での「うんこ先生」とイラストとの使い分けについての考察を行う。『うんこ漢字ドリル』には「うんこ先生」というキャラクターがいるのにもかかわらず、ドリル内では「うんこ先生」よりも、ただの例文を再現したイラストの方が多い(図13)。キャラクターをメインに、イラストを補助するものとして一貫した使い分けがなされている。つまり、「うんこ先生」というキャラクターが居ながらにして、『うんこ漢字ドリル』の実際のドリル内ではうんこ先生ではないイラストが大半を占めているのである。これが意味するところは、「うんこ先生」の露出を絞り、各ポイントで登場させることでキャラクターの存在感を際立たせるということであり、これによって書籍としてのコンセプトの確立、ブランド構築に力を発揮させることに成功している(注49)。ブランドについての詳しい考察は次章のBで行う。

上記はどれも『うんこ漢字ドリル』のイメージには欠かせないものであり、その成果が「グッドデザイン金賞」というデザイン・機能面でも高い評価につながったと考えられる。

(4).例文

『うんこ漢字ドリル』の宣伝文句の1つとして「全例文でうんこの使用に成功!」とある。このうんこを使用した例文についての考察を行う。

『うんこ漢字ドリル』には1つの漢字につき3つの例文が付いている。『うんこ漢字ドリル』は小学校で習う1006字を網羅しているため、トータルで3018文字の例文が存在し、これは原稿用紙に換算すると約160枚分になる(注50)。ここで『うんこ漢字ドリル』の例文を紹介する。例えば「属」という漢字の例文は

これがうんこからできた金〇(ぞく)『ウンコニウム』です。
まず、付〇(ぞく)のアダプターをうんこに接続してください。
兄は、中学でうんこ野球部に所〇(ぞく)している。」

(文響社編 『うんこ漢字ドリル 小学5年生』p.66)

の3文である。この、ただうんこを使っただけに見える例文だが、『うんこ漢字ドリル』の例文を考えた古屋氏は3つの工夫を施したという(注51)。一つ目は、「嫌悪される例文は避ける」点である。具体的には、うんこを「食べる」、あるいは「くさい」といった読者の想像力を刺激して嫌悪につながる例文は避けている。例えば、「カレーだと思って食べたらうんこだった」という例文などである。このように、読者側が嫌な思いをしないような配慮がなされている。二つ目に、「物質としてのうんこの汚さをなくすような表現」がなされている点だ。「春らしい色のうんこ」「うんこにも羽が生えたらいいのに」などがその代表例である。具体性を極力そぎ落とし、抽象化することによって、うんこの生々しさやリアリティーを薄める工夫をしている。三つ目に、「ポジティブな例文にする」点である。「友だちのカバンにうんこを入れた」「君のうんこを見て気持ち悪くなった」など、いじめにつながるような例文は避け、「君のうんこを見たおかげで元気になった」と、ポジティブな例文になるように工夫されている。これらの工夫によって、子どもだけでなく親も受け入れやすくなったのではないかと古屋氏は述べている(注52)。そしてその効果により『うんこ漢字ドリル』における「うんこ」は「うんこ」でありながら「うんこ」ではない価値の変換が行われた。うんこという単語が本来持っているネガティブな「汚い」、また「下品だ」という印象をこれらの工夫によって払拭し、面白さだけを残すことに成功した。

さらに、小学生にその例文はふさわしいかなどの校閲を教育書籍専門会社に頼んだことにより、さらに学習参考書としての磨きがかけられた。例えば、校閲にひっかかったものの中には、

『官○(かんけん)(注53)め』と叫びながらうんこを振り回している男がいる

という例文があり、校閲では「こうした意味で『官憲』を覚えてほしくはないです」とチェックが入り、出版元は「生きていれば一度くらいこんな気持ちになることもあるのではないでしょうか。」と反論した。すると校閲側は「前途ある小学生に対し、やけになった男の叫び声がわかるでしょうか」と返し、出版元はそれに納得した。このように『うんこ漢字ドリル』の例文は地道な作業の末に完成し、小学生に適したものとして日の目を見たのである(注54)。

また、ひとつの長い読み物としても鑑賞に堪えるものとして仕上げられている(注55)。例えば、例文のそこかしこにさりげなく「冒険家」が登場し、彼の行く先々で遭遇するうんこに関するシーンも盛り込まれている(注56)。これも子供を飽きさせない仕組みとなっている。小学校6年生用の『うんこ漢字ドリル』の最後の例文は

「うんこがなくなった○年(よくとし)、ぼくは中学生になった」

(文響社編 『うんこ漢字ドリル 小学6年生』p.96)

となっている。ストーリー仕立てで、素晴らしい幕引きとなっている。

『うんこ漢字ドリル』例文は多くの人に配慮していながらも、シュールな面白さを失っていない。しかし、なぜ、おもしろいのだろうか。 志村けん(注57)の「変なおじさん」(注58)を例にして考える(図14)。「変なおじさん」は志村けんの人気番組である「志村けんのだいじょうぶだぁ(注59)」内に登場するキャラクターである。志村けんはどこにでもいるような、しょうもなく憎みきれないおじさんを題材にしてそれを人気キャラクターへと作り上げた。これはただ単に「おじさん」という面白い素材で作ったキャラクターではなく、なぜか、おじさんの間で流行のラクダシャツやももひきをはかせ、そして、なぜか、その色を若者が好む色である「ピンク」にし、幼稚園生くらいの子供の間で大人気のパジャマに絵柄を模した自分の顔のワッペンを貼っているのである。流行ものを妙に改変し、付け加えたからこそ「変なおじさん」は人気になったのである。これは、既存のものに、流行ものを妙に改変したものを掛け合わせると大衆向きになるということを示している(注60)。これを『うんこ漢字ドリル』に当てはめると、漢字ドリルというものは既存のもの、「うんこ」というのは流行ものである。詳しくはⅢ章で扱うが、「うんこ」は大人から子供までの多くの人の心の琴線に触れているのである。つまり、ここでいう流行ものという定義に当てはまる。このことから、『うんこ漢字ドリル』は「変なおじさん」が面白い印象を与えたように、その様な印象を消費者に与えている。また、例文には「うんこ」を使うことにより日常とのズレが生まれる。ズレというのは、漫才の中でもよく登場し、ボケキャラは大体「間」がズレていることで笑いを取り、音痴な人は音程のズレから笑われてしまうのである(注61)。

デザイン、そして例文の工夫により「うんこ」をリアルから遠ざけることで『うんこ漢字ドリル』はコンテンツとしても完成度の高いものに昇華されている。

B.マーケティング

『うんこ漢字ドリル』はどのようにマーケティングされたのだろうか。まず、基本的なことから確認していく。『うんこ漢字ドリル』のターゲットは小学1〜6年生である。しかし、ここで厄介なのは漢字ドリルというものは「一次顧客」(注62)と「二次顧客」(注63)が異なる点である。『うんこ漢字ドリル』は今までのドリルより二次顧客である子供を意識しつつも、全く無視することのできない一次顧客(子供以外)に受けのいいものを様々な配慮により作ることに成功した。価格は980円であるが(注64)、1000円を切っているためお得感を感じることができる価格設定になっている(注65)。この価格設定だとプレゼントとしても贈りやすい。事実、大人の女性などがプレゼントとして購入することはよくあるという(注66)。現に私も従弟にプレゼントした。このことから、『うんこ漢字ドリル』は「ギフトとしての教材」という新しい市場を開拓した(注67)。また、『うんこ漢字ドリル』は3月に発売と、新学期を意識した発売時期であった。このことから、新たな学年の教材の購入を検討している親の購入意欲を煽ったと推測できる。

『うんこ漢字ドリル』は出版されてすぐにヒットした。初版3万6000部が瞬く間に売れ、その勢いに「売れる」と確信した出版元の山本社長は、すぐさま出版の増刷では常識外の10万部増刷の挑戦に打って出る。そして、発売からわずか2週間余りで64万部近く販売部数を伸ばすことになったという(注68)。この事例にかかわらず、山本氏の存在自体が『うんこ漢字ドリル』の成功の最も本質的な成功要因かもしれない。

この章の最後に、前節2項で予告したとおり「ブランド化」について言及したい。本論文では「ブランド化」を「マーケティング(販売行為)を不要にするもと」と定義する。言い換えれば、商品を「ブランド化」すれば、販売努力をしなくても、顧客の方から買いたいとよってくるという意味である。「ブランド化」には確固たる世界観の構築が必要であるが(注69)、マーケティングの究極の目的は「ブランド化」とも言える。その意味で、「うんこ」という非常に訴求力のある劇薬を細心の注意を払いながら用い、さらに書籍コンテンツのノウハウのエッセンスを詰め込んだことで『うんこ漢字ドリル』は「ブランド化」に成功したと言える。学習参考書の漢字市場を席巻したばかりではなく、グッズ販売にまでビジネスを拡大している。

本章では、『うんこ漢字ドリル』の持つ様々な工夫を分析することにより、その考察を行った。

次章ではそもそものキーポイントである「うんこ」という言葉の魅力に迫っていきたい。

Ⅲ.「うんこ」というコンテンツ

前章では『うんこ漢字ドリル』に製作者が施した工夫についての考察をした。しかし、「うんこ」という単語があってこその『うんこ漢字ドリル』である。『うんこ漢字ドリル』では「うんこ」という言葉のことを「大人は忌避しがちかもしれませんが、子供にとっては気持ちが盛り上がる言葉であり、口にするだけで楽しくなる魔法のような言葉でもある」(文響社編『日本一楽しい漢字ドリル 『うんこ漢字ドリル』表紙裏「おうちの方へ」)と表現している。本章ではその「うんこ」という言葉に迫っていきたい。

まず、なぜ著者の古屋氏は『うんこ漢字ドリル』にしたのだろうか、『ウンコ漢字ドリル』や、『うんち漢字ドリル』ではダメだった理由はなんなのだろうか。古屋氏は、「ウンコやうんちは言葉のオーラが違く、話にならない。そしてうんちは弱々しく、頼りない。また、軟便という限定的な印象も与えてしまう。「うんこ」という言葉のみが持つ魔法がある。「うんこ」だけが秘めることを許された文学性がある」と語っている(注70)。そもそもなぜこれらの呼び方ができたのか。本来「うんこ」と言うものは大便を指す言葉である。小林良夫の「排泄をめぐる幼児語の研究」によると、時代とともにその呼び名は変化してきていて、「うんこ」という名称が使われ始めたのは比較的最近の事で、150から60年前である。呼び名が変化する背景には、複雑な社会を生きていかなければならない人間の英知によるものがある。大便は「胆汁色素ゆえの色」、また「タンパク質の分解による臭い」、そして「得体の知れない形」である。そのいずれをとっても第三者に不快な感情抱かせるため、それを避けようとして「うんこ」という言葉が用いられるようになったと考えられている。「うんこ」の語源は「うん」といきむ声、それに接尾語の「こ」をつけたものである。さらに「うんち」の歴史は「うんこ」より浅く、昭和26年以降から使用され始めた(注71)。このように「うんこ」やうんちなどの言葉は、健康管理理由上極めて重要な排泄の円滑化を図るため、その前提となる排泄物の実態を損なわない範囲で抽象・美化してきた歴史の上にある。次に、『うんこ漢字ドリル』の利用者である子供と「うんこ」の関係について考えていく。

A.子供と「うんこ」

学習参考書は親が子に買い与えるものだが、『うんこ漢字ドリル』は子供の方から親にせがむケースが多い(注72)。それは、子供が「うんこ」が好きであるからではないか。また、何故か子供は、「うんこ」と言う単語を笑いながらよく口にする。しかし、なぜ「うんこ」と言う単語を好んで使い、そして好きなのであろうか。

富田昌平と藤野和也の「幼児の下品な笑いの発達」によると、まず子供のこれらの笑い(以下、下品な笑い)は4歳から6歳にかけて多く見られ、男女差がない。しかし、初めから子供たちは排泄物や排泄行為を「汚い」、や「恥ずかしい」ものと認識しているわけではない。子供達にとって排泄や、鼻水などは、非常に不気味なものであるが、出した後にはスッキリする。体に潜んでいたものが外に出ると開放感を覚えるため、子供は関心を抱くようになっていく。そしてその中でも最もグロテスクさを感じる異物感が「うんこ」であり、日々の生活に根付いている。そして、排泄のコントロールの獲得を境に子供たちは、それらを隠すべきタブーの事柄であると認識した上で、あえて口にするようになるのだ。その理由には主に2つある。1つ目は、親などに言うことによって相手の反応を楽しむためである。子供達は「うんこ」と口に出すことによって普段は真面目な大人を怒らせることによって一矢報いているのだ(注73)。

この後、「うんこ」を言う対象が母親から友だちに移っていき、2つ目の理由に移行していく。2つ目は、下品な笑いをお互いに言い合うことにより友達とのあいだで親和的な関係を樹立したり確認したりしているのである(注74)。小学生になると、次第に、下ネタの話題は恥ずかしいという感情も芽生えてくる。しかし、男子は、小学4年生ぐらいまでは仲間うちで下ネタを話題として楽しむ傾向がある。これには友だち関係をつくるときの男女差が関係してくる。女子は互いを「褒め合う」ことで、「私たち友だちだよね」という意識を高めるが、男子は異なるのである。男子は「強さ」「かっこよさ」を志向するようになる一方で、「くだらなさ」を共有するところがあるのである。事実、『うんこ漢字ドリル』の売り上げは小学2年生がもっとも多く、低学年、中学年、高学年と学年が上がるにつれ減少している(図15)。

さらに、精神学者のフロイトは、人類と排泄物に関して理論化した。「人間の全ての行為が性交に関係している」とし、子供が排泄時に味わう快感は大人になって味わう性交の前兆であると捉えた。そしてその、性的感覚が目覚める2〜4歳くらいの幼児期を「肛門期」と名付けた。さらに、フロイトは子供が排泄物などの話を好むのは、大人が性交の話を好むのと類似している、とした(注75)。このことからも、子供の「うんこ」好きを説明することができる。

B.「うんこ」の絵本

「うんこ」を題材にした絵本は今に至るまで沢山出版されており、ベストセラーになったものも多い。 絵本『みんなうんち』、『ひとりでうんちできるかな』はともにミリオンセラーである。比較的新しい『うんこ!』の発行部数も38万部に達していて、『うんこしりとり』の発行部数は10万部である。(注76)この中には、子供に対する教育の意味での「うんこ」を題材にしたものもあるが、そうでないものもある。これらのことからも、子供がうんこ好きなことがわかる。そして、幼児に読み聞かせる絵本に「うんこ」という言葉がメインで登場するのだから、小学校向けの学習参考書に「うんこ」をメインにしたものがあっても、なんら違和感はない。

C.「うんこ」のキャラクター

「うんこ」と言う単語だけではなく、「うんこ」をキャラクター化し、アニメ化したものも人気である。それは、「うんこさん」というアニメである(図16)。「うんこさん」とは世界の何処かにある、ツイてる人にしか見えないという伝説の島「ラッキー島」に住む妖精「ウンコロボックル」という設定で、全ての登場キャラクターが「うんこ」である(注77)。このアニメは一見、幼児や小学生を対象としたものに感じられるが、実際は関西テレビの10代後半〜20代向けの深夜音楽番組「音エモン」内で放送され女子高生に人気だったのである。この人気は、グッズ化などもされたほどだった(注78)。

このアニメ内でも「うんこ」を題材にしているとはいえ、「うんこ」をデフォルメ化することにより、「うんこ」自体の負のイメージを感じさせないようになっている。

「うんこ」がキャラ化されているのはアニメの世界だけではない。私たちに身近な存在である絵文字でも同様である(図17)。絵文字というのは日本から生まれ、今やemojiとして世界の人に親しまれている。絵文字と言うものはドコモで携帯電話向けに初めて開発されたが、初めから「うんこ」の絵文字が採用されたわけではなかった。その理由は、「送られてきた人が嫌な気持ちになる可能性がある」という理由で却下されたからである。しかし、その後auから登場し、現在へとつながっている。今や世界的に使われるようになった絵文字だが、その中でも「うんこ」の絵文字は人気である(注79)。さらに、Twitterの絵文字デザイナーも「うんこ」の絵文字が、大のお気に入りと語っている(注80)。このように、「うんこ」は子供にだけでなく、女子高校生を含め、多くの大人の心の琴線にも触れるのである。なお、世界共通の絵文字でも、「うんこ」の絵文字の捉え方が日本と海外で異なるのが興味深い。日本ではあの絵文字のフォルムを「うんこ」が巻かれたものと捉えるのが一般的である。一方で海外では、pile of poo(積み上げられた「うんこ」)と名付けられている(注81)。

本章では、「うんこ」という言葉が持つ力について、「うんこ」という言葉の歴史的位置づけや子供と「うんこ」の関係性について精神分析的側面などから迫った。「うんこ」はその排泄物としての「汚さ」「嫌悪」を緩和する歴史のなかで作られた言葉で、その言葉自体が近年のトレンドである「キャラ化」されているのである。すなわち、学習参考書の領域に『うんこ漢字ドリル』が登場したのも偶然の産物ではなく、歴史的必然だったのかもしれない。次章では、『うんこ漢字ドリル』を販売することができる日本という国が、下品なものに寛容だからではないかという立場で推察していく。

Ⅳ.日本人の国民性

前章では「うんこ」という言葉が持つ力について迫った。しかし、いくら「うんこ」という言葉に力があると言って、販売する環境によっては『うんこ漢字ドリル』は非難されかねない。日本は『うんこ漢字ドリル』が制作・販売され、そしてヒットした。その背景には日本人が持つ、国民性が関与しているのではないか、という立場で考察を進めていく。

A.日本人と下品なもの

『うんこ漢字ドリル』はプレゼントとして大人の女性からも人気である。(注82)また、認知症の方や認知予防として高齢者の方が、楽しみながら利用している(注83)。このように、『うんこ漢字ドリル』は世代を超えて支持されている。その理由には、「日本人が下品なものに寛容だ」というものがあるからではないか。

現存する日本最古の歴史書である『古事記』には、性と排泄についての話が多い。『古事記』では、イザナギとイザナミという夫婦神が互いの体の違いを確認し、日本の国土を生み出していく。しかし、妻イザナミが火の神を産むに至って、「ほと(注84)」が焼けたのが原因で死んでしまう。このように、『古事記』では初めから下ネタが飛び出してくる。その時、断末魔(注85)のイザナミは、嘔吐物と屎(注86)と尿から、なおも神々を生み出していく。このように、現代社会では「下品」と言われるようなものからでさえ、神が生まれているのである。また、尻から食べ物を出す女神や大便中の美女の「ほと」をつついた神、他にもアマテラスの大嘗殿をスサノオが屎をして汚したといった話もある(注87)。さらに、昔話の中には、垢から生まれた力太郎の話も登場する(注88)。このことから、日本人は元来下品なものに寛容な国民なのではないかと推測することができる。

さらに、世界に誇る日本文化であるアニメにも下品な作品がある。代表的なのは、「クレヨンしんちゃん」である。放送時間である金曜日の夜7時30分という夕飯の時間帯でありながら、「ケツだけ星人」などの下品なシーンが度々登場する(図18)。しかし、「クレヨンしんちゃん」は子供向けアニメであるため、Ⅲ章Aで述べた下品な笑いが子供にウケるのは理解できる。また、『おしりたんてい』シリーズ(注89)は2017年児童書売れ行き良好書(読み物・児童文庫)において刊行されている読み物5点全てが上位10位以内にランクインした(注90)。これも同じことだろう。

また、少年漫画の分野でも下品な作品がある。『銀魂』(注91)はアニメ化した際にBPO(注92)に苦言が寄せられるどということもあったと言う。しかし、原作の漫画は、5000万部と漫画歴代発行部数ランキングでは30位にランクインするほどの人気を誇った(注93)。さらに、2017年に実写映画化もされ、興行収入は38.4億円と2017年度の邦画興行収入ランキングでは、第3位にランクインした(注94)。さらに、映画第二段の公開も2018年8月にされ、2018年10月1日時点で興行収入35億円突破し大ヒットした(注95)。また、同じ少年漫画の『ボボボーボ・ボーボボ』では主人公のボボボーボ・ボーボボが「鼻毛真拳奥義」という技を繰り出す。このような下品な漫画は日本では一般に「ギャグ漫画」というくくりにされている。

お笑いの世界でも下品なネタをする芸人がいる。日本では裸芸をする芸人も多い。2007年あたりにブレイクした「小島よしお」は常に海パン姿である。また、「小島よしお」の「そんなの関係ねぇ」というネタは『2007ユーキャン新語・流行語大賞』で大賞以外のトップテンに入った(注96)。また、2015年あたりにブレイクした「とにかく明るい安村」は裸に見える格好をしているように見せて「安心してください、履いてますよ」の決め台詞とともに履いているパンツを見せるネタで、一躍有名になった。また、「そんなの関係ねぇ」同様、決め台詞は『2015ユーキャン新語・流行語大賞』で、トップテン入りした(注97)。さらに、2017年にブレイクした、全裸で登場し股間をお盆で隠してそのお盆を回転させるなどのネタをする「アキラ100%」などもいる。

 テレビ番組においても下品な番組がある。代表して挙げられるのは「笑ってはいけない」シリーズである。これは、毎年大晦日に放送される「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」の特別番組である。題名にもあるように、罰ゲームとして笑ったらお尻を叩かれるのだが、笑わせ方も下品である。しかしながら、放送日である大晦日の視聴率は17.3%で8年連続民放首位(2018年現在)(注98)となっている。

このように、子供もさることながら、幅広い層で下品な笑いは受け入れられているのである。これらのことから、やはり、日本人は下品なものに寛容であると考える。

B.日本人とトイレ

先ほど扱った『古事記』の日本神話は神道に通じている(注99)。神道とは日本固有の民族信仰で、あらゆるものに神が宿るという「八百万の神」という考え方を持つ。そしてその中には「便所神」、一般的にはトイレの神様と呼ばれる神も存在する。このトイレの神様を信じているのは日本以外にも存在するが、世界的に見て珍しい(注100)。しかし、その神の存在が、かつては不浄とされた便所を綺麗に使って大切にするという感覚を刷り込んだのだろう。さらに、神道の世界には「禊(注101)」というものがあり、この影響を受け風呂文化が日本に広められたと考えられている。これらの神道の文化が日本人にもたらしたものは、「清潔さ」である。さらに、江戸時代の日本の清潔さにまつわる話がある。それは、当時アメリカで起きていたコレラ、チフスなどの病気が日本では稀であったということである。この要因は日本のトイレシステムがとても良く機能しており、街全体が清潔だったからである。その清潔さは、現在まで続いており、東京区内の下水道は普及率100%である。このように、日本人が清潔な民族と言われることになった背景から他国に比べても日本は清潔であるということがわかったが、清潔な街への歩みの背景には不清潔なものとの決別の歴史が存在する。遠い昔から清潔な環境を獲得し続けてきた日本人だからこそ、不潔なものに対する嫌悪というものが薄いのではないかと考える。そして、不潔なもの、主に大便などに対する「生々しさ」「汚さ」などに対する嫌悪を日々感じることがないため、「うんこ」のキャラクター化や、『うんこ漢字ドリル』などの「うんこ」を本来の「うんこ」そのものとして捉えない捉え方ができる世の中になったのではないだろうか。

C.「うんこ」と「健康」を結びつける企業

日本を代表する会社の中には「うんこ」と「健康」を結びつけ、ビジネスに役立てている会社がある。乳酸菌飲料を製造・販売するヤクルトである。ヤクルトは生きた乳酸菌の入った「ヤクルト」を世界で販売するグローバル企業である。健康のために生きた菌を飲むという考え方は、ヤクルトが始めるまではどこの国にも存在しなかった。(注102)そのため、1935年の創業以来長年に渡って乳酸菌が腸内環境を整え健康によい微生物であることを説明する啓発活動に力を入れている。その具体的な活動の一つが小学校向けの「出前授業」と呼ばれている啓発活動で、ヤクルト社員が小学校などに出向き、腸の大切さや「いいうんち」を出すための生活習慣について、模型などを活用して、わかりやすく説明する「ウン知育教室」を開催している。このヤクルトの取り組みは、ビジネスの側面からも企業の社会的責任(CSR)の側面からも高く評価されており、日本食育学会にも好事例として紹介されている。ヤクルトはこの「出前授業」を2008年から行っている。同社のホームページに掲載れているCSRレポート(過去5年間の集計)によれば、直近の過去5年間の全国での実績回数は約11,880回、参加者数は約100万人にのぼり、社会的にインパクトのある活動として展開されている(注103)。

「いいうんち=健康」の図式を科学的なエビデンスを用いながら小学生に楽しく教える「出前授業」は、乳酸菌の働き、腸内環境を整えることが健康につながるという小学生には難しい医学テーマを、「いいうんちの出し方」に置き換えることで楽しくわかりやすく教える点で、『うんこ漢字ドリル』に通じるものがある。

また、ヤクルトに限らず、近年プロバイオティクスを含んだヨーグルトや乳製品市場が急拡大しており(図19)、「腸内環境を整える=いいうんち=健康」の考え方が広く消費者に共有されだしていることなども「うんこ」に寛容な土壌形成に一役買っていると思われる。

本章では日本でヒットしたというところから、日本人の国民性が『うんこ漢字ドリル』の販売、またヒットに適していたからではないかという観点から考察をした。その結果、日本人は清潔な国民性のため、うんこの持つ負のイメージが定着しづらく、また、古事記から現代のアニメ、お笑いは下品なものも多々あり、それを受け入れてきた下品なものに寛容であり、さらには、「うんこ」と健康の関係性を医学的根拠から理解する消費者が拡大している状況なども、日本において『うんこ漢字ドリル』が受け入れられる土壌があったと考えられる。

今までは、売れる前段階の『うんこ漢字ドリル』そのものや環境についての考察を行ったが、次章では、販売されてからのことについて考察をする。

Ⅴ.SNSによるヒット

全国出版協会、出版科学研究所による『2018年版 出版指標 年報』によると、2017年のベストセラーは、前年に引き続き、テレビや新聞など各メディアで紹介されて、出版社がプロモーションに注力した書籍が売れる傾向が目立ったという。また、電車での交通広告や新聞広告、テレビ番組での紹介を各社が強化し、読者への訴求力を高めている。また、文響社の特徴としてもPR戦略に長けている点があり、2017年もヒットが多かった(注104)。前章までは、『うんこ漢字ドリル』本体や、環境などについての観点からヒットについての考察をしたが、本章では販売後の宣伝などによることからのヒットの要因について考察していく。

A.インターネット

『うんこ漢字ドリル』はある主婦のツイートが拡散されたことにより、有名になった(図20)。このツイートは2017年3月18日にツイートされ、約4万4000回リツイートされた。また、内容も「例文がすべて「うんこ」の漢字ドリルを見つけてしまった。小学校1〜6年まで揃ってるw笑ってしまって果たして勉強になるのか?w」(Twitter「ヲタ主婦@封神演義が苦行」2018年7月27日取得)と肯定的なものであった。この3月18日というのは『うんこ漢字ドリル』の公式の発売日より前の、先行発売の期間だった。

ここで、TwitterというSNSについて掘り下げていく。Twitterとは、2006年にサービスがスタートしたSNSで、日本で人気が高い。さらに、数あるSNSの中でTwitterを最もよく使う唯一の国は日本である(注105)。また、TwitterなどのSNSは役立つ情報を含んでいるか、否か、ということより読み手の共感を得ることが重要であると捉えることができる(注106)。

また、Twitterの特徴の一つに匿名のアカウントが多いということが挙げられる。そのため、カッコつけたり世間体を気にする必要もないので、より率直な意見を発信することが可能だ。そして、良いものは良い、悪いものは悪い、とあけすけに語られるので、信頼できる情報だと感じることができる(注107)。さらに、拡散されたツイートが画像付きであったことも重要である。文字のみでのツイートが主であるTwitterにおいて、画像付きのツイートはそれだけで目を止めやすくなる。これらのことを踏まえて、ある主婦のツイートは共感を集めやすく、さらに、画像付きであったということが拡散された要因である。また、そのツールが日本でメジャーなTwitterであったということも要因のひとつといえる。さらに、Ⅲ章Bの3で述べた駿台文庫の『生きるセンター漢字・小説語句』では、否定的な内容が拡散された。一方で、『うんこ漢字ドリル』は肯定的な内容で拡散されたことも『うんこ漢字ドリル』のヒットにつながったと考える。

その後、このTwitterでの異常な盛り上がりを受けて、その内容がウェブニュースで取り上げられた。

B.テレビ

インターネット上での反響の大きさから、後日複数のテレビ(ワイドショーや情報番組)で『うんこ漢字ドリル』は上げられた(図21)。

そして、テレビへの露出をするたびにTwitterで盛り上がりを見せ、拡散はツイート→ウェブニュース→テレビ→ツイートの連鎖を巻き起こし、驚異的なヒットに繋がっていく。このことは相関グラフから分析できる(図22)。

テレビ番組ではじめに取り上げたのはNEWSZEROの1コーナーだ。『うんこ漢字ドリル』を異例のヒットとして取り上げている。その後、とくダネ!・めざましテレビと続き、ワイドショーや情報番組での露出がほとんどという結果になった。これらの放送が小学生を子に持つ親、つまり商品のターゲットとなる層と合致したことにより更なる認知拡大と発行部数増加の一因になったと考えられる(注108)。

また、世代によって主な情報収集のツールがインターネットであるか、テレビであるかが異なる(図23)。このことから、異なるツールで拡散されたことにより多くの人の目に触れることになったということが分かる。

本章では、『うんこ漢字ドリル』がどの様に世の中に広まっていったのか、に焦点を当てて『うんこ漢字ドリル』のヒットの要因を考察した。その結果、Twitterというツールによって拡散されたこと、そしてそれがウェブニュース、さらにはテレビに紹介され、多くの人に広まったことでヒットしたとして結論づける。ここで重要なのは、『うんこ漢字ドリル』という強いインパクトのある作品により、消費者自らが話題にし、そのおかげでまた『うんこ漢字ドリル』が広がり、自らプロモーションをしなくても社会に話題にされるのである。このことを考慮すると、今後いかにSNSをうまく利用するか、がヒットの鍵になっていきそうである。

結び

反復学習を強いる漢字練習は元来つまらないものだった。しかし「うんこ」という魔法の言葉とともに様々な工夫をこらした『うんこ漢字ドリル』は漢字練習を楽しいものに変えた。これは、今後の学習の形を変える可能性を秘めている。「勉強」とは受け身の動作、「学び」とは自発的な動作と定義するならば、子供は元来、やることを強制される「勉強」は嫌いだがそこに楽しさが加われば、その「勉強」は「学び」となる。子供は「学び」が大好きなのだ。

『うんこ漢字ドリル』の最大のヒットの要因をひとことで要約すれば、この「勉強から学びへの変換」に成功したことによる。Ⅲ章で明らかにしたように「うんこ」という言葉の力を背景に価値の変換に成功したのだ。しかし、この「うんこ」という言葉は人を強力に引きつける一方、劇薬であり、この劇薬の取り扱いを誤った参考書は消費者に葬り去られた。その意味で、Ⅱ章で考察したように出版社の用意周到な戦略は目逃せない。「うんこ」という言葉の使用に際する消費者への配慮、書籍としてのコンテンツの完成度の高さ、そして、理念を貫く販売戦略。どれもヒットするためには必要不可欠であり、また、Ⅳ章で明らかにしたようにこのような劇薬をそもそも扱うことが許される寛容な土壌が日本にあったということもヒットの大きな要因としてあげられる。そして、Ⅴ章で示したように、現代的な形で、これらの価値がツイッタ―の拡散を通じてマスメディアを巻き込み、ある種の社会現象化するまでに拡大し、学習参考書としては異例の大ヒットにつながったのは偶然ではなく必然だった。まさに、ヒットにはヒットするだけの明確な理由があったのだ。

序で立てた仮説をもとに検証していったが、『うんこ漢字ドリル』のヒットの理由を多角的に明らかにし、同時に『うんこ漢字ドリル』の書籍としての本質も立体的に浮き彫りにできたのではないかと考える。

全体を通して、感じたことは「うんこ」という言葉は長い時代を経て、「うんこ」本来の持つイメージであるその生々しさを少しでも払拭するための言葉であったということである。すなわち、「うんこ」という言葉は時代とともに刻々と変化し、現代における「うんこ」という言葉は「うんこ」という具体的な物質を指すというより、抽象的な物質の「うんこ」を指すまでに変容してきた。また、日本が清潔な国だからこそ、「うんこ」の持つ嫌悪などを感じにくく、「うんこ」のキャラ化などが可能な社会であったことだ。 このことから近年になるにつれ「うんこ」と言う言葉は本来の持つ大便の意味とは異なってきているのではないかということである。すなわち、『うんこ漢字ドリル』は、この「うんこ」というもののクリーンな流れの先にある、時代の先駆的な本なのである。

注記

1 本論での『うんこ漢字ドリル』は、主に文響社編『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル』を指す。

2 うんこ漢字ドリル公式サイト(2018年7月27日取得)参照。

3 ベネッセ教育総合研究所「小学生の漢字力に関する実態調査 2007」(2018年7月28日取得)参照。

4 H・I・マルー著 横尾荘英 飯尾都人 村清太訳『古代教育文学史』P.71参照。

5 東京都立図書館「『寺子屋』って何?」(2018年7月28日取得)参照。

6 Point of Sales(ポイント・オブ・セールス)の略で、「販売時点」と訳される。「POSデータ」とは店のレジで販売(支払い)がなされる時のデータという意味。

7 全国出版協会 出版科学研究所『2018年版 出版指標 年報』p.130 参照。

8 2012年にYouTubeでじんというアーティストによって投稿された曲。

9 「すぐに使える歌声」と自分好みにカスタムできる「直感的な調声機能」を持った、バーチャルシンガーのソフト。え

10 前掲書(注7)p.130 参照。

11 学研公式サイト「しずくちゃんドリル」(2018年7月27日取得)参照。

12 e-hon「クレヨンしんちゃんの漢字ドリルブック 読み、書き、書き順がバッチリ! 1年生」(2018年10月31日取得)参照。

13 うんこ川柳とは、「うんこをぶりぶり漏らします」が発生の契機となり出来上がった定型詩(2003~)で「川柳」と名がついているが厳密には川柳ではない。また、 上の句、中の句、下の句に分かれるのは通常の川柳と同であるが五七五ではなく四四五で詠まれる。

14 2010年に設立。小規模な会社ながらもヒット本を生みだしている。

15 1984年に設立。大手出版物の、主にドリルから教育書までの出版物を編集制作している。

16 水野敬也、長沼直樹による本。

17 安田正による本。

18 キャリコネニュース「ホンキで勉強する学生には好評 駿台『セクハラ』問題集は、そんなにアカンのか?」(2018年7月31日取得)参照。

19 ゴロゴ板野の古文単語ゴロ565(2018年7月31日取得)参照。

20 古文単語の「たゆむ」は油断するという意味。

21 2017年5月30日時点。日経ビジネスONLINE「『うんこ漢字ドリル』、ヒットの陰に3つの  

工夫」(2018年6月12日取得)参照。

22 日本出版販売株式会社「2017年間ベストセラー」(2018年4月24日取得)参照。

23 株式会社トーハン「2017年 年間ベストセラー」(2018年7月27日取得)参照。

24 文部科学省「文部科学統計要覧(平成29年版)」(2018年7月30日取得)参照。

25 前掲書(注7)p.130 参照。

26 中身。内容。

27 岩永嘉弘『ネーミング全史』p.22参照。

28 前掲書(注27)p.151参照。

29 前掲サイト(注2)参照。

30 板野博行『古文単語ゴロゴ』p.8参照。

31 プレジデントオンライン「人気『うんこ漢字ドリル』の"致命的欠陥"」(2018年4月24日取得)参照。

32 グッドデザイン賞「『うんこ漢字ドリル』」(2018年4月24日取得)参照。

33 クリエイターズステーション「『うんこに人生を賭けてくれ』と言われて……。大ヒット『うんこ漢字ドリル』を作った人々」(2018年8月3日取得)参照。

34 相原博之『キャラ化するニッポン』p.27参照。

35 1974年に誕生したサンリオの子猫のキャラクター。

36 おでん屋台のお鍋の中にある、おでん村のキャラクター。餅巾着のキャラクターである。

37 しんどうこうすけ『エンタメの法則』p.109参照。

38 グラフィックソフトなどで滑らかな曲線を描く方式のひとつでベジェというのは、この方式を考えた人の名前である。

39 前掲書(注37)p.110参照。

40 前掲書(注37)p.109参照。

41 中野由仁『会社と仕事を変えるデザインの仕掛け』p.23参照。

42 前掲書(注37)p.115参照。

43 日経ビジネスONLINE「『うんこ漢字ドリル』、ヒットの陰に3つの工夫」(2018年6月12日取得)参照。

44 前掲書(注37)p.116参照。

45 前掲サイト(注33)参照。

46 前掲書(注41)p.26参照。

47 前掲書(注37)p.184参照。

48 前掲書(注41)p.27参照。

49 並木裕太『ヒット商品が教えてくれる 人の「ホンネ」をつかむ技術』p.94参照。

50 前掲サイト(注32)参照。

51 前掲サイト(注43)参照。

52 前掲サイト(注43)参照。

53 役所・行政官庁、またはその任務に携わる役人・官吏。特に、警察関係についていうことが多い。

54 ダ・ヴィンチニュース「“うんこ”が秘める文学性、そして知られざる『ボツうんこ例文』とは?『うんこ漢字ドリル』古屋雄作インタビュー」(2018年8月3日取得)参照。

55 前掲サイト(注54)参照。

56 GetNaviweb「出版界激震の大ヒット本『うんこ漢字ドリル』はいかにして生まれたか【インタビュー】」(2018年6月18日取得)参照。

57 日本のお笑い芸人で、ザ・ドリフターズのメンバー

58 志村けんが演じるギャグキャラクター。昔、フジテレビで放送されていたバラエティ番組「志村けんのだいじょうぶだぁ」が発祥。

59 1987年11月16日から1993年9月27日まで毎週月曜日 20:00 から20:54に放送されていたお笑いバラエティ番組で志村けんの冠番組である。

60 前掲書(注37)p.39参照。

61 鶴間政行『人に好かれる笑いの技術』p.134参照。

62 実際にお金を出して購入する客。

63 一次顧客に対して、製品・サービスを利用する客。

64 一般的には600円から800円が相場である。

65 阪本啓一『「こんなもの誰が買うの?」がブランドになる 共感から始まる顧客価格創造』p.30参照。

66 Yahoo!ニュース「なぜ 『うんこ』は子どもに人気なのか 漢字ドリルが260万部」(2018年6月12日取得)参照。

67 前掲書(注65)p.36参照。

68 前掲サイト(注51)参照。

69 前掲書(注65)p.35参照。

70 前掲サイト(注54)参照。

71 小林良夫「排泄をめぐる幼児語の研究」参照。

72 「特集 84万部突破! 子供も大人も魅入られた『うんこ漢字ドリル』の社会的考現学」参照。

73 富田昌平 藤野和也「幼児の下品な笑いの発達」参照。

74 前掲サイト(注66)参照。

75 前掲書(注72)参照。

76 深田萌絵「『うんこ漢字ドリル』 林真理子さんまで『いいね!』でも、なんかクサイよネ」参

照。

77 うんこさん-ツイてる人にしか見えない妖精-(2018年8月4日取得)参照。

78 NewsWalker「東京進出なるか!?関西発の強烈ゆるキャラ“うんこさん”の軌跡」(2018年10月22日取得)参照。

79 BuzzFeedNews「ドコモの絵文字、MoMAに収蔵 『すごいことすぎて現実感が…』生みの親の思い(2018年8月5日取得)参照。

80 DIGIDAY 「Twitterの絵文字デザイナーに、その制作秘話を聞いた」(2018年8月5日取得)参照。

81 Weblio辞書「Pile of pooの意味・使い方」(2018年8月6日取得)参照。

82 前掲サイト(注66)参照。

83 週刊女性prime「『うんこ漢字ドリル』作者、新作にも太鼓判『うんこほど時代を越えて愛さ

れる言葉はない』」(2018年8月5日取得)参照。

84 女性器。

85 息を引き取る間際の苦痛。

86 昔の排泄物の呼び名。

87 大塚ひかり「古事記の性とうんこ」参照。

88 まんが日本昔ばなし「力太郎」(2018年8月6日取得)参照。

89 顔の形が “おしり”に見える名探偵の「おしりたんてい」が、数々の難事件を「フーム、に

おいますね。」というお決まりのセリフを言いながら、ププッと解決していく謎解き物語。ㇱ

リーズ累計150万部を超える大ヒットシリーズで幼児から小学校低学年の男女を中心に爆的

人気を得ている。

90 前掲書(注7)p.128.129参照。

91 空知英秋による漫画。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて2004年2号から2018年42号まで連載された。

92 放送倫理・番組向上機構のことである。

93 漫画全巻ドットコム「漫画歴代発行部数ランキング」(2018年8月6日取得)参照。

94 一般社団法人日本映画製作者連盟「過去興行収入上位作品」(2018年8月6日取得)参照。

95 アニメ!アニメ!「実写『銀魂2』興行収入35億円を突破! シリーズ累計560万人動員の2年連続ヒット」(2018年10月31日取得)参照。

96 J-CASTテレビウォッチ「小島よしお『そんなの関係ねー』 『流行語』受賞の『そんなの関心ねー』?」(2018年10月28日取得)参照。

97 マイナビニュース「とにかく明るい安村、流行語大賞トップ10入りで『来年アメリカ進出』宣言」(2018年10月28日取得)参照。

98 ORICON「『ガキ使』大みそか視聴率17.3% 8年連続民放首位」(2018年8月6日取得)参照。

99 LIVE JAPAN「神道の成り立ちと歴史」(2018年8月6日取得)参照。

100 nanapi「『トイレの神様』は意外といた!世界各国のトイレ・排泄にまつわる神様たち10柱」(2018年10月28日取得)参照。

101 身に罪または穢れのある時や重大な神事などに従う前に、川や海で身を洗い清めること。

102 ヤクルト「ANNUAL REPORT 2015」(2018年8月16日取得)参照。

103 ヤクルト「株式会社ヤクルト本社 第66期株主通信」(2018年8月16日取得)、ヤクルト「地域社会」(2018年8月16日取得)参照。

104 前掲書(注7)p.29参照。

105 DIGIDAY「日本はTwitterがもっとも利用される唯一の国:世界のSNSユーザー動向を示す5つの表」(2018年11月1日取得)参照。

106 大川陽聡 高間康史「Twitter 上で共感を生み出すツイートの性質に関する考察」参照。

107 Forbes「匿名なのに信用される? ツイッターの『美容垢』が強いワケ」(2018年11月2日取得)参照。

108 株式会社VLeライナック「『うんこ漢字ドリル』のヒットから紐解く現代マーケティン

グ手法」(2018年4月22日取得)参照。


参考資料


「図書資料」

<単行本>

相原博之『キャラ化するニッポン』(講談社、2007年)

泉谷閑示『反教育論』(講談社、2013年)

岩永嘉弘『ネーミング全史』(日本経済新聞出版社、2017年)

H・I・マルー著 横尾荘英 飯尾都人 村清太訳『古代教育文学史』(岩波書店、1985年)

江下雅之『ネットワーク社会の深層構造』(中央公論新社、2000年)

NHK放送文化研究所編『現代日本人の意識構造 [第七版] 』(日本放送出版協会、2010年)

NHK放送文化研究所世論調査部編『日本人の好きなもの データで読む趣向と価値観』(日本放

 送出版協会、2008年)

きむらゆういち『ひとりでうんちできるかな』(偕成社、1989年)

五味太郎『みんなうんち』(福音館書店、1981年)

斎藤環『キャラクター精神分析』(筑摩書房、2011年)

阪本啓一『「こんなもの誰が買うの?」がブランドになる 共感から始まる顧客価格創造』(日本経済新聞社、2017年)

佐々木俊尚『2011年 新聞・テレビ消滅』(文藝春秋、2009年)

佐藤卓己『メディア社会』(岩波書店、2006年)

サトシン『うんこ!』(文溪堂、2009年)

ジョエル・ベスト著 林大訳『なぜ賢い人も流行にはまるのか』(白楊社、2009年)

ジョン・コルコ著 千葉敏生訳『ひらめきをデザインする』(早川書房、2016年)

しんどうこうすけ『エンタメの法則』(インデックス・コミュニケーションズ、2007年)

鈴木賢志『日本人の価値観 世界ランキング調査から読み解く』(中央公論社、2012年)

高橋徹『日本人の価値観・世界ランキング』(中央公論社、2003年)

鶴間政行『人に好かれる笑いの技術』(株式会社アスキー、2008年)

ディラン・エヴァンズ著 遠藤利彦訳『感情』(岩波書店、2005年)

中野由仁『会社と仕事を変えるデザインの仕掛け』(クロスメディア・パブリッシング、2011年)

並木裕太『ヒット商品が教えてくれる 人の「ホンネ」をつかむ技術』(講談社、2010年)

森行生『ヒット商品を最初に買う人たち』(ソフトバンク新書、2007年)

矢野和男『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社、

 2014年)

山崎富美 野崎耕司 川井拓也他『Twitterマーケティング 消費者との絆が深まるつぶやきのルール』(インプレスジャパン、2009年)

山本康博『ヒットの正体』(日本実業出版社、2014年)

tuperatupera『うんこしりとり』(白泉社、2013年)


<学習参考書>

石井智子監修『「カゲロウデイズ」で中学英単語が面白いほど覚えられる本』(KADOKAWA、2014年)

板野博行『古文単語ゴロゴ』(スタディカンパニー、2013年)

学研プラス編『ボカロで覚える 中学英単語』(学研出版、2017年)

笹間俊彦監修『しずくちゃんドリル 小学1年生のかんじ』(学研出版、2005年)

霜栄『生きるセンター漢字・小説語句』(駿台文庫、2015年)

水王舎編集部編『まいにちおならでかん字ドリル』(水王舎、2017年)

壷井伝六編『尋常小学読本漢字練習資料 第5学年用』(壷井伝六、1911年)

トレンディエンジェル 金田一秀穂『トレンディエンジェルのハゲラッチョかん字ドリル』(宝島社、2018年)

文響社編『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル』(文響社、2017年)

文響社編『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル』 テスト編』(文響社、2018年)

文響社編『日本一楽しいひらがなドリル うんこひらがなドリル』(文響社、2018年)

りんりん舎編『クレヨンしんちゃんの漢字ドリルブック』(双葉社、2008年)


<辞書>

新村出編『広辞苑 第6版』(岩波書店、2006年)


<年報>

全国出版協会 出版科学研究所『2018年版 出版指標 年報』(全国出版協会出版科学研究所、2018年)


「雑誌・新聞資料」

<雑誌>

大塚ひかり「古事記の性とうんこ」『別冊太陽 日本のこころ』(平凡社、2012年3月号)

深田萌絵「『うんこ漢字ドリル』 林真理子さんまで『いいね!』でも、なんかクサイよネ」『月間WiLL』(ワック・マガジンズ、2017年8月号)

「特集 84万部突破! 子供も大人も魅入られた『うんこ漢字ドリル』の社会的考現学」『週刊新潮』(新潮社、2017年5月18日菖蒲月増大号)


<論文>

大川陽聡 高間康史「Twitter 上で共感を生み出すツイートの性質に関する考察」『情報アクセスと可視化マイニング研究会』(第2回、2012年11月)

梶山俊二 藤野良孝「アクティブ・ラーニングを志向したうんちゃんマーカーコーンの開発 -小学生ラグビーの場合-Development of a Lucky Marker Cone to Facilitate Active Learning - In the Case of Primary Schoolchild Rugby -」『情報学研究』(第27巻、2018年3月)

小林良夫「排泄をめぐる幼児語の研究」『東海女子短期大学紀要』(第22号、1996年3月)

富田昌平 藤野和也「幼児の下品な笑いの発達」『三重大学教育学部研究紀要』(第67巻、2016

 年3月)


「映像・音声資料」

<テレビ>

日本テレビ『NEWS ZERO』「#『うんこ漢字ドリル』 異例の大ヒット!制作現場は...?」(2018年3月20日放映)


「インターネット資料」

アニメ!アニメ!「実写『銀魂2』興行収入35億円を突破! シリーズ累計560万人動員の2年連続ヒット」

https://animeanime.jp/article/2018/10/02/40514.html 2018年10月31日取得

アニメ「おしりたんてい」公式ホームページ

http://www.oshiri-tantei.com/info/ 2018年8月6日取得

アニメ「がんばれ!おでんくん」公式サイト

http://fight-odenkun.com 2018年11月1日取得

一般社団法人日本映画製作者連盟「過去興行収入上位作品」

http://www.eiren.org/toukei/ 2018年8月6日取得

うんこ漢字ドリル公式サイト

https://unkokanji.com 2018年7月27日取得

うんこさん-ツイてる人にしか見えない妖精-

http://www.unko-san.jp 2018年8月4日取得

学研公式サイト「しずくちゃんドリル」

https://hon.gakken.jp/series/しずくちゃんドリル 2018年7月27日取得

株式会社あいげん社公式サイト

http://www.aigen-sha.co.jp 2018年10月31日取得

株式会社インスティル「POSデータとは?」

https://www.go-instill.com/column/2010/10/post-3.html 2018年7月30日取得

株式会社トーハン「2017年 年間ベストセラー」

http://www.tohan.jp/bestsellers/upload_pdf_past/171201bestseller_2017y.pdf.pdf 2018年7月27日取得

株式会社VLeライナック「『うんこ漢字ドリル』のヒットから紐解く現代マーケティング手法」

https://vle-linac.co.jp/blog001/ 2018年4月22日取得

キャリコネニュース「ホンキで勉強する学生には好評 駿台『セクハラ』問題集は、そんなにアカンのか?」

https://news.careerconnection.jp/?p=20099 2018年7月31日取得

クリエイターズステーション「『うんこに人生を賭けてくれ』と言われて……。大ヒット『うんこ漢字ドリル』を作った人々」

http://www.creators-station.jp/curiousity/34236 2018年8月3日取得

クレヨンしんちゃん

http://www.futabasha.com/sinchan/news.html 2018年8月16日取得

グッドデザイン賞「『うんこ漢字ドリル』」

http://www.g-mark.org/award/describe/44768 2018年4月24日取得

コトバンク「官憲」

https://kotobank.jp/word/官憲-469644 2018年8月3日取得

板野博幸公式サイト「ゴロゴ板野の古文単語ゴロ565」

http://gorogo.com/iejuku/sp_01.php 2018年7月31日取得

産經ニュース「子供が飛びつく“うんこドリル”楽しく漢字のベン強、社員は『嫌がられるのでは』と半信半疑も100万部超え」

http://www.sankei.com/west/news/170528/wst1705280009-n1.html 2018年7月27日取得

サンリオ「ハローキティ」

https://www.sanrio.co.jp/character/hellokitty/ 2018年10月31日取得

週刊女性prime「『うんこ漢字ドリル』作者、新作にも太鼓判『うんこほど時代を越えて愛される言葉はない』」

http://www.jprime.jp/articles/-/12307?page=2 2018年8月5日取得

総務省情報通信政策研究所「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」

http://www.soumu.go.jp/main_content/000564529.pdf 2018年10月31日取得

ダ・ヴィンチニュース「“うんこ”が秘める文学性、そして知られざる『ボツうんこ例文』とは?『うんこ漢字ドリル』古屋雄作インタビュー」

https://ddnavi.com/interview/420473/a/ 2018年8月3日取得

東京都立図書館「『寺子屋』って何?」

https://www.library.metro.tokyo.jp/portals/0/edo/tokyo_library/gakumon/page1-1.html 2018年7月28日取得

日経ビジネスONLINE「『うんこ漢字ドリル』、ヒットの陰に3つの工夫」

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030800018/052400323/ 2018年6月12日取   

 得

日経ビジネスONLINE「『うんこ』にはすべてを圧倒するオーラがある ソフトパワー賞:『うん 

 こ漢字ドリル』古屋雄作氏に聞く」

日経ビジネスONLINE「日本の若者はなぜ、Twitterをよく使うのか」

https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/041800110/ 2018年8月7日取得

日本経済新聞「漢字問題集に性的表現『セクハラ』と批判、販売停止へ」

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG12HCJ_T10C16A1000000/ 2018年7月31日取得

日本経済新聞「TPCマーケティングリサーチ、ヨーグルト・乳酸菌飲料市場について調査結果を発表」

https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP461947_R31C17A0000000/ 2018年11月4日取得

日本出版販売株式会社「2017年間ベストセラー」

https://www.nippan.co.jp/ranking/annual/?cid=18&ranking_title=2017年間ベストセラー(集計期間:2016.11.26~2017.11.25) 2018年4月24日取得

ねとらぼ「すべての例文に“うんこ”が入った小学生向け『うんこかん字ドリル』が話題に『みんなで少しずつ分担して、うんこを持ち帰ろう』」

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1703/20/news025.html 2018年7月27日取得

バンダイ「『小中学生の勉強に関する意識調査』 結果」

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古屋雄作Official Website「うんこ川柳」

http://yusakufuruya.com/?p=unko_senryu 2018年7月28日取得

文響社公式サイト

http://bunkyosha.com 2018年7月27日取得

プレジデントオンライン「人気『うんこ漢字ドリル』の"致命的欠陥"」

http://president.jp/articles/-/22363 2018年4月24日取得

ベネッセ教育総合研究所「小学生の漢字力に関する実態調査 2007」

https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/kanji/2007/hon0_1.html 2018年7月28日取得

ベネッセ教育総合研究所「小中学生の学びに対する実態調査」

https://berd.benesse.jp/up_images/research/Survey-on-learning_ALL.pdf 2018年7月28日取得

ほんのひきだし「話題の『うんこ漢字ドリル』小学何年生が一番売れている?」

http://hon-hikidashi.jp/know_learn/27488/ 2018年7月27日取得

マイナビニュース「とにかく明るい安村、流行語大賞トップ10入りで『来年アメリカ進出』宣言」

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漫画全巻ドットコム「漫画歴代発行部数ランキング」

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まんが日本昔ばなし「力太郎」

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文部科学省「文部科学統計要覧(平成29年版)」

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リセマム「笑いながら読み・書き『うんこ漢字ドリル』テスト編」

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ヤクルト「株式会社ヤクルト本社 第66期株主通信」

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ヤクルト「地域社会」

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ヤクルト「ANNUAL REPORT 2015」

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Amazon「生きるセンター漢字・小説語句」

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BuzzFeedNews「ドコモの絵文字、MoMAに収蔵 『すごいことすぎて現実感が…』生みの親の思い

https://www.buzzfeed.com/jp/harunayamazaki/emoji-moma?utm_term=.ym81kdwa2#.npQwL01Ql 2018年8月5日取得

CSNews「漢字練習帳シリーズ『うんこ漢字ドリル』が4作品ランクイン!楽天ブックス『2017年上半期書籍ランキング』」

http://csnews.jp/item/mailorder/20170712_12330.html 2018年7月27日取得

DIGIDAY「Twitterの絵文字デザイナーに、その制作秘話を聞いた」

https://digiday.jp/platforms/the-designer-behind-twitters-emoji-suite-of-course-i-love-the-smiley-poop/ 2018年8月5日取得

DIGIDAY「日本はTwitterがもっとも利用される唯一の国:世界のSNSユーザー動向を示す5つの表」

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e-hon「クレヨンしんちゃんの漢字ドリルブック 読み、書き、書き順がバッチリ! 1年生」

https://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refISBN=978-4-575-30015-4 2018年10月31日取得

Forbes「匿名なのに信用される? ツイッターの『美容垢』が強いワケ」

https://forbesjapan.com/articles/detail/23587 2018年11月2日取得

GetNaviweb「出版界激震の大ヒット本『うんこ漢字ドリル』はいかにして生まれたか【インタビ

 ュー】」

https://getnavi.jp/entertainment/160687/ 2018年6月18日取得

IROIRO「『どうやったら勉強が面白くなるのか』を考え作成!全ての例文に“うんこ”を使った『うんこ漢字ドリル』が話題沸騰」

https://irorio.jp/nagasawamaki/20170326/392695/ 2018年7月27日取得

J-CASTテレビウォッチ「小島よしお『そんなの関係ねー』 『流行語』受賞の『そんなの関心ねー』?」

https://www.j-cast.com/tv/wideshow/asazuba/ 2018年10月28日取得

LIVE JAPAN「神道の成り立ちと歴史」

https://livejapan.com/ja/article-a0000246/ 2018年8月6日取得

nanapi「『トイレの神様』は意外といた!世界各国のトイレ・排泄にまつわる神様たち10柱」

https://nanapi.jp/ja/109638 2018年10月28日取得

NewSphere「『うんこ漢字ドリル』は親が助かる? 海外は合理的な見方 『kanjiは大変だから』」

https://newsphere.jp/culture/20170613-3/ 2018年10月22日取得

NewsWalker「東京進出なるか!?関西発の強烈ゆるキャラ“うんこさん”の軌跡」

https://news.walkerplus.com/article/8266/ 2018年10月22日取得

NEWS ZERO「桐谷美玲 hashtag」

http://www.ntv.co.jp/zero/mygeneration/2018/03/post-166.html 2018年7月27日取得

NIKKEI STYLE「『うんこ漢字ドリル』227万部ひねり出した3つの工夫」

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO17158190R00C17A6000000?channel=DF26012016649

 1 2018年6月19日取得

NTTPCコミュニケーションズ「ベジェ曲線」

https://www.nttpc.co.jp/yougo/ベジェ曲線.html 2018年8月3日取得

ORICON NEWS「『ガキ使』大みそか視聴率17.3% 8年連続民放首位」

https://www.oricon.co.jp/news/2103426/full/ 2018年8月6日取得

ORICON「出版業界に変化、担当者が語る“お勉強書籍”ヒットの理由」

https://www.oricon.co.jp/news/2103084/full/ 2018年7月27日取得

ORICON【2017年 年間本ランキング】 「『うんこ漢字ドリル』が計220万部超えで総合上位を席巻! “キミスイ”文庫がミリオン突破」

https://www.oricon.co.jp/special/50490/ 2018年7月27日取得

Redbubble「Poo emoji」

https://www.redbubble.com/people/thosa/works/21009173-poo-emoji?p=sticker 2018年8月16日取得

SANSPO.COM「変なおじさんで爆笑も…FC東京、爆勝ならず2戦連続ドロー」

https://www.sanspo.com/soccer/news/20140309/jle14030904320006-n1.html 2018年8月16日取得

SocialMediaLab 「2018年6月更新! 11のソーシャルメディア最新動向データまとめ」

https://gaiax-socialmedialab.jp/post-30833/?_fsi=FUmP0LXT 2018年8月7日取得

Twitter ヲタ主婦@封神演義が苦行(@nnfnameko)

https://twitter.com/nnfnameko 2018年7月27日取得

Twitter 『うんこ漢字ドリル』(@unkokanji)

https://twitter.com/unkokanji 2018年7月27日取得

VOCALOID(ボーカロイド、ボカロ)公式サイト

https://www.vocaloid.com 2018年10月10日取得

Weblio辞書「Pile of pooの意味・使い方」

https://ejje.weblio.jp/content/Pile+of+Poo+emoji 2018年8月6日取得

withnews「『うんこ漢字ドリル』100万部の大ヒット 『言葉の威力、想像以上』」

https://withnews.jp/article/f0170515003qq000000000000000G00110101qq000015204A 2018年

 7月27日取得

Yahoo!ニュース「なぜ 『うんこ』は子どもに人気なのか 漢字ドリルが260万部」

https://news.yahoo.co.jp/feature/633 2018年6月12日取得

YOMIURI ONLINE「大人気『うんこ』だらけの漢字ドリル誕生秘話」

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1703/20/news025.html 2018年7月27日取得

*表紙の画像はTwitter「うんこ先生【公式】」

https://twitter.com/unkokanji(2018年11月4日取得)によるものである。

あとがき

序の最後にも書いたが、6年間の学校生活の集大成である本論文に「うんこ」というテーマを選択したことは、自分としても相当な勇気と決意を必要とした。論文としての出来が悪ければ人生の汚点として残ること心配したが、結果的には、質はさておき、多面的な切り口やボリューム、執筆の情熱において世の中で唯一の、最も詳しい『うんこ漢字ドリル』の分析が記された論文に仕上がったのではないかと私なりに満足している。一言でいえば、「出し切った」という思いが強い。

この論文が、希くば『うんこ漢字ドリル』が世の中に受け入れられたように、世の中に受け入れられることが私の最後の思いであり、この論文における私の隠れた野心である。

最後に『うんこ漢字ドリル』をテーマとして選択することを許可し、今までご指導くださった〇〇先生に心から感謝したい。また、『うんこ漢字ドリル』のテーマ設定に当初は縁を切ると断固反対し、一読後理解を示してくれた姉、そして快く相談にのってくれた友人・家族、すべての人に感謝する。

要約

この論文のテーマは「なぜ『うんこ漢字ドリル』はヒットしたのか」であり、本論文は大ヒットした『うんこ漢字ドリル』のヒットの秘密を多面的な切り口から分析し、その秘密に迫ったものである。

『うんこ漢字ドリル』の最大のヒットの要因をひとことで要約すれば、「勉強から学びへの変換」に成功した学習参考書ということになる。反復学習を強いる漢字練習は元来つまらないものだったが、「うんこ」という魔法の言葉とともに様々な工夫をこらした『うんこ漢字ドリル』は漢字練習を楽しいものに変えた。

しかし、この「うんこ」という言葉は人を強力に引きつける一方、劇薬であり、この劇薬の取り扱いを誤った参考書は消費者に葬り去られた。その意味で、出版社の用意周到な戦略は目逃せない。「うんこ」という言葉の使用に際する消費者への配慮、書籍としてのコンテンツの完成度の高さ、そして、理念を貫く販売戦略。どれもヒットするためには必要不可欠であり、また、このような劇薬をそもそも扱うことが許される寛容な土壌が日本にあったということもヒットの大きな要因となっている。

そして、極めて現代的な形で、これらの価値がTwitterでの拡散を通じてマスメディアを巻き込み、ある種の社会現象化するまでに拡大し、学習参考書としては異例の大ヒットにつながったのは偶然ではなく必然だった。まさに、ヒットにはヒットするだけの明確な理由がこの『うんこ漢字ドリル』にはあった。

これらの理由から『うんこ漢字ドリル』はヒットしたと結論付ける。


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