誰がロックを殺すのか 自陣二次創作小説
過去編 彩音と知春 バンドを結成する前のお話
First cigakiss
AM6:00…スマホのアラームがけたたましい電子音を鳴らす。
体は泥の様に重く、頭も痛い…あぁ、今日も憂鬱な一日が始まってしまった。
「んんぅ…」
俺は唸りながらスマホのアラームを消した。
怠い体をベットから転がり落ちる様に起きるとサイドテーブルに山積みになった手紙やら書類やらが雪崩を起こした。
同級生の結婚式の招待状が目について思わず舌打ちしてしまう、むしゃくしゃして書類一式ゴミ箱に投げ捨てた。
それから何も無いキッチンでポットでお湯を沸かしその間にベランダで一服、これが俺の朝のルーティンだ。
全くもって枯れている
「あああぁ…ねみぃ」
タバコに火をつけながら陽の眩しさに目を細め柵に寄りかかってスマホを弄る。
メッセージを整理しているとピコンとメールが1通届いた。
「誰だ?…って彩音」
大学時代の後輩からのメールだった。
お疲れ様です。
今日の夜、飯でも一緒に食べませんか?
寡黙な彼らしい短いメッセージに口端が自然と上がった。
今日の予定を把握した後俺はすぐにその誘いに乗る、仕事に忙殺され暫く会っていない後輩とのご飯の誘いは丁度いい息抜きになるだろう…一本吸い終えたところで丁度ポットのお湯が沸き上がった。
それから夜まで仕事はいつもの様に…とはいかなかったが、仕事を押し付ける上司の目を掻い潜り久々の定時退勤をもぎ取った。
満員電車で揉まれながらも予定通りに待ち合わせ場所までついた。
あたりを見回すと探していたフワフワ頭が見えた。
「…よっ、早いな彩音」
「久しぶりです、知春先輩、また眉間に皺…増えました?」
「るせっ、お前こそ目の下の隈消えてねぇぞ」
お互いに皮肉りながら久々の再会を嬉しく思うも、彼も随分疲労の色が濃く見えた。
「どうした、そんな暗い顔しやがって、可愛い顔が台無しだぞ」
と、わしゃわしゃとあたまを掻き回すと、彩音が非難の声をだす。
「…あぁもう、髪ぐちゃぐちゃ」
「ごめんごめん、…まぁ話は店に行ってからにするか」
「…こっち、店は予約してるから」
彩音の案内で店に向かう、帰宅ラッシュの混み合う街中は歩くのも一苦労だ、人より頭一つ分出てる俺はそこまで大変ではないが、彩音は少し歩きにくそうだ。
「いーお、今日のメシ何?」
「えっ、送ったリンク開いてないんですか?」
横に並べば少しだけ周りと距離ができた。
「いやぁ、お前が連れてってくれる店だし、美味いのは確定だから、会ってからの楽しみでいっかなって」
「なんすかそれ」
呆れ顔でこちらを見上げる、あまり表情の変わらない奴だが声色は少し明るいのでそれなりに威機嫌がいいのだろう、面倒だと言いながら店の説明をしてくれた。
人混みから抜け、少し歩いた場所に雰囲気のいいスペインバルの店が見えて来た。
「あそこです、酒の種類も多くてタパスも美味いですよ」
「いいねぇ、最高」
彩音の肩に腕を回して、ウキウキと店に入っていった。
PM20:00
カウンター席に案内された俺たちは酒もご飯も好きなだけ頼み近況報告を交えて他愛ない会話を楽しんでいた。
ほとんどが音楽の話だったが、とにかく盛り上がった。
「ああああっ…大学時代に戻りてぇなぁ」
ビールを煽り、俺はそう呟いた。
「そうですね、…俺も、知春先輩とまた音楽やりたいな」
「フハハっ、嬉し事言ってくれんじゃん…でもお前なら出来んじゃねぇの?彩音、お前は才能持ってるよ」
少しだけ真面目に答えた、彩音の才能は本物だ、きっとその道で食べてもいける力を持っている。
彩音は少しの間をおいて真剣な面持ちで俺に問いかけて来た。
「…先輩は、もうしないんですか?」
「俺?」
まさかそんな風に言われるとは思わなかった。
「…俺は、才能ないからな、ギターも歌も下手の横好きだし」
「…そう、かな…俺は、先輩の歌好きですよ」
「そう?嬉しい限りだよ…ごめんちょっとタバコ吸ってくる」
彩音の言葉に嬉しさと少しの気恥ずかしくなる……酒を飲んでて良かった、きっと頬が熱いのは酒のせいだ。
「はい、灰皿」
「…いいよ、お前煙苦手だろ?」
「…外の喫煙所、混んでますよ」
言われて外を見ると、確かに混んでいた。
「…先輩吸ってるやつはあんまり嫌いじゃないので…俺は別にいいですよ」
彩音はそう言うとグラスを傾けた。
「じゃあお言葉に甘えて」
ポケットからタバコを取り出し咥える、ジッポーのツキが悪い、そろそろ油がないのかもしれない。
「ふぅー」
なるべく彩音に煙が行かないように壁側に煙を吐いた。
「…先輩の吸ってるやつ、なんかバニラみたいに甘い香りしますよね」
「ん?これか、まぁ、そうだな」
「…美味しいんですか?」
「吸ってみる?」
そう聞くと、彩音はぎこちなくコクリと首を縦に振った。
箱を叩き一本取り出し彩音に差し出す、硬い表情でタバコを手に取り暫く眺めていた。
「ほら、火つけるから咥えろ」
「は、はい」
慌てて咥える彩音は小動物みたいでかわ…じゃなくて、面白かった。
ライターを取り出し火をつけようとしたが
先程自分がつけたのが最後の燃料だったらしい、回しても回してもついてはくれなかった。
「悪い彩音、そのままこっち向いて」
彩音は言われるがまま素直にこちらを見上げる、まだ少し距離があったので肩ごと自分に寄せて彩音のタバコに自分の火を移した。
火を移し終え離れると、彩音は吸わずに何故かボーッとこちらを見て固まっていた。
「ほら、火ついたぞ」
「…っ!スゥ…うぇっほ、ゲホゲホッ!」
「勢い良すぎだよ」
「だ、だって、せ、先輩が急に寄るからっ」
咽せたせいで尚のこと顔が赤くなった彩音が抗議の目を向けて来た、が幼顔の彩音に凄まれてもあまり怖くはない。
「ごめんって、予備のライター持ってないから、手っ取り早い方法がそれしかなかったんだって」
半眼でこちらを見上げる彩音は呆れと不満を湛えていた。
…ちょっとこれは怒ってる、かなぁ?
「急に寄ったのは悪かったよ」
「はぁ、…先輩、今みたいな事誰にでもしてるわけじゃないですよね?」
「え?」
「……やっぱりなんでもないです、おかわり!」
「い、彩音さんなんで怒ってるの?」
「怒ってない…あと、タバコはやっぱりいいです、俺には無理です」
「そ、そうか、いいよ…タバコ貰う」
大分呑んでいるからか彩音の口も随分お喋りになっている、吸い終えたタバコを灰皿に潰し、ほとんど吸われていないタバコを受け取り咥えた。
「狡いな…先輩」
「はぁ?なんだよ急に」
「先輩、それよりまだご飯頼んでもいいですよね?!俺これ食べたい」
あぁ、こりゃ大分酔ってるな…
平時の彩音より3倍お喋りになってるのが酔ってる証拠だろう。
「はいはい、好きなだけ頼め」
「先輩もグラス空いてる!次何飲みますか?」
矢継ぎ早に言葉を捲し立てる彩音は耳まで真っ赤にしていた。