パンを焼いた。
ひさしぶりにパンを焼いた。
お店を開いてからとある期間だけパンを焼いてたことがあって、それは、仔羊の煮込みを初めてオンメニューしたときだったと思う。
手作りのアリッサで、スパイシーな仔羊の煮込み、こりゃーごはんじゃなくてパンもいるよね!と思って、緑胡椒を練りこんだパンを焼いて、結構好評だったのだけど、その頃はラーメンのお客さんがほとんどだったし、それ以来焼くことはなかった。
今回焼こうと思い立ったのは、ひさしぶりの10名という、うちのお店では大所帯の食事会があったからで、
ごはんよりもつまめるパンがいいかなぁと思ったのと、お世話になっているクライマーの先生と諸先輩方、という敬愛する、かつ親しみ深い方々だったので、自分好みに寄ったパンを焼いても大丈夫そう!という安心感があったからだった。
(安心感っていうのは、岩場講習やジム練のたびに、持ち寄って食べるあれこれ、「こういうの好き」とか「こういうのいいよね」とかいうような感覚の近しさを重ねることによって醸成されていったもの)
昔は休みのたびにパンを焼いた。
水を回して、捏ねて、やすませて....
感覚を掴みきれない気がしていたけど、研究してそこそこ美味しいパンが焼けるようになった。
しばらくパンを焼かなかったのは、その間に寝かせて育ててみたい感覚があったから。
まだわからない、でも、自分が人間として育って行くうちにわかるようになるはずの、相手(素材)と自分との言葉のない対話のようなもの。
むかし、イタリア料理店で毎日手打ちパスタを延ばしていたとき。
シェフに、「お前のパスタは硬いよ、無理やり伸ばすからこうなるんだ。生地の都合を考えないでお前の都合で無理やりやるからそうなるんだ」ってよく言われた。
確かに私のパスタは硬かった。
でも、なんで硬くならず無理なく延ばせるのか分からなかったし、それをじっくり見つめる余裕もなかった。
それでも毎日パスタを延ばさせてくれた、シェフはどんなことを思ってたんだろう。
分かる気がするけど、今やもう聞けないし、聞いても教えてはくれないだろう、いい悪いとかではなくシェフはそういうひとだった。
パン捏ねを会得したくて、あの頃は焼いて焼いて、ってやっていたけど毎回わからないことに突き当たって、これはあのときのパスタと同じだと思った。
きっとこれは、このままパンを焼き続けてもわからないことだ、一旦休んでみないといけない、きっと... 大事なことは他にある。
そう思ったから、焼くのをやめたんだった。
パンを休んでいるあいだ、焼き菓子を始めることにした。
発酵のいらない焼き菓子はパンより扱いやすいに違いない...
そして、パウンドケーキやクッキーをあれこれ焼いてきた。
そして今回パンを捏ねて、やいてみて
あの頃わからなかったことが見えた!
水を回して、吸水させて、捏ねるうちに、生地が手に吸い付くようなやわらかなもち肌になっていく、その感じがスムーズに感覚として入ってきて.....
あの頃よりずっと、生地と対話できてるような気がした。
ええと、成形はどうしよう、
クープってどうするんだっけ....
あわててオーブンに突っ込んだら、まあるくおおきい、不恰好なパンが焼きあがった。
でも、パリッとしてて、とりあえず中の水分量はじゅうぶんで、しっとりふわふわに焼けていたから良いことにした。
いつも、全部合格点のやつを一回で作れるわけがないんだから、大事なとこをクリアできたら良いって思うようにしてる。
そういう意味では良いの部類に入れてよかったし、次につながるポジティブ要素が感じられたパンだった。
調子にのって、プレッツェルも焼いた。
こないだもらった素朴なパン。
そういうのが焼けたらいいな、と思ってとりあえず焼いてみたやつ。
発酵の加減と、焼き割れと、あれこれちぐはぐになってしまったけど、味は好きな感じだった。
次の日も、朝からパンを捏ねた。
それをみて、隊長は「(応援してる野球チームの)某ピッチャーみたいだね」といった。
敗戦後、すぐに修正して次の試合にトライする姿勢が似てる、という意味らしかった。
たぶん、褒めてくれているんだな、と思った。笑
パンで大事なのは、焼きたてがおいしいこと、そして冷めてもおいしいこと、
そして次の朝もおいしいこと、その次の日以降も焼き戻すとおいしいこと。
それを試すには、たくさん焼いて、日々味わって、良さと足りなさを感じなければいけない。
今日の終わり....
「パン、美味しかったから持ち帰りたいんだけど!」って言ってもらえて、すごく嬉しかった!
いつか、知らないだれかにも「おいしい!」って言ってもらえるようなパンを、日々焼けるようになるんだろうか。
そういう思いが、「できるかもしれない!」に変わったような気がした。
あのときとは違う疑問点や、改善点がみえたから、きっとつぎはもっとよくなる。
そんな気がする。
それにしても、今日はほんとに緊張した....