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キャベツと包丁とお店の話
キャベツの話でもうひとつ。
いまだに若い頃、初めて買った包丁を使っている。
使ったら毎日研いで、使わなくても湿度が高い日だとすぐ切れなくなってしまう鋼のやつ。
手ごろな値段だけど、柔らかくて軽くてそれなりのやつ。
切れ味よいけど手のかかるやつ。
キャベツを包丁で刻むのはほぼ日課みたいなもので、刻む練習でもあるし、包丁の切れ味の確認でもある。
刃を入れた時、すっと入っていかないとすごくストレスがある。
軽い包丁だから、その重みで切れるわけじゃないので、切れないと力を入れないといけない。
それが無駄に疲れる。
キャベツを切る、それだけの目的のためならそんなに切れ味が良くなくたっていいのだけど、
その目的の何倍も何十倍も切れ味がよくないと、ストレスなく、綺麗には切れない。
仕事もそんなものだ。
それができる、というだけならいいのだ。
でも、それができる、ということを超えて、どんなに作業が並行してても、与えられた、限られたタイミングをつかんででも、頭は他のことを考えてても、するりとできた方がいい。
どうしても、それができない作業があって、味を決めるのとか、仕上がりを見極めるタイミングとか、そういうときにはその作業に集中して、そのことのために集中力も時間も使う。
だから、そういうことのために時間や力を割くためにも、できる限りのことは、さっくりできるようにしておかなきゃなんないのだ。
当たり前のことを言ってると思うんだけど、その加減やそれらの作業の組み合わせ、配分、按分などはそれぞれの価値観や哲学によるから、人や店によってかなり差がある。
だから、具体的にこういう感じだよね、って話してもズレることの方が多分多くて、同業者と話し合うことってあまりない。
それは、それぞれの店のやり方なので、うちはこうだ、そっちはこうなんだね、という結論の確認をする、
それ以上のことってあんまり生みださないから。
全部のことをギリギリ最高の水準でやってる店があれば、逆にどんなスタッフが入ってもこなせる作業水準においておくことで、営業できてるお店もある。
そういうことなんである。
キャベツを切るたび、よく切れて気持ちいいときも、切れ味がにぶくてストレスを感じるときも、研ぎ直すときも、こういうことが頭をよぎる。
キャベツ、日々、気持ちを新たにさせてくれるやつ。