消えていたBARと、信じていることの話。
昔、雑誌でちらりと見て「いつか行きたいな」と思っていたバーがあった。
その記事では、とある煮込み料理が紹介されていて、それに心惹かれてた。
記憶が確かなら、10年くらい前からそう思っていて、でも一度も行ったことがなかった。
駅からは10分以上歩くし、その最寄り駅も自分のそれからは乗り換えしないといけない駅だったし、人を誘っていくには行きづらく、飲んで帰るにはちょっと面倒な場所にあった。
気になり続けて、でも背中をひと押しするものがなくて、そのまま月日が過ぎていっていたというわけだった。
今日そのお店の前を通ったら、看板が裏返しになっていて
ちらりと窓を見たら、『閉店』という大きな張り紙がしてあった。
結局行かないままだったな....
煮込み料理を食べに、バーには行かないんだ。
きっと、そういうことだ。
そう思った。
ふと思いだす。
初めて唐揚げ定食をメニューに出したとき、隊長は「トマトラーメン食べに来る人が唐揚げ定食食べるわけないだろ?」と言ってた。
その頃はメニューにトマトラーメンしかなかったから、そういうお客さんしかいなかった。
トマトラーメン食べに来た人は、「トマトラーメン屋の唐揚げって?」ってなるのは当然のことだった。
でも、連れて来られた人のなかには、トマト苦手な人もいるだろうし、昨日も食べたから今日は違うやつ、という人もいるだろう。
そして、誰かが頼むことになる。
唐揚げは、どこで食べてもからあげであり、からあげ以下にはならない、お客さんにとってはリスクの少ない定番商品だ。
それを食べた人が気に入ってくれたら、
それを食べてる人を見かけた人が気になったら、きっとつぎがある。
からあげがおいしいなら、他のものも食べてみたいな、そのうちそうなる。
そうして、メンチカツや、カツレツや、煮込みや、カレー、すこしずつメニュー数が増えていって、
若干数ずつ仕込んでいたのが量もだんだん増えていって、
そうして今のようになって、
客席から「これも、これもおいしいよ。ラーメンもあるし。何屋さんかわからないけど。笑」って言われるようになった。笑
時折くる取材の依頼も、「トマトラーメン専門店」「女子ラーメン」の特集から、
「ラーメン屋さんなのに定食もおいしい」、
さらに「〇〇なのに、〇〇系」で、洋食屋さんなのにラーメンが人気、という特集で声をかけられるようになった。
それを、おー、周りって変わっていくものなんだな。って、興味深くながめていた。
だって、そういうふうに変えていこうって決めていたから。
思う方向に流れていく。
それには時間が必要だったけど、逆を言えば過程を順序立てて、時間をかけてクリアしていけばできるんだな、ってことでもあった。
じゃあなんで、洋食屋の方向に進めてきたのか、それは、隊長がもともと洋食専門だからだった。
得意な料理を人気のメニューとイコールにするためにはまず、そのステージを作らなければいけなかった。
つまり、トマトラーメン専門店、と言われているうちは、一品料理は出ないという問題を解決しないと、隊長の良さがより出せない、と思ったからだ。
そうして、その試みは三年計画で取り組んできて、三年でかなり形になった(と思う)。
洋食を食べにくる人が増えて、いまではラーメン目当てではない、全然食べないお客さんが半数近くになった。
夜に限定すれば、一品料理、洋食目当てに来るお客さんが殆どである日が多いくらい。
話はまったく変わってしまったけど...
とにかく、「洋食を食べにうちのお店にくる」というのがメインストリームになったといっても過言ではないくらいに成長した。
おすすめメニューを出せば、日々順調になくなっていくようにもなった。
同時に、トマトラーメンにハマった人は毎月毎週のみならず、ほぼ毎日通う人も少なくないくらいに確かなメニューとなった。
オープンからいままで、ずっと通ってきてくれる人も多くいる。
それを振り返って言葉にするのなら、「お店を作ったのは私たちだけど、お店を育ててきたのはお客さんだった」という表現になるんだろう。
なんて、陳腐な、ありふれた表現なんだろ、と思うのだけど、
最近しみじみ思うことはほとんど昔から言われ続けているような、本を開けばすぐ出てくるような当たり前のことばかりで、
だけど、そんな当たり前のことをしみじみと感じ入ることができるってことが大事なことなんじゃないかって思ってるし、
それが人間の深さになっていくんじゃないかって信じてる。