人の心に火を灯すのは難しい
これまで、さまざまなビジネス書を読んできました。今では、ビジネス書の要約をしてくれるYouTuberも数多く存在し、情報にアクセスする手段は格段に増えています。そのおかげで、仕事のノウハウを体系的に身に付けることができました。
しかし、知識を得るだけでは意味がありません。実際に行動に移すかどうかは本人次第です。仕事の効率を上げるための理論はシンプルで、実行すれば必ず効果が得られます。それでも、人は感情の生き物です。「良い」と分かっていても動けないのが現実です。
これはダイエットと似ています。体に悪いと分かっていながらも、つい食べたり飲んだりしてしまう。その結果、目標を達成できません。仕事においても同様で、行動しなければ成果は出ません。
管理職に就いてから、私は組織の在り方について試行錯誤してきました。効率の良い組織のモデルとしてよく引き合いに出されるのが軍隊です。指揮系統が明確で、命令が迅速に実行される。しかし、現実の職場を軍隊のように統率するのは不可能です。強権的な指導をすれば、部下からパワハラで訴えられるリスクがあります。
一方で、部下の自主性や内発的なやる気にすべてを委ねてしまうと、目標達成はますます遠のきます。日本経済は、かつての右肩上がりの成長時代ではありません。むしろ右肩下がりの時代に突入しています。人口減少と高齢化が進む中で、商品は売れにくくなり、企業の売上は放っておけば下がる一方です。
この状況は、敗戦が濃厚になった戦時中の日本軍にも似ているかもしれません。何もしなければ確実に敗北しますが、もがき続ける限り、生き残る可能性が残されます。企業も同様で、行動を起こさなければ、やがては衰退していく運命にあります。
私たちの世代は「逃げ切り世代」とも言われますが、若い世代はこれからの不確実な時代をどう生き抜いていくのでしょうか。企業が業績を維持できなくなれば、リストラ案が必ず浮上します。そのときに、生き残る社員は限られます。「会社に残ってくれ」と言われる社員か、「他社から引き抜かれる」社員のどちらかです。
いまの時代、夫婦で共働きをしている社員も多いですが、もしも一方がリストラされれば、家庭の生活基盤が揺らいでしまいます。そんなリスクを回避するためにも、自己成長を続けることが大切だと感じます。しかし、こうした話を若い社員にしても、理解はしても納得はしてもらえないことが多いです。「自分は大丈夫」と考える人が多いからです。
ただし、自ら気づいた若い社員は行動を起こし、転職するなどの選択をしています。「俺には関係ない」と考える社員にどう働きかければいいのかが、管理職の永遠の課題かもしれません。
いわゆる"ゆでガエル"のような社員をどう動かすのか。環境が変わる前に、自ら変わることの大切さを伝え続けるしかないのかもしれません。行動を促す仕組みや、動きたくなるようなきっかけをどう作るか――それこそが、これからの管理職に求められるリーダーシップの形ではないでしょうか。