6月中旬 見ざる OR 覚えざる
積読消化を目標にして書店への立ち入り禁止を心がけてきたが、実際に積読が減ってくると相対的に自我が膨らむ。自我の体積が大きくなると、だだっ広い空間に一人残されたような不安感も膨らみだす。もとより閉所愛好の気がある俺は広い空間が大嫌いだ。やがて、がらんと寂しい積読置き場を埋めたくなってきた。
梅雨入り直前の暑気に煽られ昼間からビールを煽り、勢いで書店に立ち寄った。酔っぱらった読書家はアジア1危険な存在だろう。
「俺は虎だ。本を狩るハンターなのさ。」
衝動買いを始めてしまい、数万円と未来の自由時間を失った。この世にはルールに縛られること、組織に所属するといったことで安心を覚える人がいる。積読の山を常に維持したくなる衝動はこの安心と根が同じだろうか。
乱読のセレンディピティ 外山滋比古
積読消化というか、書籍を新しく買わないことを意識し始めた理由は漠然とした恐怖だった。俺はもともと角川ホラー小説しか読まない大学生で、黒い装丁の文庫本を見つけるたびにカゴに入れるような読書生活をしていた。そのうちに買いたい本がなくなってきて、次に食指を伸ばしたのは推理・SF・民俗学の専門書といったジャンルだった。ここまでは狭いジャンルの話だからか素直に読書を楽しめていた。
問題はその後、古典と呼ばれる作品群に手を出した時だった。日本では三島由紀夫に川端康成、海外だとドストエフスキーなどを読んだところで、俺の脳は衝撃を受けすぎて1限目のラグビー部並みに朦朧としていた。ホラージャンルなどを読んでいた間は、まだ試されていない展開・構成を自分で妄想するような楽しみ方ができていたが、純文学になってくると前面に押し出される精緻な抽象性があまりにも精巧で、なにもかもやり尽くされているじゃないか(己の貧弱な脳で発想しうる領域においては)という衝撃を受けた。
「このまま名著を読み続ければ自信を喪失する!」
怖気づいた俺はインプットの有害性に気づき、読書を中断することによって毒抜きを図ろうとした。
そんな折、消化予定の積読の中にあった外山滋比古先生の”乱読のセレンディピティ”を読んでいると、自分が今まさに直面している問題を取り扱っているではないか!外山先生は本の虫クンたちが形容されがちな蔑称”頭でっかち”を回避するための方法論をまとめていた。ジャンルを横断的につまみ読みする乱読についての記述がメインであったが、ここでは自分の悩みと共鳴したアドバイスである”忘却”と”おしゃべり”の重要性について引用・解釈してみる。
頭でっかち現象が本当に実在するかは知らない。本好きで柔軟性のない人間がいたとして、その2つの関係は因果関係なのか相関関係なのか、そもそも反知性主義の偏見なのかもわからない。よって現実社会に存在するとされる頭でっかちさんを引き合いに出して論ずるよりも、俺が現在直面しているインプットへの不安をもとに頭でっかちを再定義しようと思う。
供給過多によるワーキングメモリの欠乏。インプットとアウトプットの偏りによって創造能力が衰える。傑作を見すぎて自信を喪失する。といったところか?
読書家は相対的にインプット過多になりがちである。相対的と言ったのは、アウトプットの量は多分一般人と変わらないからだ。むしろ読書家には自分で書きたくなって文章を綴る人の割合は多そうだが、それでも余暇を読書に充てている時点でインプットが多くなるのは仕方ない。ここで分かれ道が現れる。読書を中断して余暇をアウトプットに全振りするか、読書を継続するかだ。私は前者の道しか見えていなかったが、外山先生は読書を継続しながらアウトプットする方法として、おしゃべりを挙げていた。喋ろうとすれば思考を整理する必要があるし、スピードが乗ってくれば逆に熟慮せず発せられるフレーズもある。この知識の整理と突飛な発想を助けるのがおしゃべりというアウトプットだそうだ。
あとは名著の読みすぎによる自身の喪失についてだが、これの解決法は明快で、忘れたらええやんとのことでした。忘れたらいい、なぜこんな簡単なことが分からなかったんだろう。言われてみたらもう名著の内容なんて忘れてるし。内容についてはうろ覚えなのに、名著に触れたことによる漠然とした不安だけを覚えているなんて不毛すぎる。読んだうえで忘れる。本当に刺さったことは忘れない。この指針を得た俺は書店で名著を爆買いするようになった。
UXデザインの法則 ジョンヤブロンスキー
デザイン-設計-というワードはかなり広漠としている。その中で、UXデザインという領域がある。ユーザーエクスペリエンスの設計。UIデザインよりもっと抽象的な上位概念だ。ジョンヤブロンスキー”UXデザインの法則”はデザインに有用な心理学的法則を紹介し、それぞれの解説と実例を画像多めで掲載する入門書だ。webサイトの設計に注目して書かれているため、ここでUXを構成する要素はほとんどUIのみになる。出てくる心理的法則は汎用性が高く直感的だ。例えばバナーブラインドネスという現象がある。人は広告だと認識した要素に注意を払わなくなる現象で、実際に広告でなくても、彩度が高い華美なデザインは意識が向けられないそうだ。
テスカトリポカ 佐藤究
最近文庫化した佐藤究先生のテスカトリポカ。単行本の装丁がきれいで買ってみたが、かなり面白い。中盤の展開なんかはコカインONE PIECEだった。実際の目的は悍ましいにも拘らず、仲間を集めていく姿は冒険譚のような爽快感。あと文章からとにかく博覧強記さが伝わってくる。末尾の参考文献量も膨大で衝撃。この文量でこの専門性で、扱う分野も医療から裏社会まで多岐にわたる小説はなかなか見ない。徹底した取材を基盤として奇想天外な展開を書き上げた技量には感服するばかりだ。
近況~なんだかいい漢字~
漢検2級を受験した。多分受かってる。でも本番で”醜”という字が全く思い出せなくて残念だった。半年前くらいから気まぐれで勉強を始めて、確か6級から順に倒していった。だから2級の勉強をしたのは実質3週間くらいだったけど、下積みのおかげか勉強の仕方は身についていたようだ。来週はカラーコーディネーターの試験があるから復習しないとな。
一番すきな四字熟語は比翼連理です。