チェルノブイリ日記 69 ～ 謎に行ったり来たりする僕たち

かつて像があった

　前回のあらすじ。
　音楽学校に続いて映画館を散策しました。

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※ 過去の日記はこちらから。

チェルノブイリ日記｜栗橋英実｜note

　前回散策しました映画館「プロメテウス・シネマ」はポーランドの旅行会社のウェブサイトによりますとプリピャチで唯一の映画館だったそうです。1988年までに新しい映画館がオープンする予定はあったようですが……。
　原発事故が起こる前のこの近辺の写真もインターネット上で見付けられるのですが、広々とした見晴らしの良い場所だったようです。今では木が邪魔で見晴らしどころではありませんね。

　また、映画館の前の広場にはギリシア神話に登場するプロメテウスの像が立っていたのですが、原発事故の後に原子力発電所の近くへ移設されたとのことです。

　撮っていたのかなと写真を探しましたところ……ありました。

　この像がそうだとは知らず翌日に撮影していました。
「略奪者から守るために移設した」と記されているサイトもあるのですが、言うほど略奪されそうか？　こんな大きいの……。

ただいま……

　さて次はどこへ行くのでしょう？

　何やら見覚えが……ここは66話で訪れました音楽学校ではないの？

　ガイドぉおおおぉお！

　何でも拾う貪欲なガイドです。
　私も道に紙とか写真とかが落ちていましたら気になって拾いたくなるタイプではあるのですが、プリピャチでは気になる物が落ちていてもさすがに拾わんかったよ……。
　ガイドは何を拾っているのでしょう？

　これは……

　頭上のモザイクレリーフですね。

　剥がれてますね……。
　この写真は2013年10月のものです。今はどれだけ剥がれているのかな……。
　しかし今でこそ「剥がれてますね」なんて他人事のように言いますけど、ここを歩いているときに剥がれて頭に当たったら血ぃ出そうですよね……。

　さて先へ進みましょう。

　あれ？

　見覚えのある瓶ですね……。

「OREANDA」だ！
　ラベルに書かれていますのは「БАСТАРДО」……「バスタルド」というブドウの品種のようですね。ご興味がおありの方は調べてみて下さい。

　しかし……この既視感はいったい……。

　あれ！？

　どこかでお会いしました……よね？　ここはどこ……記憶喪失になったのかしら。

　いやいやいや66話で訪れました音楽学校の講堂ですよね。あのときは客席の後ろの方から舞台を見ただけでしたけど。

　舞台のあたりにも出入口があるなぁという話もしましたけど……。

　え、何でわざわざ一旦外に出て映画館を見てから戻って来たん？　建物の別の出入口から入ったというならまだ分かりますけど、最初に入ったときと同じ出入口でしたよね……。
　言葉が分かればガイドに突っ込むところなのですが……残念です。舞台のことを忘れていたのかな。いやいやまさか。

　11年も前の話ですので残念ながらどのように舞台へ上がったのかまるで記憶にありません。レンガで埋められているように見えるこれは扉だったのかな……？

　まぁ考えても分かりませんのでピアノを撮影することにしましょう。

　原発事故が起こったのは土曜日です。その日も普通にピアノの練習をしたり、発表会が行われたりしたのかも知れません。

　ピアノの内部ってこうなっているのね……。チェルノブイリで初めて見ることになるとはね。思いもよらないことが起こるものです。

　何枚も撮ります。私など撮影のセンスも加工のセンスもありませんからね。とりあえず適当に何枚も撮って後で見直して気に入った写真が1枚もあれば良いやという感覚なのですよ。

　いやまぁとりあえず載せようという貧乏性が勝っていますけど。

　まぁむやみに加工するのは性に合いません。世の中には加工された写真が溢れていますし、加工は加工が上手な人に任せましょう。

ピアノを眺める

　しかし……本当は真っ黒で、何なら艶もあったピアノなのでしょうけど見事に白っぽくなっていますね。

　音の鳴る仕組みが全く分からないのですが、弾けば鳴ったのでしょうかね。

　弦は張られていますね……と言ったところで何も分かりません。

　ペダルは残っていますが踏んだら壊れそうな気がします。

　美しい白黒だったはずの鍵盤も今ではこの通り……これは鍵盤の表面が剥がされているのかな。黒鍵ももっと高さがあるはずですものね。
　こんなの1つずつ剥がしていったの……？　暇か？　としか思えません。

　弾けば鳴ったのかなぁという疑問は残りますが……やはり廃墟にある物を触ることには抵抗がありますね。世の中には廃墟にある物を動かしたり破壊したり持ち帰ったりする自称廃墟好きもいるようですが……。
　まぁそもそも廃墟が好きなら廃墟はそっとしておくべきで、廃墟に来てはいけないのですけどね。廃墟好きのパラドクス……。

　まぁそんなことは考えても仕方がありませんので、壁際の物を見ることにしましょう。

　なんぞこれは……。このような赤色の物体を見ますと消火器と短絡的に考えてしまいますが消火器にしては色々と足りないような……？
　防災訓練で消火器はピンポンパンだと習いましたが、どれも出来なさそうですよね。

　消火器らしき物の下は何でしょう？　スピーカー？　何か文字が書かれていますね。

　回転してみました。
「ЗСКО・100」かなぁ……調べてみますと音響機器のメーカーかブランドの名前のようなのですが……とにかくこの黒い物体はスピーカーだったようです。そりゃありますよね、音楽学校ですもの。

　ところでこの釘が刺さったような謎の板は何なのでしょうね……。

次回予告

　音楽学校を出ます。

　続く。