ひとり出版社をつくる⑤「取次口座」
※今回から、気分で敬体はやめて常体で。
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出版社を立ち上げるといっても、具体的にどうやってつくったらいいのか。
会社を設立し、出版社っぽい社名をつけて、本を制作する。これでも物理的なモノとしての本をつくることはできるけれど、いわゆる「出版社」とはいえない。
では何が必要か。それは出版業界の問屋に相当する「取次会社」に取引口座を開設すること。
本の流通は、出版社がつくった本を取次が集約し、取次から全国の書店に配本されるしくみになっている。ミシマ社のように取次を介さず書店と直取引をしている出版社も一部にはあるけれど、出版社をひとりで始める場合は現実的ではないように思う。
書店と直取引するとなると、本の発送から代金回収までぜんぶ自社でまかなわなければならない。仮に全国の100の書店と取引をするとなれば、1店舗×100の負担で発送業務や代金回収業務が発生する。発送業務は代行するとしても、代金回収だけでも骨が折れるし、出版社の仕事はほかにも書店営業、注文や返本の対応、在庫管理などさまざまある。
それらの業務一式を、ひとりで本づくりをしながら店舗ごとに管理するなんて不可能だし、もっといえば全国津々浦々に一万店舗以上の書店があるなかで、100店舗という取引数が多いか少ないかも検討しなければならない。
その点、取次会社に取引口座を開設すると、取次会社は出版社から仕入れた本を全国の書店に流通させて、各書店から代金の回収もやってくれる。
書店が本を自由に返品できる出版業界の流通のしくみは昔から議論されてきているけれど、大手出版社も中小零細出版社も分け隔てなく、自社で制作した本を公平に(実際の条件はぜんぜん公平じゃないけど)全国の書店に流通できるという点において、取次会社を軸とした出版流通は優れたしくみだと個人的に思う。
ということで、取次会社の口座開設。
それが必要なのはわかった。
わかったけれど、どうやって口座を開設すればいいのか。
フリーになる前に出版社で働いていたころは書店営業もやっていて、当時は新刊が出るたびに日版やトーハンといった取次会社に出向いていた。
だからといって、「久しぶりです」ということで取次のカウンターに足を運び、「出版社をつくることにしたので取引口座を開設させてください」と言っても十中八九、スルーされるにちがいない。
取次会社にとって、得体のしれない新規の出版社との契約はリスクとなる。ただでさえ出版不況で取次の経営が厳しいこの時代に、売れる本をつくるかどうかわからない新規出版社に門戸を開くような余裕は取次にはない。
結果として、実績も何もない新参者が取次会社と新規契約するのは非常に難しい、というかほとんど無理、というのが、ぼくが調べた限りの結論。
じゃああきらめるのか。
いろいろ調べると、それでも出版事業をやってみたいという一風変わった人を対象に、取次会社の口座を貸してくれる会社があることがわかった。
よく知られているのが「星雲社」。
星雲社と契約すれば、取次口座を開設していることを意味する「発売元」を星雲社名義にして取次と取引し、自社でつくった本を全国の書店に流通できる。
具体的には、
発行元(デベロッパー):○○出版
発売元(パブリッシャー):星雲社
となる。
さらに星雲社が取次交渉から入出金管理、在庫管理まで代行してくれるという。しかも星雲社の契約自体に料金は発生しないというから心強い。
ということで――。
さっそく、星雲社に電話で問い合わせをしてみることにした。