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ひとり出版社をつくる⑥「星雲社」

「お世話になります。いま出版社の立ち上げを予定していて、口座貸しについてお話を伺いたいのですが……」

ぼくが星雲社に初めて電話をしたのは2016年11月29日。

電話に出た女性は開口一番、

「法人化はまだされていませんね。法人さまが契約の前提になるのですが」

と先制パンチ。

スマートフォンからかけたので、番号通知で法人ではないと分かりそう言われたのかも。

すかさず、

「法人化することを前提にお電話をさせていただいています」

と切り返す。

星雲社はホームページがなく情報がほとんどないなか、「星雲社は個人とは契約しない」「法人が契約の条件」との情報を見つけて予備知識として入れていたので。(予備知識を持っていただけでなく、実際に法人化します)。

ドキドキしながら電話をしたぼくにとって、女性は冷たい印象だったけれど、明確な事業プランもなく、勢いで電話をしてくるドリーマー対策なのだろうと感じた。

というより、そういう問い合わせにうんざりされているのかも。ぼくもドリーマーのひとりに成り果てぬよう、気持ちを新たにするきっかけになった。

ともあれ、「法人化を前提」という共通認識のもとに具体的な話に。

主に確認したのはつぎのとおり。

・口座貸しの初期費用

・出版社の取り分

・返品対応と手数料

・倉庫代

・取次対応

・新規参入の零細出版社の取次流通部数

などなど。

具体的な数字を公表すべきではないと思うので、ここでは項目のみにとどめておく。

これらを確認したうえで女性から言われたのは、

「継続的に本を発行できる体制が必要」

ということ。

出版流通は委託販売制度(書店は仕入れて売れ残った本を返本できる、そんな制度)が前提なので委託期間が過ぎると返本が始まる。

本の売上や返本率によっては売上よりも返本手数料のほうが高くなり、星雲社から出版社に支払う売上代金より、出版社から星雲社に支払う手数料の金額のほうが高くなるという、逆転現象が起きかねない。

そこで継続的に発行できれば、ネクストの売上でそのマイナスを相殺できる。

したがって継続発行できる体制が不可欠。

というロジック。

これが世にいう「出版社の自転車操業」。

ぼくは独立前に出版社にいたし、いまも出版業界でライターとして活動しているので、自転車操業に陥る出版社の状況を理解している。

資本力のない小さな出版社が事業を継続するためには、とにかく経営を成り立たせなければならない。

赤字転落を何としても避けるために、早く次の本を、そのまた次の本を……。

その焦りはやがて、度を超えた拙速を許容し始め、本の質の低下につながっていく。

すると本がさらに売れず、さらに返本が増え、さらに経営が厳しくなり、さらに質の悪い本を乱発するように……。

もちろんていねいに本づくりをされている出版社や編集者が多いだろうけれど、しかし一方では、やむを得ず負のサイクルにはまり込み、抜け出せなくなっている零細出版社もすくなくないと想像する。

夢を語って出版社をつくるのはいいけれど、結局、夢倒れに終わり、いつの間にか消えてなくなっている、そんなひとり出版社が多いのかもしれない。

星雲社の女性は、その夢倒れ予備軍を未然に防ぐ砦の役割を果たされていたのかもしれない。

じゃあぼくはどうか。

一発当てて印税……そんなことは考えていません。

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