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[seminarレポート]英国D&AD賞、受賞作/審査員から見たデザイン審査の現場を見てきた

D&ADの日本の総代表、古屋さんにお声がけいただき、ミッドタウンのインターナショナルデザインハブで開催された「英国D&AD賞、受賞作/審査員から見たデザイン審査の現場」を拝聴しに行ってきました。登壇者は、木住野彰悟さん(2016審査員/JAGDA東京会員)、丸山 新さん(2022審査員)、古屋言子(D&AD日本事務局)のお三方。

D&AD(Design & Art Direction)は、1962年に創設されたイギリスの非営利団体。広告のみならず、広くデザイン分野における優れた作品、プロジェクトを評価、支援してきました。カンヌやNYADC、NY ONESHOWと並ぶ権威あるデザイン賞のひとつ。その成り立ちが非営利団体ということもあり、他のデザイン賞に比べ、ピュアなクリエイティブ議論が行われることで有名な賞です。福田は、2014年にFabCafe Brand BookでWood Pencil / Branding / Brand Expression in Print、2019年と2022年にYouFab Global Creative AwardsでShortlist、2008年に777がYellow Pencil / Online Advertising / Digital Advertising Campaignsを受賞。2012年にはDigital Designの審査員を務めるなど、縁の深いアワードです。

木住野彰悟さんの2024受賞作「Fujiya」Wood Pencil / Branding / Large Enterprise / Brand Refreshと丸山 新さんの2024受賞作「Tokyo Dorm City」Wood Pencil / Branding / Design Systemsの2作品をそれぞれが解説なさるという流れから始まったイベントは、D&ADというアワード全体の話、審査の話、デザインシステムという新潮流の話など、多岐にわたるデザイン話が展開される興味深い内容でした。

Fujiyaの事例は、Brand Refreshというすでに実績と歴史をもつブランドのリブランディング仕事を評価するカテゴリーで受賞した作品。長い歴史の中で、自由闊達な現場デザインが濫立してしまう状況下、切り落としていくべきものをスパスパと切り落としながらブランドアセットを再整理する仕事が評価されました。特に、Fujiyaといえばぺこちゃんというぐらいにパワーあるマスコットがブランドイメージを牽引してきたその資産を、いかに次の時代のブランドアセットとして継承していくか。口元記号のデザイン化などユニークなデザイン資産の再整理のあり方が評価のポイントだったのだと思います。

東京ドームに代表される水道橋のエンタメシティ「Tokyo Dorm City」。東京ドーム、温泉ラクーア、イベントホール、遊園地、ホテル、庭園など多様な施設の存在する複合施設ブランドに、時代的デザインシステムを取り入れ、動的でアクティブで活気に溢れたブランドデザインをほどこしています。オリジナル開発されたTokyo Dorm Fontを基軸に、プロポーション、太さを自由に変えるシステム、グリッド変化に沿って動的に姿形を変えるシステムなど、多様なアルゴリズムを開発し納品することで、変化する業態が常にその変化を反映しながら変わっていく、新しいブランディングのあり方を提示しています。

レジェンドとヤングクリエイター

2012年にD&AD審査に参加した時、とても印象的に憶えているのは、レジェンドと呼ばれるような長老クリエイターとキャピキャピのヤングクリエイターが同じ審査会でとても仲良く審査している姿でした。おじいちゃんと孫ほどの歳の差の二人。でもその関係は、とてもフラット。過去の人と今の人というようなことではなく、気を使う人と気を使われる人ということでもなく、権威と新興という関係でもなく。互いが互いのクリエイティビティをシンプルにリスペクトしあって、正しく議論しあってるその姿。日本でいろんな審査会に参加してきたなかでそうしたシーンを目撃することはあまりなかったため、その姿はとても新鮮なものとして印象に残っていたのでした。D&ADが作り出しているそのニュートラルな空気はなぜ生まれるのか、日本でのあり方と何が違うのか。。。

CRAFTカテゴリーの分厚さとNewカテゴリー

世界の広告賞やデザイン賞にCraftというカテゴリーが登場したのは、2000年代初頭のカンヌが最初だったように記憶しています。メディアが多様化し手法が多様化しテクノロジーが多様に介在する中で、クリエイティブのあり方を問い直す「新しさ」と長い歴史とともに蓄積してきたクリエイティブ文化を同じ舞台で審査することの難しさに直面。Craftというカテゴリーを独立させることで、それぞれの時代価値を正しく議論できるようにしたのだと思います。

D&ADのCraftカテゴリーは、Animation, Art Direction, Casting, Cinematography, Direction, Editing, Illustration, Photography, Production Design, Sound Design and Use of Music, Typography, Visual Effect, Writing for Advertising, Writing for Designと他のAwardと比べても細かく設定されています。それぞれの語尾に「職人」とつけると、それぞれにしっくりくるカテゴライズが面白い。

アール・ヌーヴォー、アールデコ、バウハウス、構成主義。さらには国や地域に紐づいたスイスデザインや北欧デザイン。ヨーロッパのデザイン文化は、たかだがこの200年の間に起きてきた進化と革新の蓄積を、ひとつひとつ整理・定義し積み重ねることを繰り返して今に至っています。新しい潮流が生まれると、それは一定時間を経て振り返り、整理し、それまでの蓄積の上にさらに積層化していく。そうしていくことで、時間とともに熟成し文化となっていく流れと、それを土台にして進化・変化していく流れを、それぞれの意味の中で正しく評価できるようにしてきたのだと思います。

D&ADが、Craftカテゴリーを丁寧に細分化しながら、新潮流の審査部門をアクティブに変化させている背景には、そうしたヨーロッパデザインが守ってきた流れと同様の意味と文脈を感じます。積層化していく熟成の文脈と時代変化とともに登場する進化の文脈を分けて評価すること。古いからダメとか、新しいからいいとか、そうしたことではなく、互いが互いの価値を認め合いリスペクトすることによって、土台と成長点を両方をともに強くしていく構造。

変わることのない価値と変わっていく価値

2012年に目撃したレジェンドとキャピキャピのフラットな関係は、そうした評価文化が存在すること、D&ADの審査の空気にはそうした流れがわかりやすく現れているということが背景にあるのだと思うわけです。変わることのない価値と変わっていく価値。進化を効果的に実践いくには、その整理はとても重要になります。D&ADは、デザインというテーマが時代とともに進化・発展していく流れを、アワード審査という工程を通じてサポートしているのだと思います。

デザインシステムという新潮流とこの先

昨晩のセミナーの中でも、デザインシステムという新潮流のことは熱く語られていました。メディア、タッチポイントが多様化する時代にシステム思考でデザイン体系を考え直し時代要請に応えることの意味。固有のスタティックイメージでブランドイメージを作っていく流れから、動的に変化しながらひとつのイメージ像を印象付けていく流れの意味。強烈な時代変化にシステムという仕組みの運用をもってクリエイティブな対応を実現していく意味。その新潮流はいろいろな意味と可能性を提示しています。

面白かったのは、イギリスタイポグラフィー界の重鎮でありD&ADの幹部でもあるネビル・ブロディー氏が、デザインシステム文脈の作品が同質化し始めていることに不満をコメントしていたこと。デザインシステム的な作品がD&ADの審査会に上がってきた最初は8年ぐらい前だと思いますから、すでにそれなりの時間を経ているわけで。ネビルさんはすでに「試みとしての新しさ」だけで評価される時期は終了した、デザインシステムという新潮流がさらに柔軟にさらにクリエイティブなデザイン進化を具現化するフェーズに入っていかないと本当に面白くならないと仰ってる。D&ADは、そこをちゃんとチェックしとるぜと仰ってる。おそらくこの先には、AIも普通に活用しながら、さらに多様で複雑なアルゴリズムによるシステム進化が進んでいくことになる。生物学者の福岡先生が提唱した「動的平衡」のような概念とエグゼキューションとアルゴリズムがデザインの世界にも実現するのかもしれない。それは、相当にすごい進化ですよね。

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変化は評価する。進化は応援する。でも同時に、その試みが次の蓄積になっていく土台としてのクリエイティブ文化の蓄積と評価も重視する。その2軸をきっちり見据えてやりきっているところに、D&ADのかっこよさがある。福田はそう思うわけです。若きクリエイターの皆さんも、そうした文脈を意識して自分のデザインの意味と未来を考えると、また、作り方が変わってきて、面白い。ほんとですよ。


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