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Fact Judge
•あらすじ
今は情報社会、仕事•買い物•勉強など何でもネットを利用する時代。情報を得るにも新聞やTVではなくネット配信やSNSが主流になった。
SNSの用途は実に多い。
情報発信だけでなく、個人の日記や記事•イラストの販売など多種多様な事が楽しめる。
歌や踊りの動画を投稿し、そこからデビューする人もいる。
主人公である「本庄 陸人(ほんじょう りくと)」も職場でのストレス発散も兼ねて自分の趣味を記事にしていた。
ある日、陸は大きな仕事のミスを上司になすりつけられイライラしながら帰宅していた。愚痴をSNSに書き込んでやろうか、そんな事を考えながらスマホを見ているととある広告が目に入った。
『事実を裁きます Fact Judge』
・本編
「はぁ‥今日も疲れたなー。」
いつも通りの残業に思わずため息が出る。特に今日は最悪な1日だった。
俺、本庄 陸人はとある会社の正社員で働く営業マン。飛び抜けて成績がいいわけではないが無難に仕事をこなしている。
今日もいつもと変わらず仕事をしていたのだが、
最悪な出来事が起きた。
「本庄君、頼んでおいた契約書類がまだ出来てないじゃないか!」
この男は上司である山崎課長。営業力も無ければ事務仕事もロクに出来ない、どうしてクビにならないのか不思議なレベル。せめて降格はするべきだろ‥。
「いやそれは断りましたよね?俺は別の案件の期限がありますし、そんな大型案件の契約書類を一度も話に参加してない俺が作れるわけないじゃないですかって」
そりゃ無理だろう。何せ俺は3つ案件を同時に抱えている所だし、何よりどんな契約なのかすら何も聞かされていない。そんな状況では不可能だ。
「その為に会議資料もデスクの上に置いといてやったんじゃないか。どうするんだね、今日が締め切りなんだぞ?」
「知りませんよ!まだ完成してません、至急急いで作成しますって素直に言うしかないんじゃないですか?」
先方には申し訳ないが無いものは無い。誠心誠意謝るしかないだろう。だが‥
「私が遅れたわけではないのに何故私が謝るのだ。いいか、これは君の職務怠慢という事で上に報告しておく。」
「はぁ!?ふざけないでくださいよ!」
俺の抗議も虚しく課長は行ってしまった。
結果社長から呼び出しをくらいこっ酷く叱られてしまった。
「言い訳もさせてくれなかったな。」
1人落ち込みながら帰宅していたがやはり思い出すだけで腹が立ってくる。
最悪な上司‥今日のタイトルはこれかな、とSNSにアップしようとスマホをいじっていると、ふと変わった広告がそこに表示されていた。
『事実を裁きます。Fact Judge』
なんだこれ?新手の変な広告かな。
そしてその下にはこう書かれていた。
『あなたしか知らない事実をさらけだそう』
「‥何か面白そうだな。」
その時はちょっとした興味本位だった。どうやら【Fact Judge】というのはアプリのようだ。説明文が載ってるな。
【Fact Judge】のルール
・あなたしか知らない【悪質な事実】を暴露投稿しましょう。
・投稿の際は対象人物の名前はイニシャルなど仮名で構いません。
・暴露内容はおおまかで構いません。当アプリのAIが自動補正いたします。
・投稿された対象にはスマートフォンにお知らせが届きます。
・貴方の投稿した内容を他ユーザーが賛同してくれるとイイねやコメントをしてもらえます。
・イイねが【3万】を超えると【ジャッジタイム】に移行します。
・【3万イイね】になる前に対象者は自ら【ジャッジタイム】に移行させる事も可能です。
〜【ジャッジタイム】とは〜
・投稿された対象にLive配信への参加を強制します。
その際は素顔、実名が公開されます。
対象者は投稿された内容に対して【事実】か【冤罪】かを回答していただきます。
・【事実】と回答した場合、本当に事実であればその内容に相応しい処罰が下されます。それに応じた報酬を投稿者及びイイねをしたユーザー様に還元いたします。
事実ではないのに【事実】と回答した場合は投稿者にペナルティが発生しますのでご注意下さい。
・【冤罪】と回答した場合、本当に冤罪であれば投稿者にペナルティが発生します。その場合対象者はその投稿内容に関係する出来事以前の状態まで修復いたします。またこの【冤罪】の真犯人がいる場合は真犯人に対して相応のペナルティが発生します。
その場合は投稿者にはペナルティは発生いたしません。
事実にも関わらず【冤罪】と回答した場合、死罪といたします。死罪となった場合は報酬は発生いたしません。
※注意事項
・虚偽の投稿はおやめください。ペナルティが発生いたします。またそれを指示した人物がいる場合、ペナルティの対象はその人物になります。
・事実であっても裁くような内容ではない投稿はご遠慮ください。悪質な場合はペナルティが発生します。
・投稿者への詮索及び妨害行為は禁止です。万が一そのような禁止行為がみとめられた場合、投稿内容の事実を運営にて強制的に公開させていただきます。その上で禁止行為に関わった方は死罪といたします。
禁止行為に関わっていない対象者は【事実】であった場合はペナルティが、【冤罪】であればその件に関わった人物の情報を何もなかった状態まで戻させていただきます。
・一度投稿いたしますと削除等出来かねます。
・このアプリについて悪質な拡散を行おうとした場合、それに準じたペナルティがございます。
‥‥なんだこれ。ペナルティとか死罪とかどうやってやるんだよ。ただ愚痴る為のアプリってか。
「にしてもルールがやけに細かいんだよな」
憂さ晴らしするだけならこんなの適当でいいのにな。
まぁ匿名で晒すならよくあるSNSみたいなもんか。
「匿名でいいなら今日の課長のやつでも載せてやろうかな」
物は試しでアプリをダウンロードしてみた。アプリを立ち上げるとよくあるログイン画面。新規登録をタップし登録画面にくる。
「ニックネームかぁ、いつものでいいか」
『とりっく』普段からネットで使っているニックネーム。自分の名前をもじって作ったやつだ。
「さて投稿‥といってもどんな感じで書けばいいんだ?」
今日あった出来事を事細かに書いた方がいいのかな。
そういえばルールのところに確か‥
『当アプリのAIが自動補正いたします。』
あったあった。まぁどう補正するのかは知らないけど適当でいいか。
【今日課長に仕事のミスを押し付けられた。自分がサボってるだけのくせにマジムカつく。社長も社長で課長の言い分しか聞きやしない。これでボーナス下がったりしたら訴えてやる。】
「こんな感じかな。AI修正は‥‥あれ押すとこ無くね?」
どこを探しても投稿ボタンしかない。まぁいいかと思い投稿ボタンをタップした。すると
『投稿してもよろしいでしょうか?投稿後は修正及び削除はできません。投稿後AIにて自動修正いたします。』
「勝手に修正されるのか。まぁ大した事書いてないしいいけど」
とりあえず投稿してみる事にした。
『投稿が完了いたしました。ご確認ください。』
「どれどれ‥!なんだよこれ!?」
投稿内容を見た時に俺はあまりの内容に驚愕した。
【とある社員の仕事中の出来事。上司であるY課長が本来自身でやらなければいけない契約の書類を社員に作成を依頼するもその社員は自身の業務に手一杯の為拒否。書類作成の締切日当日になっても書類は出来ておらず、その責任を社員に押し付けた。同社H社長も事実確認をせず一方的に社員に叱責をおこなった。Y課長は常習的に前述のような行為を繰り返している。】
『Y課長及びH社長が裁かれるべきと思う方はイイねを押してください。』
まてまてまて‥なんでこんなに詳しく書かれてるんだ?しかも山崎課長や花山社長のイニシャルまで‥。
「一体どうなってるんだ?」
とりあえずこれはマズイだろ。見る人が見れば俺ってわかっちまうし。何よりこれだ。
【投稿された対象にはスマートフォンにお知らせが届きます。】
早く消さないとかなりマズイ!不満はあるけどクビになるよりはマシだ!
「削除がどこにもない!まじかよ!」
どこを探しても削除が見当たらない。本当に消せないのかよ。
「‥‥!いつの間にかイイねが300超えてる。」
まだ投稿して5分程度しか経ってない。このペースだと3万なんてすぐだ。
「でもどうする事も出来ないよな。様子を見るしかない、明日課長に会えば何かわかるかもしれない。」
考えても始まらない、俺はひとまず家に帰り今日は休む事にした。
夕飯やお風呂なども済ませ後は寝るだけだ。
「あのアプリはどうなったんだろ。」
恐る恐る確認した所、
「いいね4000超え。そんなにユーザーいるのかよ。」
明日にはどうなってるのか。そもそも悪ふざけの可能性もある。気にしないようにしよう。
そうして俺は眠りについた。
翌朝目を覚ました俺は真っ先に例のアプリを確認した。
『イイね 1.4万件』
明日には3万いってしまいそうだな。
まずは課長に会って変な通知が来てないか確認しよう。
「おはようございます。」
「おはよー。本庄くん、山崎課長が呼んでたよ。出社したらすぐ会議室までくるようにだって。」
「‥了解っす。」
これは例のアプリの件かもな。マジで届いてるのか?
そもそも誰かも書いてなければ連絡先なんて自分の分すら書いてない。ありえないだろ。
足取りは重かったがとりあえず課長の待つ会議室に向かう事にした。
コンコンッ
「失礼します。」
「いやぁ待ってたよ本庄くん。そこに座りたまえ。」
思ったより機嫌は悪くないな、てっきりブチ切れてるかと思ってたが。
「早速本題に入ろうか。昨日突然スマホに変な知らせが来てな、見てくれたまえ。」
やっぱりそれか。でも実際俺も気になってたしな。
課長のスマホを見せてもらうとそこには例のアプリが入っていた。
「課長、このアプリいれたんですか?」
「知らん、昨日変な知らせが届いたと思ったらいつの間にかあったぞ。」
本気でヤバいアプリかもしれないな‥。
「アプリ起動しますね。」
アプリを立ち上げるとそこには昨日の投稿内容が書いてある。よく見ると一部違う所があった。
【とある社員の仕事中の出来事。上司である山崎課長が本来自身でやらなければいけない契約の書類を社員に作成を依頼するもその社員は自身の業務に手一杯の為拒否。書類作成の締切日当日になっても書類は出来ておらず、その責任を当該社員に押し付けた。同社花山社長も事実確認をせず一方的に当該社員に叱責をおこなった。山崎課長は常習的に前述のような行為を繰り返している。】
思いっきり実名じゃないか。勿論それも気になったがその下にある記載に目がいった。
『この内容が【冤罪】だと思うのであれば下記のボタンを押してください。即時【ジャッジタイム】に突入し、【冤罪】の回答をおこないます。』
もし嘘の投稿だとしたらすぐに異議申し立てが出来るわけか。
「さてこれを見て何か言いたい事はあるかね?」
「‥昨日の出来事そのままが書いてありますね。」
俺はスマホを返しながらそう答えた。
「そんな事は聞いていない。これを書いたのは君だろう。」
「私が書いた証拠は無いと思いますが。」
「こんな事細かに嘘をかけるのは君しかいないだろう。」
この後に及んで嘘と言うか‥。
「嘘だと思うならそのボタンとやらを押せばいいのでは?もし私が書いていて【冤罪】とやらであれば私にペナルティがあるようですし。投稿内容に関する事も消えるそうですよ。」
「‥‥そんな事をしなくても君が削除すればいいだけの話だ。」
まぁもしこのルールが本物から押せないよな。
「残念ですが一度投稿したら消せないみたいですよ。」
「なら我が社の関係者の方達に、こんな事実は無かったと広めたまえ。」
ふざけるな。なんで事実を捻じ曲げてまで俺がそんな事しなくちゃならない?そんなもの答えは一つだ。
「当事者が私と書いてるわけじゃないですから誰も信じないですし、そもそも嘘を広める?お断りさせていただきます。」
「お前‥‥いいんだな?どうなっても知らんぞ。」
「いいも何も悪いのは課長ですから。俺に罪はありません。それに私に何かしたら妨害行為とやらになるんじゃないですかね?」
「ふん、こんなもの誰が信じるか。それにお前は人の個人情報を拡散している!そもそも罪のない人間なんていないだよ!残念だがお前は今日でク‥」
ドサッ。
!?。おそらくクビと言おうとしたのだろう。だがその瞬間課長は前のめりに床に倒れ込んでしまった。
「課長!っ?!息をしてない。まさか死んでる!?」
おいおい、いくらなんでもそんなわけが‥‥。
「と、とにかく救急車を呼ばないと。」
すぐに119番通報を終えた。後は会社にも伝えないと。
「何て説明すればいいんだよコレ‥‥。」
ふと下を向いた時に課長のスマホの画面が目に入った。そこにはこう記載されていた。
『ペナルティが発生しました。』
マジでこれが原因なのか?違うとしてもタイミングが‥。
会社にも報告が済んだ。社内は大騒ぎだ。色々聞かれるだろうがどうすればいいんだ。
素直に全部話した方がいい気はするが‥
すると自分のスマホに突然通知が来た。そこには
『このアプリについて悪質な拡散を行おうとした場合、それに準じたペナルティがございます。』
まさか話すだけで駄目なのか?いやそんな筈はない。
そもそも話題を広めないとこのアプリが成り立たないだろう。
「‥そうか、この話を聞いて何も知らない人がそれを悪く広めたらアウトなのか。」
くそっ!難しいな。何も知りませんで通すしかないのか。
色々悩んでるとどうやら警察や救急隊が到着したようだ。
課長が担架に乗せられて運ばれていく。隊員の話が聞こえて来たがやはり死んでるらしい。そんな時に同僚の1人が話しかけてきた。
「本庄くん‥、課長亡くなっちゃったの?」
「そうみたいだね。俺も訳がわからないよ。」
「確か本庄くん、朝から課長と話してたみたいだけどなんかあったの?」
「いや特に、仕事の話をしただけだよ。」
やはり本当の事を話す訳にはいかないな。
「すみません、あなたが第一発見者ですか?」
突如女性の方から声をかけられた。
「あ、はいそうですが‥。」
「私はこの現場を担当する結城(ゆうき)といいます。当事の状況を教えていただけますか?」
「わかりました。」
女性の刑事さんか。俺は課長との会話の内容は変えて仕事の話をしてた事にし、話の途中で突如倒れたと伝えた。
「なるほど、捜査にご協力いただきありがとうございます。‥‥ちなみにアプリと聞いて何か思い当たる事はありますか?」
「っ!?」
まさか知ってるのか?
「どういう事でしょうか?」
「いえ何もなければ大丈夫です。ありがとうございます。本庄陸人さんでしたか?もし何か思い出しましたらこちらまでご連絡いただけると幸いです。」
そう言って結城という女性刑事は自身の名刺を渡して現場に戻っていった。
気にはなったがペナルティの件もある、俺はその場を立ち去ろうとした。
その時俺の近くにいた別の刑事さんがぼそっと呟いた。
「またあの時の事件と同じ‥‥。」
その日は仕事は早退きになり俺は真っ直ぐに自宅へと戻った。
「疲れた‥‥。」
今日は色んな事が起こり過ぎて何がなんだかわからない。気になる事も沢山ある。一つは課長が死んだのはこのアプリのせいなのかと言うこと。もう一つはもしそうだとしたら社長はどうなったのか。そして最後に
刑事さんが言ってた件。
まず課長が死んだ件についてはもう疑いようがないだろう。なんせ自分の目の前で死んでるんだ。課長のスマホの画面に表示されてたアプリも見た。もう間違いない。
社長に関してはどうだろうか。ルールでいくと今回は課長がルール違反を犯してるわけだから
・投稿者への詮索及び妨害行為は禁止です。万が一そのような禁止行為がみとめられた場合、投稿内容の事実を運営にて強制的に公開させていただきます。その上で禁止行為に関わった方は死罪といたします。
禁止行為に関わっていない対象者は【事実】であった場合はペナルティが、【冤罪】であればその件に関わった人物の情報を何もなかった状態まで戻させていただきます。
これに該当する事になる。
課長の場合は俺をクビにしようとしたってのが妨害行為になるんだろう。
もし社長がそれを指示していたとしたら社長も同罪になる。
でも社長がペナルティを受けてたとしたらもっと大騒ぎになってるはずだ。
つまりあれは課長の独断になる。
ならこの後起きる事は‥。
「投稿内容の事実を運営にて強制的に公開か。」
よし、まずはアプリを見てみる事にしよう。
俺は自分の投稿ページを確認してみた。
【とある社員の仕事中の出来事。上司である山崎課長が本来自身でやらなければいけない契約の書類を社員に作成を依頼するもその社員は自身の業務に手一杯の為拒否。書類作成の締切日当日になっても書類は出来ておらず、その責任を当該社員に押し付けた。同社花山社長も事実確認をせず一方的に当該社員に叱責をおこなった。山崎課長は常習的に前述のような行為を繰り返している。】
ちゃっかり実名になってやがる。強制的に公開ってやつか。
そしてその下には追記があった。
『上記の対象者2名はどちらも【事実】と判定されました。そのうち1名【山崎】に関しましては禁止行為をおこなった為死罪となりました。【花山】は事実認定されましたのでペナルティを発動いたします。』
やはり課長が死んだ原因はこれだろうな。となると社長のペナルティって何が起こるんだ。
『【花山】のペナルティ内容:資産の全剥奪、降格処分』
マジか。重過ぎる気がするが。いや社長としての責任ってやつか?どちらにしろ事実の場合ただでは済まないという事か。
だとしたら後は気になるのが最後に刑事さんが言ってたセリフ。
同じような事件が他でも起きてるって事か?
「あ、そうだ。」
結城って刑事さんから名刺もらってたんだっけ。
ただ連絡してどうする?アプリの事は知ってそうな雰囲気はあったけど。下手に話すとペナルティがあるかもしれないし。
「悪いようにさえ広めなければ問題ないんじゃ無いかな。」
どうしても気になって仕方ない。その好奇心と自分の投稿によって課長が死んだ罪悪感から、俺は結城刑事に連絡する事にした。
トゥルル‥トゥルル‥
何コールかすると
「はーい、結城です!」
あれ、なんかイメージが‥
「あ、突然の電話すみません。俺本庄といいます。今日うちのオフィスの事件現場でお会いしたものですが。」
「あ〜!第一発見者の人ね!どうしましたー?」
現場で会った時とキャラが違う。
「いえ、その何か思い出したことがあれば電話をと聞いていたので。」
「ストップ!わかった。電話じゃなんだから何処かで待ち合わせしましょう。あなたの家の近くにファミレスとかある?」
「あ、ありますけど。」
「じゃそこで待ち合わせで。今からすぐ向かうからそのお店教えて!」
俺はちょっと呆気にとられながらも場所を伝えた。
幸いにも結構近い所だったらしく30分後には到着するとの事。
「とりあえず行くか。」
「お待たせ〜。」
明るい声でお店の席で座ってる俺に近づいて来たのは今日の朝会った現場での刑事さんとは思えない軽い感じの綺麗な女性だった。
「ごめんごめん!待たせちゃったよね?急に呼び出して申し訳ない〜。」
「いえ、そんなに待ってないですし、丁度腹ごしらえもしたかったので。」
「それなら良かった!ここは私が奢るから遠慮なく食べてねっ!」
「それは悪いですよ。」
「いいのいいの!どうせ経費だから。」
まぁそれならお言葉に甘えるか。って奢りではないよな。
「とりあえず来てくれてありがとね!電話だと話難い内容だと思うし。」
「まぁそうですね。最初に刑事さんが聞いて来たアプ‥」
「結城 凛(ゆうき りん)。結城さんでいいよ!確か本庄 陸人くんだっけ?陸くんって呼ぶね!今は一応プライベートだし。」
プライベートで経費使っていいのか?
「あーじゃまぁ結城さんが最初に聞いてきたアプリについてなんですが。」
「何か思い当たる事があるのね?」
「はい、【Fact Judge】ってやつですが。」
「やっぱりそれか‥。」
「ご存知なんですね?」
「勿論。私はそれについて調べてる最中だからね。」
やはり警察は把握してるか。それにしては全然ニュースにも事件にもなってない気がするが。
「先に忠告しとくね。このアプリについて絶対に悪いイメージを人に伝えようとしない事。死にたくなかったらね。正直これもギリギリの範囲だと思うけど、『アプリユーザーを増やす為に無駄な禁止行為を防ぐ』ってつもりで話してるからセーフだと思う。」
「なんかややこしいですけど、ようはアプリの悪口を言わなければいいんですよね。」
「ま、そう言う事だね!」
「なぜ刑‥結城さんはそんな事を知ってるんですか?」
「‥‥それはね。私の同僚が何人もペナルティを受けたからよ。」
!?
そう言う事か。
「最初はとある事件から始まったの。政治家さんの1人が急に亡くなったの。突然死って判断されたんだけど色々事情聴取してたら秘書がこんな事を言ったの。」
『先生のスマホに変な連絡が来たんです。裏金問題がどうとか。最初先生は無視しろって言ってたのですが、亡くなったその日突然先生が姿を消して、戻ってきたと思ったら亡くなってたのです。そして先生のスマホには【ペナルティが課せられました。】という画面が。』
「まさに今回と同じ感じですね。」
「でしょ?でも最初はそんな事聞いても勿論信じれるわけもなくてさ。ところが同じような事件が立て続けに起きたのよ。」
「それで3件目の時かな。アプリの事を覚えてる関係者がいてそこで【Fact Judge】にたどり着いたってわけ。」
「なるほど。それでアプリについて調べ始めたわけですね。」
「‥‥ううん。調べる事はできなかった。」
「どう言う事ですか?」
「最初はまずニュースで注意喚起すべきって意見が出たの。いや正確には出ようとしたなんだけど。」
「まさか‥‥。」
「うん、その意見を出そうとした刑事はその瞬間亡くなったわ。手元にあった資料から何を言おうとしたかはそれでわかったんだけどね。」
「なるほど‥‥。」
「次に刑事が1人亡くなった事で捜査本部を立ち上げようってなったんだけど、その指示を出そうとしたお偉いさんが1人また亡くなったの。」
「今は捜査本部は無いってことですか?」
「ううん、捜査本部はちゃんとあるよ。ただこのアプリを止めようと行動したらダメみたい。残念な事に頭の固い上の人達は信じようとせず次々に亡くなったわ。」
「そりゃそんな事普通は信じれませんけど。」
「まぁね、でも実際に目の前で死んでいったら流石に信じるしかないでしょ。」
「それはまぁ‥‥。」
俺もいまだに信じたくはないが課長が目の前でああなってる以上信じるしかない。
「そこで私はペナルティにならない範囲内でやれる事をやろうと思ってね!」
「いやかなり無謀じゃ、命がかかってるんですよ?」
「じゃないとスズに申し訳なくてね。」
「スズ?」
「あ、うん。最初にね、ニュースで注意喚起すべきだって声をあげたのが私の親友の涼宮って刑事だったの。なんで何も悪い事してないスズが死なないといけないのって思って。」
そうか、だからこんな無茶な捜査を1人でしてるのか。
「でもこれだと放置するしか無いんじゃないですか?」
「まぁそうなんだけど、実は試してみたい事があってね。その為に協力者が欲しかったんだ。聞いてもらえる?」
こんな理不尽な事にたいして何が出来るというのか。
でも聞いてみる価値はあると思った。
「私の同僚達の死を無駄にしないよう、死んでった状況を色々パターン分けしてみたの。」
「うん。」
「すると中には同じような事をしたのに死んで無い人もいたの。」
「どう言う事ですか?」
「例えば、【Fact Judge】は『危険なアプリ』です。って告知しようとした人は亡くなったけど、『死の裁きをくだすアプリ』って伝えようとした人は生きてたの。」
どう言う事だ?死ぬ危険性を伝える事には変わらない、いや寧ろ『死』がハッキリイメージ出来る後者の方が駄目な気がするけど。
「ま、結論から言うと【悪評】ではなくて【事実】として伝えるつもりなら問題ないみたい。」
「‥‥なんか曖昧な定義っすね。」
「向こうさんの都合でしょ。そこで私はこんな作戦を考えたのでした!」
そう言って結城さんはスマホの画面を見せて来た。
そこには【Fact Judge】の画面が。
「ちょっ!投稿済みじゃないですか!」
「うん、だって誰か協力してくれそうな人がいたらやるつもりだったからね!」
本気か、行動力あり過ぎるだろ!
投稿ページにはこんな内容が投稿されていた。
【【Fact Judge】は罪のない人にも死のペナルティを与えている。】
これがセーフ?実際罪のない人達も亡くなってるから【事実】として認定されるのか?
「無茶し過ぎですよ!こんなの相手の匙加減ですぐペナルティですよ!」
「だろうねー。でも実際無実の人も死んでるでしょ?これなら【Fact Judge】そのものにペナルティになるんじゃないかな?」
「博打もいいとこですよ!」
ピコンッ
突如結城さんのスマホから通知音がなった。
恐る恐る2人で一緒にスマホの画面を見た。
『強制的にジャッジタイムに移行しました。』
結城さんと俺は顔をあわせた。
「これは【冤罪】ボタンを押したのか?」
「みたいだねー。」
呑気だな結城さん‥‥。
そして続きが表示された。
『【冤罪】が認められました。よって投稿者もしくは真犯人にペナルティが発生します。』
「!?」
「あー駄目だったかぁ。ごめんね陸くん。」
「そんな呑気な事言ってる場‥‥、結城さん?」
天井を見上げたまま動かない結城さん。まさか‥
「結城さん!結城さんってば!」
体を揺らすも反応がない。心臓‥も動いてない!
「くそっ!協力を頼んどいていきなり死ぬなよ!」
どうすればいい!何か方法はないのか?ルールではペナルティとしか書いてない。死ぬのはペナルティとして重過ぎるだろ!?
何度ルールを見直してもペナルティを回避する方法なんて載ってるわけがない。
「何が【冤罪】だ!罪のない人を何人も殺してるじゃないか!」
結城さんだってそうだ!殺されなきゃいけないような事はしていない。罪なんかないんだよ!
『罪のない人間なんていないんだよ!』
ふと今日どこかで聞いた言葉が頭によぎった。
まさかな‥‥。だとしたらこのルールを使えばもしかして!
俺は【Fact Judge】にすぐさま投稿した。
【結城 凛は死ななければいけないような罪を犯した】
すると結城のスマホに通知が来た。
俺は結城さんのスマホを操作し投稿文のすぐ下を確認する。
『この内容が【冤罪】だと思うのであれば下記のボタンを押してください。即時【ジャッジタイム】に突入し、【冤罪】の回答をおこないます。』
そしてすぐさまボタンを押した。
すると俺のスマホに通知が。
『強制的にジャッジタイムに移行しました。』
そして、
『【冤罪】が認められました。よって投稿者もしくは真犯人にペナルティが発生します。』
よし!これならもしかしたら!
「ん‥‥うーん、あれ?」
「結城さん!」
予想通りだ!このルールならもしかしたらと思ったけど!
【冤罪】と回答した場合、本当に冤罪であれば投稿者にペナルティが発生します。その場合対象者はその投稿内容に関係する出来事以前の状態まで修復いたします。またこの【冤罪】の真犯人がいる場合は真犯人に対して相応のペナルティが発生します。
その場合は投稿者にはペナルティは発生いたしません。
「本当に良かった結城さん!」
「そっか、凄いね。咄嗟にこんな事思いつくなんて」
「一か八かだったけどね。俺にペナルティが来ることも覚悟してたし。」
「来てないって事はそう言う事なのかな?」
「みたいだね、ほらアプリが‥。」
そこにはもう例のアプリは無くなっていた。
これで全て終わったのかはわからない。でも俺と結城さんのアプリとの闘いは終わった。そう願っている。