サーカスに行きたいだけなのに
小学校の時、よく校門のところでプロレスかサーカスの割引チケット貰ったんですよね。
テントと一緒に巡業していくサーカスと、リングを連れて巡業するプロレスは共通点多いから一緒に配ってたんかな?
それとも時代かな?
それはさておき、幼い頃はどっちも連れて行ってもらえなかったんです。
父が消防士であんまり家にいなかったし、姉達は全く興味なしで協力してくれないし、幼い妹を連れては行けないと言われ続けていた。
でも、どうしてもサーカスに行きたくて母に頼んだ。
地元に巡業に来てくれるのは「木下大サーカス」という動物芸がメインのサーカス。
クラスメイトが「隣の市にテントが来たよ!」とランドセルを鳴らして教室に駆け込むのを聞いて私はいてもたってもいられなかったのだ。
学習机の鍵付きの引き出しにはまだ割引チケットがある。
お父さんが非番の日なら妹を見ていてくれるんじゃないか?
いつもより踵を浮かせて走って帰り、母の背中にしがみつく。
「お母さん、サーカス見たい」
「あかん」
秒で却下された。
もうちょい考える余地あるんちゃうか?と真顔になる私に、母は淡々と理由を語った。
「サーカスにシマウマおるやろ?」
「うん」
「シマウマはな、温厚そうやけど臆病やねん。やから年老いたら凶暴になって噛み付く事もあるんや。
サーカスの動物はちゃんと管理はしてると思うけど、温厚さに騙されてシマウマは油断される、想像以上に危険や、避けろ」
どうしよう。
お母さんが、下っ端に適切な密売ルート教えてるマフィアみたいな理屈で諭してくる。
「それにお母さん午年やん?シマウマに噛まれたらなんかやりきれん」
何も言えねぇ。
その反動かは知らんけど、大人になってから毎年10月にこれまた大きなテントを張って大阪に巡業してきてくれるシルク・ド・ソレイユと、メキシコプロレスを主体にしたドラゴンゲートプロレスリングはチケットを取って何度も観に行った。
サーカスのイメージは、演目毎に技だけを見せていくコマ切れのイメージだが、シルク・ド・ソレイユは一本通して脚本があるストーリー仕立て。
衣装もきらびやかでミュージカルのようだし、命綱なしでどんどん繰り広げられるアクロバットは、まるでメキシコプロレス!ルチャっぽいんですよねぇ!
プロレスもストーリーあるしねぇ!
1番好きな演目は「Corteo」かな。
死生観を題材にしている珍しい演目やと思う。
サーカステントで異常に足の長いピエロがジャグリングしてるってちょっと憧れやないですか?
あれが客席の後ろから、ゆうゆうと観客をまたいで歩いてきてステージに立った時は私の鳥肌も立った。
ワクワクして心臓がどうかすると思ったほどだし、なぜか、もっと素敵なワンピースで来れば良かったと後悔した。
でも、薄暗いテントの天井をピエロが燭台を持って歩く演出は美しさが振り切れて恐怖で、数日間は就寝前の暗い部屋の天井がこわかった。
演目が終わったカーテンコールに薔薇を一輪ずつ投げ込んで「ブラボー!」と叫ぶあの独特の時間。
レオタード姿の踊り子が、お辞儀しながら一輪ずつ薔薇を拾う姿を見るのはバズ・ラーマン監督の世界に入り込んだ気分だった。
サーカスのテントって何でこんなに胸がいっぱいになるんやろ。
プロレスのリングとは違うワクワクがありますね!