BL作家やろうぜ!3つのお題小説第4弾!
企画発案者の楓莉さんと月一で3つのお題を入れたBL小説を発表してます。
今回は嬉しいことに参加者様が私達の他に3人も!読み比べてみてください。
謎の協調性が生まれてます。
生きていると現実では辛い事や理不尽な事、全裸になって駆け出したくなる夜もあると思いますが、この物語の中にはそんな日常も人もいません。
それが物語のいいところ。
好きな作品で現実逃避してくでさい。
皆さんの小説はこちらから↓
✴︎次回のお題も一緒に発表しますので、参加されたい方はそちらの記事のコメント欄に参加表明の書き込みをお願いします!
テーマは「理想」
いつも通りのバスケおじさん3人+1人が反省したり、開き直ったり、一線越えたり、タブーに踏み込んだり、横取りしかけたり、やっぱり何もしなかったりします。
今回は読み進めると分かれ道が現れます。
理想を「追求する」か「追求しない」かで違う話を読めるようにしました。
・追求する→男子の夢を詰め込んだ、禁断の女体化です。BL苦手でも読めるちょっとエッチな小説。
・追求しない→BLですが、悟りが拓けます。登場人物の哲学にちょっと唸る、コメディ小説。
お好きな方だけ読んでもらっても、両方読んでも、どっちも読まなくてもあなた次第。
どちらも冒頭部分から読むと5000字になるよう収めて、欲張りさんは2本文楽しめます。
「アイドル」
俺、宗谷充時は童貞だ。
バスケばかりでボール以外には奥手の学生時代を終え、就職後は美少女ゲームの沼にはまりオタク道中膝栗毛。
コミケに参戦、同人誌を知った。
この界隈では憧れの子とあんなコトこんなコトやり放題、全ての下心が叶う。
恋愛、恋人、結婚、性経験、何もなくても全然平気だった。
俺は推しと心中する、一生1人で問題ない。
と、いうのは建前で。
「自分の兄貴が1番理想の女像」で、それを超える出会いに恵まれていないのが拗らせまくった本音である。
兄貴が理想の女。
兄は女じゃないし、そもそも他人でもない。
従姉妹のお姉さんならワンチャンあるが、兄貴なのだ。
もはや「好きな淡水魚は鯨です」と言っているようなものだ。
鯨は哺乳類で魚類じゃないし、そもそも淡水でもない。
鮭や鰻なら遡上するからまだどうにかなるが、鯨なのだ。
理解はしている。
だがこれが、なかなかどうして、女の子といい雰囲気になると兄貴と比べてしまう。
目の前の女性の一挙手一投足、立ち居振る舞い、言葉の一つまで兄貴と比べて優劣をつけてしまう。
そして勝てた女子がいない。
しかも兄貴は男だから余程の事がない限り純潔を貫いてくれる。
それならばと俺も一緒に操をたて続けることが出来る無限ループが完成する。
全ては俺の中だけで起き、女性には失礼だが自分が納得する事で平和に過ごしていた。
だが、何の因果か兄貴が親友のリキ(男、なんなら大男)と付き合いはじめ、俺が守った操と兄貴の純潔の平和の均衡が崩れた。
怖いくらいの喪失感、疎外感、漆黒、混沌、その先に虚無を見た。
だが事実はわからない。
付き合って4ヶ月。
2人はBリーガー、シーズン中は体を最優先する。
だから兄貴はまだ純潔を守っているかもしれない。
このまま読むと「理想を追求」します。
もし「理想を追求しない」を選択する人は目次から飛んでください↑
▶️「理想を追求する」*ちょっとエッチです。
誕生日を週末に控えた俺は、仕事終わりの水曜日に兄貴の試合を観にに行った。
前祝いに唐揚げとコーラを買い、テーブル付きの立ち見席につくと、ちょうどハーフタイムのコートでチアのパフォーマンスが始まる。
エキシビジョンを見ると、34ー40で兄貴の所属するビリーバーズが1ポゼッション差で勝っている。
コンディション調整で兄貴はロスター外だし、まずまずの試合ってとこだろうか。
点数が低いところをみるとかなり拮抗している、相手のシルバーリングスはガチガチのディフェンスチーム、スモールラインナップでスピード勝負するビリーバーズは武が悪い。
パフォーマンスが済んだコートでは「いい夫婦の日特別企画!夫婦3組のフリースローチャレンジ」が始まった。
「いいなぁ」
カップルや家族で観戦している人達を見ると、二次元の結婚も恋愛も吝かではない、むしろ憧れる。
ただ、兄貴みたいな美少女がこの世に存在しないのが悪い。
爪楊枝で唐揚げを刺して一口で食べたら、カリカリの皮から脂がジュワッとあふれて口の端から顎につたった。
紙ナプキンをとってなかった事に気がつき、手の甲で拭ってガツガツと咀嚼しながらコーラをあおる。
隣のカップルがクリスマスゲームの観戦の話をしだし、聞き耳を立ててしまう自分が寂しい。
1人を堪能するフリをして唐揚げを掲げてコートを背景に写真を撮ったら、企画が終わったコートで選手がアップを始めていた。
チームウェアのままボール出しをしている兄貴にメッセージも付けずに写真を送信してみる。
目の前にいる本人に送られた無言のメッセージは、ロッカーの中でひっそりと受信され帰宅前に発見されるだろう。
少し遅れてコートに合流したチームメイトのリキが兄貴の側に行き、受け取ったボールを腰に抱えて話し出した。
自然な流れで腰に触り、背中から広範囲に労るように撫でながら楽しそうに話す姿がエキシビジョンに大写しになり、会場が俄かに騒つく。
隣のカップルの女性が、恋人の肩にもたれた。
「2人は惹かれ合い、コートは薔薇に包まれる!」
「ちょ、クソダサのポエム!でも、お似合いよね」
勝利の瞬間を見届けて、俺はアリーナを出た。
風呂上がり、兄貴の返信に気づく。
『何かあった?』
欲しかった言葉に胸がギュッとする。
コートの2人が浮かんで今度はグリッと痛む。
『今から行っていい?』
『いいよ、おいで』
ルームウェアのまま少し迷って、下だけデニムに履き替えビーサンを引っ掛け、ガチャガチャと車のキーを鳴らしてアパートを出た。
「いらっしゃい」
出迎えた兄貴は帰ったばかりなのか、チームウェアのまま疲れた息を吐いて緩く笑う。
シャワーを浴びて帰ってきたのか髪の分け目が乱れていて、スッと指を走らせて整えると、髪の芯がまだしっとりしてシャンプーのにおいがした。
「慌てたのがバレた」
口元を覆い上目遣いではにかむまつ毛を見下ろすと、そんな顔をどこで覚えたんだ、とまた胸が痛む。
が、パジャマを用意して薄手のスウェットを脱いだバキバキの腹筋を見て今度は肩を落とす。
俺も体動かさないとな。
「お風呂は?泊まってくだろ?」
「入った、泊まる」
「よし、このパジャマ着な!」
「いいよ、このまま寝るし」
どうやら俺が泊まることを見越して自分のものと一緒に持ってきていたらしい。
ふくみ顔で俺にパジャマを広げて見せ、話し出す前にもう笑ってしまっている。
「ふふふ!あのね、これ肌触りがいいんだよ」
サイズ表記が2XL。
兄貴はXL。
それはそもそも誰に買ったんですか?
「このサイズなら、みつもちょうどいいよね?」
チリチリする、きな臭い。
嫉妬?
嫌な気持ちが胃を押し上げる。
どこまでいっても理想の人で居座る兄貴が悪いんだ。
いっそこのまま奪ってやろうか!
とかな、ないんだよなぁ。
上半身の裸を見ても兄貴は兄貴で性欲など微塵も湧かない。
仕草や言葉は全て俺の下半身を刺激するのに、ビジュアルはマッチョなアスリート。
強いて言うなら、俺よりは小柄でいてくれるのが救い。
「胸筋育ちましたね・・・」
「分かる?俺は胸の位置が低いから分かりにくいけど、満にね、隠れ巨乳って言われたんだよ」
「へぇ」
「触って?」
はい、アスリートあるある筋肉自慢。
「いえ、結構です」
「遠慮なく」
「いいって!姉ちゃんだったら触ってもいいけどなぁ」
「それは道徳としてどうかな、俺は構わないけど。神様もなんて言うかな?」
「・・・」
「バレなきゃいいか。例えば10月なら神様お留守だね?」
「残念、今11月だわ」
バカ言ってないで早く着ろよ!って言いながら、そんなに言うなら大胸筋に触ってやろうと手を伸ばす。
「!!」
皆んな落ち着いて聞いてくれ。
兄貴が姉貴になっている。
大事だけど緊急事態だから一度しか言わねぇ、俺はまだおっぱいに触ってない。
ギリギリで止まった。
掌に体温は感じたけど。
「兄貴?」
脱いだ上半身を露わにしたまま、兄貴は何が起きたのか把握しきれずリビングを見渡していた。
190㎝の身長から一気に縮んで160㎝くらいだろうか。
俺の鳩尾あたりに顔があり、視線の高さの急変に気を取られて自分の姿に気がついていないようだ。
「床が抜けたのか?」
「・・・んな訳ないだろ」
「家の座高が伸びたんだな」
「ホーンテッドマンションか?」
現実的に考えろよと言いかけて、目の前の兄貴の姿と兄貴の発言、どっちが現実的か?と考えたら、発言に軍配が上がる。
驚くよな、だって驚くほどに。
理想の女性だった。
上裸で首一杯に俺を見上げる切れ長の目が、現状の把握に悩んで揺れている。
落ち着こうと深く吸って吐いた息に、たわわな乳房が重そうに上下して、バキバキのシックスパックの代わりに、少しふくよかな腹の肉が練習着のジャージの上に羽二重餅みたいに柔らかくのっていた。
「兄貴、胸・・・」
「胸?」
俺の声にやっと視線を落とし、胸を見て、俺を見て、胸を見て。
やっぱり俺を見る。
「パンプアッ「言わせねぇよ?!んな訳ねぇだろ!何カップだよ!」
「知らない。明日午前中オフだから測ってくる」
「違う、そうじゃない!!」
腰を折ってパジャマを羽織らせた。
震える指でボタンを閉じるがXLはさすがにずれ落ち、咄嗟に肩を掴んだら鍛え上げられた三角筋の片鱗もなく骨に触った。
手が震えそうになって、息をついて肩から力を抜く。
「男子バスケから女子バスケになる場合、トライアウトから始めないといけないのかな?」
「受け入れるの早い上にもう先の事考えてるのすごいな」
なんで俺の方が不安なんだよ。
「なんだよこれ現実?」
「夢?」
「確認しよう!兄貴、俺のこと殴って」
「分かった。しゃがんでくれ」
ん?
それって顔面いくんですか?
と、思いながら言われるがままにしゃがんだ俺の前に可愛い兄貴の華奢な胴体。
「隠れ巨乳」の文字がチラつく俺の前で、本気の右手の振りかぶりに引っ張られた布地が体に張り付いた。
「舌を噛む。歯ぁ食いしばれ」
それに伴って目の前に柔らかい丸みと、少し下にツンと布を引っ張る・・・生乳よりもこれはこれで・・・
ごっつぁんです。
バチッ!!
小さな拳が頬に食い込む。
力は弱くても体の使い方を熟知したアスリートの腰の入った一撃は、想像以上に重い綺麗な右ストレート。
しかも当たる面が小さいから力が凝縮されて絶妙に痛い。
「・・ッ、夢じゃないかぁ」
「そう都合よくいかないものだ」
その都合はどっちがどうなんだ?
拳をさすりながら兄貴はすとんと下も脱ぎ、前が余ったボクサーパンツを見つめてそっと中を覗いた。
童貞の俺には刺激が強すぎる。
目を逸らしている間に下も履いて「そうだ、大切なことを忘れていた」と、寝室に走っていく。
その裸足の足音まで華奢で、俺はやっぱり今夜は帰ろうかと怖気付いた。
「みつ。早いけど誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう」
嬉しいけど、もっと大切なものあるだろ!とツッコミながら手を伸ばすと、同時に恒例のネタバレ。
「仕事用の鞄」
「おぉ、人生で一度くらい中身にドキドキさせろよ」
中にはブランドロゴの巾着に入った鞄がラッピング無しで入っていて嬉しい反面、絵に描いたようにガクっとする。
「1秒でも早く持てる様にプレゼント包装をはぶいてある」
「はぁ・・・エコだし地球も俺も嬉しいよ」
ほらほら早く!と鞄を俺に持たせて少し離れてむぎゅっと胸を潰して腕を組む。
「みつは惚れ惚れするほどいい男だ」
結局、家族以上の恋人や伴侶はいない気がする。
それが同性でも異性でも、生まれた時から当たり前に自分を受け入れてくれて、程よい鬱陶しさでいてくれる。
こんなに理想の女が目の前に現れる奇跡を体験してしまったら、俺はもう一生童貞でいるしかなくなった。
少し早い誕生日プレゼントとして今夜だけは理想の女性を独り占めしよう。
「女性の下着ちょっと買ってみたかったんだよ」
揃いのパジャマで寝室に入り突拍子もない発言に呆れながら先にベットに座ったら、立ってる兄貴とちょうど目線が合った。
「結局、好奇心が勝つのかよ」
「いや、どちらかというと、負けてるかな」
手を後ろで組んで少し内股で体を揺する、体のラインが露わになって、俺の視線が彷徨うと、コラ!と言うように小さな足がきゅっと俺の爪先を踏んだ。
「俺がリキといる本当の理由、みつに教えてあげる」
俺の足の間に小さな柔らかい体を割り入れて、するっと細い指先が体をなぞって鼠蹊部に止まる。
「俺の理想のひと、みつなの。でもそんなの許されないだろ?だから近い人を選んだ」
「からかうなって、今の兄貴の姿だとシャレになんない」
「からかってない」
するりとパジャマの下を脱ぎ、大きめの上着の裾を残して下半身を隠してボクサーパンツを脱いだ。
小さい頃から何度も見ているただの男物の下着が恐ろしいくらいにふしだらに見えて、唾を飲む。
顔を寄せ、ゆっくり動く唇が俺を都合良く嗜めていく。
「触って?お姉ちゃんだったらいいんだよね?」
俺の手をとり、白く柔らかい太ももに指を食い込ませながら裾の中に誘う。
じっとりするのは俺の手汗か、それとも・・・
「本当は少し怖い、でも」
目が覚めて何もかも戻ってたら事実は無くなり、甘く蕩けて真実は2人だけのものになる。
舌にのせて、唾液に混ぜて飲み下し、白々と生きても罪はない。
負けてしまっても、誰も知らないのだ。
「みつになら全部あげても
「いいよ?」・・・って言ってくれる女体化エロ同人どこかにありませんかぁああ!!」
1人ぶつぶつと妄想を呟いていた充時の突然の雄叫びに、隣の部屋の住人がドンっ!!と壁を叩いた。
側で寝そべってゲームをしていたリキはついにコントローラーを投げる。
「あってたまるか!!」
追求編・終わり?
▶️「理想を追求しない」*コメディです
「なぁリキ、兄貴とエッチした?」
何気ない会話に混ぜたこの一言は、創作のネタ探しも兼ねた生存確認だ。
「ちょ、ほ、報告の義務とかないだろ?!何でもいいじゃん!」
第一声が裏返った、怪しい。
ここからは誘導尋問に切り替える。
「あの人結構我慢するから気を遣ってやってくれよ」
「う〜ん。コンディションもあるけど、ケツに異物感残って感覚おかしくなるんだよ、焦ったわぁ」
リキは自分の肘の下で潰れていたビーズクッションを持つと、気を紛らわせるようにポンっと見慣れたフォームで弾き上げた。
それを見ながら俺の心は春の光に包まれる。
リキの話ぶりだと兄貴はまだ純潔を守っているという事が垣間見えた。
このゴツい2m超えの男を抱く兄貴の勇気に感服するよりも、安堵の息が漏れすぎて肺が一回りしぼんだ。
俺の兄貴はまだ純潔だ。
二つの意味で純なケツだ。
クッションをキャッチしたリキは、徐に真ん中をギュッと摘んで尻の様な割れ目を作り、ズボッと指を入れる。
「フォームはいつも通りだけど微妙に弾道が左に逸れてさ、リングからこぼれんの」
そして指でグリッと左をかいた。
童貞にはその仕草が生々しすぎて、自分から聞いたくせに無責任に、へぇ?っと白々しい声だけ発して視線を逸らす。
タイミング良くスマホが光り、自然な流れで手に取る。
母さんからのLINEだ。
今日は11月22日、結婚記念日だから旅行にいってんだっけ。
「無意識がケツの異物感に取られんの、なぜか左」
「はは!左寄りなんじゃね?」
「そうか、俺が左寄りだからか!」
適当を言いながら俺は片手でLINEを開いた。簡単なメッセージと大きな吊り橋の上で撮ったヘッピリ腰の父さんの写真に安心感も相待って口元がほぐれる。
今日は同時に俺の誕生日でもあり、毎年我が家では1番「おめでとう」の言葉とプレゼントが行き交う日なのだ。
「それおもろい!有時さんにLINEしよ」
「ついでに東京ばな奈買ってきてもらえよ、東京の巴先輩のとこ行ってんだろ?」
なんて俺も下ネタをかぶせて笑っていたが。
待て。
『俺が左寄りだから』っつったよな?
お前、それって。
「あのさ、ミドウィークの兄貴コンディション調整のリリース、あれってもしかして」
「あれは右手の親指の痛み・・・です」
リキの視線が天井を向いた。
待て待て待て、雲行きが怪しい。
「言っとくけど!有時さん週末の試合に向けて調整に入ってたから、水曜日はマジでチーム帯同だけだったんだからな!」
雲行きが怪しいのに俺は丸腰、折り畳み傘もない。
「体の負担は大丈夫だった、はず!
でも、なんか様子おかしいから聞いたら、まだちょっとお尻に感覚が残っててって眉しかめられて・・・反省してる!」
土砂降りだ・・・
俺の絶望に引っ張られるように、隣でリキが突っ伏し猛省し始める。
「みんな親指の痛みだって心配しててさ・・・HCとチームとブースターに土下座しかけた」
そして2人とも床に倒れて動けなくなった。
「充時さぁ・・・棒倒ししたことある?」
「・・・砂山に棒刺して倒さずに砂を取っていくやつ?」
「それ。俺さぁ、きっと有時さんとの初体験は棒倒しみたいにじわじわしていくもんだと思ってた」
「へぇ」
「でも黒ひげ危機一発だった」
「ごめん、ちょっとよく分からない」
リキは両足を抱えて出来るだけ小さくなろうと爪先まで力を込めて丸まった。
「お互い男は初めてだし、こんな仕事だから体を最優先させるし、バイウィークまで最後までするエッチは我慢!って暗黙の了解があったのよ。
その間に期待値上がるじゃん?憧れの人の初めて奪うんだぞ、膨らんできちゃって」
肘枕で話を聞く俺の胸にリキはくしゃくしゃの癖毛の頭を擦りつけ、ふうっと息を吐いた。
「でも有時さん、手練れだった、何度か男と寝てる」
俺は耳を疑うどころか引きちぎりかけた!
「てめぇ!俺の兄貴が節操無しだっていうのか?!」
「ちょ、毎度ながら声デカい!」
「聞いたのか?確認したのか?適当ブッこいてたら眉毛抜くぞ!」
リキが慌てて眉毛を両手で覆ったのを見て確認を怠った事に苛立ち、勢いで馬乗りになりながら毛抜きを探す。
「だって、スゲェ手慣れてた!体位が玄人だった!あっちゅう間に絞りとられた!」
「はぁん?素人童貞みたいなことを言って逃げ仰せると思なよ!!毛抜き見当たらん!食いちぎってやる!」
「ちょちょ、食いちぎる前に教えて!素人童貞て何?」
「フーゾクしか経験ない奴」
あぁ、なるほど。といったん2人で熱が下がる。
「有時さん、夜の仕事してた?」
「あのバスケ馬鹿にそんな隙あったら俺が入りたいわ」
「ハイ俺も!もう一回入りたい!」
「挙手すんな、生々しい」
挙げた右掌に向かってビーズクッションを投げつけると、リキはバシッとすかさず掴んで起き上がり、胡座をかいて胃の辺りをさする。
昔から何か困ったりストレスを感じるとリキはすぐにお腹に触る。
「もう一回って。お前猜疑心とかないのか?嫌じゃないのかよ。女性経験は置いといて、男だぞ?」
「サイギ・・・難しいことわかんねぇけど、あぁ捨てたんだなぁって思った」
「まぁヴァージン捨てたわな」
「ううん、俺の理想の恋人像」
リキの答えに狐が落ちた。
「試合続きでだいぶご無沙汰だったのもあるけど、なんか落ち着けない前日あんじゃん?そんな日は絶対に遠征先の部屋に来てイロイロしても許してくれるの。
だから頭に過ぎるわけ「明日試合出ないよな?じゃあ、いれちゃっても良いんじゃないかな」って」
試合前にスッキリしたい派とそうでない派がいるのは事実。
これもパワーの一つとして残す人、すっきりしてリラックスしたい人がいてリキは後者。
彼女がいた時は前日だって普通にしていたし、女性とだってソコでするプレイもある。
リキは暗黙を破ったが、案の定拒まれる。だがこの日は引かなかった。
「だってエッチ、したかったんだもん」
俺はクラクラした。
素直さに後頭部を殴られ、頭を必死に振ると迷った兄貴の顔がありありと浮かんだ。
俺ですらフラつく素直さを可愛い恋人に言われた兄貴は、両手を額に充てて唸った。
ちらっと時計を見上げるともう夜の11時。
「コンドームある?」の質問に頷くと、風呂を沸かしながら入念にストレッチをし、張りの無い声で振り返ると「気持ちいいのは体だけだよ」と言った。
その一言が理解出来ず、リキはとりあえず空返事を返す。
リキの理想のウブな人を演じきって初夜を迎える事も兄貴の器用さなら出来たはずだ。
長期の休みに好きな人を喜ばせるためのおもてなしも考えていたかもしれない。
だが、
兄貴は被っていた理想という名の猫を脱ぎ捨て、女豹になった。
結果、猫科である事しか救いはなかった。
「3分持ったかな、俺・・・もう良すぎてぐったりしながら賢者タイム抜けてきたら、すごい胃がムカムカしたの。
今までおヘソ触っただけで恥ずかしそうにしてたのなんだったの?って」
裏切られたと思うリキの隣で兄貴はじっと横顔を見て「今日はキスしないの?」と、不安で目を伏せた。
いつもなら可愛いその仕草がいじらしくて吐き気がする。
最善を尽くしてくれた相手に失礼だが、裏切られた自分の気持ちが辛くて億劫になる。
あんた、そんな顔して何人と寝たんだよ。
今更そんな不安・・・?
ひょっとして俺が離れていくのが不安で気をひいてる?
有時さんそんなに俺が好きなんだ!
「よく考えたら、初めてじゃないからすんなりエッチ出来たし、痛い思いさせないで済んでるの。元カレに礼言いたくなった」
こいつはバカで言葉を知らないけど、その分シンプルに物事を捉える。
なんでもかんでも詰め込んで考えて着膨れる俺や、色んな仮説を考えて検証しようとする付属品の多い兄貴と違い、スパッと脱ぎ捨てて裸一貫で仁王立ちする男らしさがある。
俺はリキのそう言うところが好きだから、きっと兄貴もそうなんだと思う。
リキは夢中でキスして抱きしめ、しつこくしすぎて逆に逃げられたが、少し離れて髪を撫でるとそのまま寝てしまった。
いつもなら自分が寝るまで起きてる兄貴が、口半開きで懐で寝息を立てている。
理想ってなんだろう。
現実はこんなにだらしなくて愛おしいのに。
そう言ってリキはお腹をさするのをやめた。
「ありえん!何食ったらそんなポジティブになれんの?この海のどこかにポジポジの実とかある?」
「んなもん探さないで充時は恋愛しろよ!」
「はぁ?理想が現実を上回るなんてある?」
「う〜ん、理想が高いのも良いことだとは思う、選択肢増えるし。
でもそうなると判断ミスるのビビって決めきれないし、ちょっとでも違うと落ち込んで嫌になる」
「捨てるが良し?」
「Yes、捨てるが良し!」
完璧を求めるな、程よく捨てろ。
リキの目がそう言っている。
それが出来ないから俺は童貞なんだけど!とちょっと抵抗するけど、し切れない自分もいる。
「つか、充時さっきからLINEの通知スゲェけど大丈夫?」
話し込んでいるうちに何故か通知が30件を超えていた。
「こわ!バスケ関連だわ・・・祝儀袋用意しとけ?」
添付されてたリンクを開けると、巴先輩のSNSアカウントだった。
1時間前に写真が複数枚投稿されていて、景色の映り込みに見覚えがある。
母さんのLINEに添付されてた吊り橋と同じで、巴先輩も親御さんを連れて同じ祖谷渓にいるようだ。
て事は兄貴も徳島にいる?
最後は巴さんのご両親と談笑する兄貴の動画、そしてキャプションには意味深の言葉。
『同行してくれてありがとう、一生大切にします』
俺とリキは走馬灯のように色々悟った。
「ななな、なぁ有時さんの初めて、巴先輩?大学の同期で日本代表の常連で最高額年俸のバスケの天才 白瀬巴?」
「アアア、アトランティスで3シーズン一緒だった時かな?」
「はぁ〜ん?天才仕込みですか?そら手練れだわ」
俺は記憶の中の兄貴をコマ送りで思い返す。
「は!今更だが俺の童貞アンテナが反応している!大学時代から怪しい」
「おい充時ぃ!!遅ぇよ!そんなだから童貞なんだよぉ!むりぃ敵が強すぎるぅ・・・」
リキは「カウンターでKOだ!」と泣き出した。
でもどうかな?と俺は思う。
今のリキならただの強めの右ストレート、顎に入らなきゃ奇襲出来ると思うぜ?
追求しない・終了?
野暮書き
女体化、正直書いてみたかったから楽しかったけど、通報を恐れて色々と伏せて、渋々端折りました。
結局何もせんとゴロゴロしてただけの話です。
理想を捨てる方も大して何もしてない、だらだら小説。
タイトルの「アイドル」はidolの方です。
偶像、崇拝される人やもの、人気者。一般的に人が使う方のアイドル。
でも、名詞にひっついて使われるidleの意味もあります。
活動していない、遊んでいる、アイドルタイムなんかの意味も表します。
結局登場人物はたらたら話してるだけで何もしてませんからね。
どうでもいい人からするととてつもなく「なんのはなしですか?」案件。
理想や完璧を求めるのはとても素晴らしいけど、疲れちゃう。
「そうでないといけない」考えってとても危険でもある。
鬱になりやすい人の口癖に「〜であるべき」があるように、程よく捨ててしまうと選択肢が減って「まぁいいや」と呑気に過ごせるもんです。
劣等感も少し減るんちゃうかな、なんて思ってます。
読み逃しなしのマガジンもあるよ!
参加すれば勝手に名を連ねられ、クソダサいアイコンにおさめられ、親友くらいの距離感で私に詰め寄られます!
読みたいだけやねん!って方もぜひご登録ください!