ゾンビになった甥の推し活を押したい
=前回のあらすじ=
あのプロジェクトがついに始動する。
車椅子の甥っことBリーグ観戦に行くのだ!
安心してください、一度も書いてません。
水面下で1年温めていたプロジェクトなんです。
自称ゾンビの甥
甥は生まれつきの脳性麻痺、自閉、知能、さらに嘔吐症と情緒障がいに悩まされ、食事もままならなかった。
立ち上がるには立位台という装置に全身を固定し、コマでコロコロ移動する。
普段は座位保持装置に座って体を固定して、アニメや映画、MTVでミュージックビデオを見るのが好き。
まだ小脇に抱えれるサイズだった頃は日本全国津々浦々、一緒に旅をした。
自力で動けないのに無鉄砲で海に入りたがる。
車椅子で鳥取砂丘に挑んで蟻地獄になったり、バナナワニ園でワニと触れ合い、ディズニーハロウィンはウッディの仮装でパレードに参加。
好奇心とチャレンジ精神の塊だった。
でも今は身長も175㎝、25歳のお兄ちゃん。ちなみに知能は4歳児。
嘔吐症になって5〜6年の間、外食が難しいので大好きなおでかけもままならず、すっかり出不精の引っ込み思案になってしまった。
体が重く、動きものんびり、声も低くて引き笑いをするのでなんだか不思議な音が喉からする。
姉(母親)は大のゾンビ映画好き。
「最近息子がゾンビに見える」
と、ニヤリ。
確かにゾンビの知能はちょうど4歳児くらい、さらに甥は腕が上手く使えないので、攻撃する時に噛み付く。
ちょうどドラマの「ウォーキングデッド」にはまっていた甥は大爆笑!
でも絶対に他所様に噛み付いたりしない。
生粋のカッコつけなんで、家族と喧嘩をした時にしかしません。
うちのゾンビ君は八方美人なんだぜ。
支援学校を卒業後、作業所に通いだした。
そこで甥は運命の出会いをする。
レクリエーションの時間に観戦した「東京オリンピック2020」に心を攫われたのだ。
帰宅してからもテレビで追いかけ、パラリンピックも全競技を網羅した甥の結論は「男子バスケットボールがかっこいい」だった。
私は激しく血を感じた。
昨シーズンから甥を誘い、一緒にBリーグの公式戦を観戦してみると、甥は爛々とした。
あまりの集中で涎を垂らしながら、5時間も色んなチームの試合を見続け、様々な疑問を端から私にぶつる。
そして答えると一度で覚えた。
さらに私が2番目の姉と現地観戦に行っている事を知ると「僕も行きたい!」と何年ぶりかの好奇心を発動。
これはもう、無視できない。
家族みんなでゾンビネーション
私が介助人として甥と一緒に観戦に行くBリーグ観戦対策本部が速やかに設立された。
先に書いた甥の状態を読めば分かるように簡単に「よし、行くか」と言えない現実。
会場では車椅子のブースターさんも観戦を楽しんでいるが、私が見る限りコミニケーションも取れて身の回りのことが出来る方がほとんど。
甥は人当たりも良く施設でも人気者だが、言葉が不明瞭で自発に時間がかかり、コミニケーションが難しい。
さらに姉は「周りに迷惑をかけて私に負担がかからないか?嫌なこと、お節介なこと、人は障害者に対しての各々の思い込みを介助人にぶつける」
それを危惧した。
謙虚な姉心と心配な母心が入り混じった優しい言葉だ。
私は姉に伝えた。
どんな人間でも人混みで誰にも何にも迷惑をかけずに1日を過ごせる事はない。
だから迷惑をかけるかもしれない、と思って慎重に向かう私達の方が無意識の迷惑は少ないから大丈夫。
私も甥と出掛けて心無いことも言われた経験は腐る程あるが、本人が平気なら私も平気だ。
良くない事から守ってあげるのも大切やけど「人生を楽しむ権利」も守ってあげたい。
私は福祉がどうのや慈愛の精神はほぼないただの呑気な変態だ。
同時に変態でいれる心の強さと空気を読めない呑気なマイペースさを持ち合わせている。
だから現状、この子がバスケ自体に興味を無くす以外に、行かない選択肢はない。
最後に本人確認をする。
「本当に行くの?」
「行く!!」
甥の言動が変わった。
現地観戦は解説が入らないので、それでもゲームを楽しむために最低限のバスケのルールを覚え出した。
甥は意外にも人が集まりボールを奪い合うゴール下のディフェンス争いが好きで、質問に答えるのは大変だが、その辺もゾンビっぽいな、と思う。
よくゾンビが人の頭(脳みそ食べたい)を取り合うシーンを見るので。
担当の看護師さんに琉球ゴールデンキングスのブースターさんがいて「音はイヤーマフで、光は演出の時だけサングラスしよう」と助言してくれ、イヤーマフを購入。
沖縄のアリーナは音や光に過敏な人向けのブースも完備されているが、なかなか追いつかないのが現状。
出来る対策は個人ですればいい。
2番目の姉の協力で甥の推し選手ジョシュ・ホーキンソン選手の応援タオルを入手、10月の終わりに手元に届いた。
そして来る12月7日の大阪エヴェッサvs SR渋谷戦に挑む事になった。
甥の推しがアウェイの試合なので、奮発してアウェイ側の一階席をとった。
甥は2階席でもいいと言ったが、姉(母親)と看護師さんに「人生に一度かもしれんねや、いい思いしてこい!」と言われ承諾。
確かに一回で懲りる可能性は五分五分だ、それなら思いっきり肌で感じるのも良いこと、
これもまた経験。
準備は整った。
大人だから言わなかったけど、一言だけ子供じみたことを私は言いたい。
甥のためにとったこの席は、推しの筋肉見放題。
フリースローの時に美しい侑太郎さんの艶やかな上腕三頭筋を、私が1番好きな角度である正面から見れる好立地。
ゴール下でスクリーンを張る侑太郎さんのバスパンを押し上げる美しい大腿四頭筋も、リムを見上げる胸鎖乳突筋だって。
ですが、シーホース三河に在籍している侑太郎さんはそこにいません。
戦ってなんかいません。
三河とエヴェッサ戦は大阪遠征がないので大阪で私達が会うことはないでしょう。
助かりましたね、でも変態はその再来週のミッドウィークに三河に現れます、覚悟なさい。
当日は甥のサポートで完全に黒子になる。
私、ついに黒子のバスケになる。
でも、一回だけ言わせてください。