見出し画像

Gレコ第19話「ビーナスグローブの一団」の感想とイラスト

YoutubeでGレコの19話がアップされていたので感想を書いてみる

【吉田健一さんのtwitter上のつぶやきからあらすじを紹介する】

吉田健一さんのつぶやきにもある通り、第19話はモビルスーツ戦はひとまずお休みで「宇宙SFの回」です
船内でランニングしたり
ビーナスグローブやスコード教のタブーについてのメガファウナ、クレセントシップのクルーが語りあるシーンがあったり
船外活動で宇宙実習をやってみたり
Gレコ女子高生三人組が女子高生らしい会話をしたり・・・

御大の「宇宙のことを考えるってこんなに楽しんだよ」、って気持ちが溢れていて、ガンダムというよりは「Gレコ」そのものを体現する回ですね。吉田健一さんはGレコの作画監督なんですが、この回は徹夜でキャラクターのランニングウェアを描いたそう。富野監督の想いはスタッフにも伝わっているみたいですね。
まぁ、そんなわけで富野監督、吉田作画監督、携わったスタッフの想いが詰まった回で語り出すとキリがないわけですが・・・。私は「ベルリとアイーダの想い」という切り口で記事を書いていきたいと思います。大人が作り上げた箱庭の世界から一歩踏み出して、これまでの体験をもとに「自分の言葉」で世界を語り出した「ベルリとアイーダ」の姿が見える回です。

【ベルリの想い】

「姉さんに宇宙の夢というものを見て欲しいんです」

船外宇宙活動中にベルリとアイーダとビーナスグローブ艦長がやりとるするシーンがあるのですが、艦長が

地球圏が経済的に豊かになったのでフォトンバッテリーをめぐる争いが起こった

と語る艦長の言葉に「大人の理屈を持ち出すな」と反発したベルリ。「姉さんに宇宙の夢を見てほしい」という言葉はその一連の流れでベルリが発したものです。もちろん、「宇宙の夢」というのはベルリにも具体的に何かわかっているわけではない、わかっていないけど、それでも、「キャピタルタワーを中心としたGレコの経済・宗教システム」、つまり「大人たちの都合で作り上げられた世界」に対して、「何か違う」と感じたからこその言葉なんですね。その違和感は大人たちから教わった「知識」だけでなく、アイーダと出会ってメガファウナの一員として宇宙の果てまで旅したことで得た「知識」、「体験」から来ている。「これまで自分が得た知識では説明できない感覚」を大人の言葉じゃなく自分なりに表現しようとして、表現できないもどかしさが「宇宙の夢」というファンタジックな表現として現れているわけです。変なことを言っているのはベルリも重々承知しているわけです、ここで大切なのは「タブーを絶対視していた少年」が「タブーの先にあるものがもしかしたらあるのかもしれない」と感じるようになったことです。自分が体験したことのない感情、感覚に出会った時、不恰好でもいいから「自分なりの言葉で表現する」ってことは「自分の頭で世界を見る」ために必要なんですよね
で、その宇宙の夢というのはGレコ第一話で「世界は四角くない」と言い放ったアイーダなら、自分と違う価値観を持っている姉さんなら自分が感じたタブーの向こうの世界、「宇宙の夢」というのを見せてくれるかもしれない、とベルリが持つニュータイプ的な直感が働いたのかもしれないですね。

【アイーダの想い】

ここから向こうまで1キロあるなんてとても見えない・・
数字だけの感覚は数字だけだものな

宇宙船船外活動でアルケインからクレセントシップの距離について、自分の感覚と実際の距離が違うと実感した時に発した言葉。この後、インマイクで全部ベルリに聞かれていて慌てて取り繕うアイーダがとてもキュートでした。アイーダ役の嶋村さんの演技もナイスです
で、この言葉を発する前、クレッセントシップの船内でクルーと会話した時、あなたの言葉は自分の体験から出たものではい、と嗜められるシーンがあります

自分の体験から発した言葉ではないとはどういうことか、考え込んでしまうアイーダ。そんな彼女が宇宙空間に出て「リアルな宇宙の広さ」というを体感して「教わった知識」と「体感から得た感覚」のズレを意識するわけなんですよね。だから、ベルリに

私の父は間違っていたんですか?

と単刀直入に聞いてしまう。当然、ベルリにはそんなこと答えられるわけもなく

軍人さんとしては立派だと思います

と取り繕ってしまう。余談ですが、この取り繕い方もベルリが育ちが良くて頭が切れるってのを示していますね。アイーダの養父、グシオンの考えは明らかに「タブー」に反してGレコ世界の常識では「間違っている」、一方、ベルリもグシオンには窮地を助けれらたこともあり、「軍人」として恩義があるのも確か。そんな相反する想いをアイーダを傷つけることなく反射的に言葉にできる、ってところにモビルスーツのパイロットしてだけではなく、彼が間違いなくGレコ世界のエリートだってのが垣間見える。で、そんなエリートなベルリが普段見せる「取り繕った、本心を隠した」言葉ではなく、大人の理屈に怒りを覚え心の底から発した、「姉さんに宇宙の夢を見て貰いたいんです」という言葉。ベルリの本心が溢れた言葉に応えるよう、アイーダは「父や恋人から与えられた価値観」を行動の指針にするのではなく、自分が感じたこと、学んだこと、体験したことをベースに「世界を語る言葉を探す」ようになって行ったのだのだと思いますね。

【終わりに Git団はアイーダが辿ったはずのもう一つの未来】
今回、金星(ビーナスグローブ)の勢力であるGit団が出て来るわけですが、彼らは後の回でピアニカルータ(クンパ大佐)の思想に煽られて地球への帰還作戦(レコンギスタ)を実行するということが判明します。彼らは「レコンギスタ作戦」を実行することが正しいと信じて疑わない。ですが、「レコンギスタ」作戦が何を意味するのかをわかって実行しているわけではない。「数字だけの理解は数字だけ」という感覚を持っていない。その「頭でっかちの、理が先走った行動」はカーヒルが生きていた時の宇宙海賊をやっていた時のアイーダやメガファウナのクルーと同じなんですよね。カーヒルがキア、アイーダがクンと役割も被っているように見える。違うのはGit団にはベルリやノレドといった「異なる価値観を持った仲間」がいない、ということですね。異なる価値観を持ったクルーと交流し、「大人たちが作った世界」から一歩外に出て自分の言葉で世界を語ろうともがいている「アイーダとベルリ」、「他人が作った思想」に陶酔して「他人の言葉」でことを起こすGit団の面々。「自分の言葉で世界を語る人たち」と「他人の言葉で世界を語る人たち」のコンストラクトがGレコ後半の主要なテーマになってくることを感じさせる話ですね。

いいなと思ったら応援しよう!