大学の存在意義の変化と、卒業生活性化に力を入れるべき、寄付金集め以外のもう1つの理由
みなさん、こんにちは。
アルムナイネットワークの活性化を専門にしている笑屋株式会社の真田です。
2022年も宜しくお願いいたします。
これまで、大学の校友・社会連携領域にて様々なリサーチやクライアントワークに従事してきましたが、国立・私立問わず寄付金集めに関する施策やリソースは年々増えてきている実感があります。
この背景には、少子化や留学生獲得競争の激化、政府からの交付金(補助金)削減など大学が抱える財政面の将来不安があるからだと思います。
更に、この課題に追い討ちをかけるように発生したのがパンデミックによる社会変化であり、キャンパス閉鎖やオンライン学習など多くのイシューや価値観が浮上し、大学の存在意義自体が急速に変化していると感じています。
数年前まではほとんど聞くことがなかった「大学って行った方がいいの?」「行く意味ってあるの?」という問いは、大学の根幹を揺るがしかねない大きな問題提起であり、いま起きている変化に追いつけない大学や独自性のない大学は、新規学生が集まらなくなり、数年で立ち行かなくなる可能性が高いでしょう。
この記事では、大学に起きている変化をまとめながら、その中で弊社が専門とするアルムナイネットワークが果たすべき役割について、書きたいと思います。
大学の提供価値 (存在意義) のこれまでとこれから
大学が学生に提供している価値は多々あると思いますが、主なファンクションとしては下記4つに分類できます。
まずは、これらの価値がそれぞれ今後どうなっていくかを考察したいと思います。
1. 卒業資格
これからの価値:△
日本には800弱の大学がありますが、明らかに供給過多な状況であり、大学への入学希望者総数が入学定員総数を下回る状況を迎える大学全入時代が既にきていると言われています。
上位大学は引き続き一定の入学難易度やブランドがある為、卒業資格が就職や人生にポジティブな影響を与えることはあると思いますが、専門性の低い大学や中堅以下の総合大学の卒業資格は価値が低下していくことが目に見えています。
また、終身雇用が崩壊し、ジョブ型雇用が推進されていくこれからの時代においては、偏差値・テストなど点数の高さや卒業自体の価値より「大学で何をやってきたのか」「何ができるのか」「これから何をやっていきたいのか」が重要になると言えるでしょう。
2. 教育
これからの価値:◯
インターネットとSNSの普及により、無料または安価な価格で世界中の優れた教育コンテンツへアクセスが可能になりました。
例えば、YouTubeの「Crash Course」は毎日500万回再生されていて、物理学や有機化学など、あらゆる分野の博士号を持つ講師の授業が視聴できますし、Udemyを使えば、学生は数千円程度でプログラミングからプレゼンスキルまで幅広いスキル習得が可能です。
また、コロナ禍で学習のパーソナライズなどエドテック領域の進化スピードも上がってきており、大学や専門学校など高等教育機関で学習する必要性は薄くなってきていると感じます。
これからの大学教育は、コンテンツで差別化することはほぼ不可能であり、コホート型と言われるコミュニティ主導の学習や、討論・ディスカッションを中心としたカリキュラムの重要性が増すでしょう。
教員には高いファシリテーション能力やフィードバック能力が求められることになり、教員に必要なコンピテンシーも変わっていくはずです。
下記の記事は、オンライン教育の覇権がコンテンツからコホートに変わっていっている話が書かれています。
2014年9月に開校された、キャンパスを持たず世界中を旅しながら学ぶことができるミネルバ大学をご存知でしょうか?
この大学は、各都市の現地企業や行政機関と協働プロジェクトに取り組めるなど実践的なカリキュラムを重視しており、世界中のエリートから応募が殺到し、現在の最難関大学と注目を集めています。
3. ネットワーキング・コミュニティ
これからの価値:◎
大学へ行く目的が「とりあえず卒業すれば良い」「ペーパーテスト的な学力をあげる」ことから「自分の本当にやりたいことを見つける」「社会やビジネス現場で通用する実践的なスキルや経験を身につける」ことにシフトしていることを考えると、ネットワークやコミュニティの価値は非常に大きいと言えます。
様々なコミュニティで、プロジェクトの推進・コミュニティへの貢献・仲間やメンターとの出会いを重ねていくことで、視野が広がり、やりたいことが見つかり、やりたいことの具体化を進められ、自分自身の人生の目的をブラッシュアップすることができるでしょう。
大学側は国籍や専門性を超えた多様性の高いコミュニティをいくつも用意し、出入りがしやすく、またコミュニティ自体に新陳代謝が起きるような仕掛けを提供できるかがポイントになると思います。
また、大学生活を通じて生涯にわたるパートナーや交友関係を得られることもありますが、この出会いが人生の幸福度に関わるとても大きな機会であることは言うまでもありません。
4. 設備
これからの価値:◯
コロナ禍でキャンパス閉鎖やオンラインによる授業やテストが広まり、オンラインに代替されるべき機能は明らかになってきましたが、快適な学習環境やネットワーキングのしやすさ、コミュニティを強くする為のリアルな場としてキャンパスは引き続き重要だと思います。
ただし、VRを活用したバーチャルキャンパスの発展によっては、弱まっていく可能性はあるかもしれません。
一方、DXやテクノロジー活用も忘れてはいけない設備投資の一環であり、土地や建物など物理的な設備以外の投資を増やしていく議論が必要だと思います。
MITでは既にブロックチェーン技術を活用した卒業証書発行を行っていますが、テクノロジーの力でより透明性や公平性の高いシステムの構築ができる機運が高まってきています。
また別観点になりますが、研究・スポーツ・音楽・エンタメ領域など固有な設備投資が大きいことは独自性に繋がる可能性がある為、敢えて領域を絞って設備投資していくことの価値は変わらない、または大きくなるでしょう。
これからの大学に必要なこと
4つの価値に対するポイントを下記にまとめました。
場所と偏差値だけで何となく大学を選んだり、何が身に付く大学なのかよく分からないままたくさんの大学をとりあえず受験するようなスタイルは近い将来なくなっていくでしょう。
これからの大学経営では、下記4点を意識する必要があると思います。
学生に対するバリュープロポジションを改めて考えること
座学ではなく実践的なカリキュラムを中心にすること
教育やネットワーキングにコミュニティの要素を取り入れること
テクノロジーを積極的に活用すること
特に1が重要で、場所や偏差値ベースではない自学のポジショニングを改めて定め直すことが肝要です。
また、今回は詳しく触れませんが、大学自体のビジネスモデルを変えることも検討余地はあると思います。
日本の大学に限った問題でないですが、高過ぎる学費を賄う為に半数近くの学生がローン (奨学金) を組んでいる現状は異常に感じます。
広大なキャンパスや多くの教職員が不要な大学もあると思いますし、プライシングや経営リソースの配分にもっと色々な選択肢が出てくる方が学生側も幸せになると思います。
↑ 最近話題のWeb3/DAO文脈でも、大学はベストなモデルケースの1つと言っている人がいます。
大学基金の運用収益が低い日本の大学には現時点では当てはまらないかもしれませんが、発想は面白いと思います。
アルムナイネットワークが果たす役割
これからの大学経営において、弊社が行っている卒業生活性化領域が果たす役割は大きいと考えています。
大学側は、校友課や社会連携室などと呼ばれる部署や校友会という団体が該当し、卒業生向けに情報発信・イベント企画・データベース管理などを行っています。
現在、この領域においても従来型の卒業生への一方的なコミュニケーションから、コミュニティを通じた双方向コミュニケーションへと徐々に変化しており、在学生と卒業生のコミュニティ間交流を行う事例も出てきています。 (下記は早稲田大学の事例)
在学生⇄卒業生間で交流が生まれることで、下記のような価値を在学生へ提供することができます。
やりたいことの視野を広げ、専門分野を追求する為に、卒業生の知見やネットワークが役立つ
社会やビジネス現場と繋がる機会が増え、実践的なスキルや経験を身につけることに役立つ
卒業後もアルムナイネットワークを活用することで、キャリア形成に役立つ
つまり、アルムナイネットワークが活性化していることが大学の価値向上に繋がるようになります。
弊社では、アルムナイプラットフォームの開発から、コミュニティ設計やイベント企画など活性化までトータルにこの領域を追求しています。
まだまだ課題は多いですが、大学・在学生だけでなく卒業生にとっても価値がある体験を作っていきたいと考えています。
利用したい方や一緒に作っていきたい方は、ぜひご連絡ください!
さいごに
お読みいただき、ありがとうございました。
世の中が早いスピードで変わり続ける中で、企業の場合はドラスティックな方針変更や買収・統合は当たり前で、変化に対応できなければ生き延びることはできません。
大学というシステムは大きく変わることなくここまで来ましたが、奇しくも今回のパンデミックを機に、大変革時代に入っていくのだと思います。
将来的な国力を支える、またグローバルに活躍できる人材を増やす為にも「未来の大学」に対する議論、そして変化が大きくなることを願っています。
※ この記事は、笑屋株式会社が運営するAlumni-Social Labにも寄稿しています。