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古今東西刑事映画レビューその8:ハリウッド的殺人事件

2011年から2015年の間、知人の編集する業界誌に寄稿していた刑事物映画のレビューを編集・再掲します。

2003年/アメリカ
監督:ロン・シェルトン
出演:ハリソン・フォード(ジョー・ギャヴィラン)
   ジョシュ・ハートネット(K・C・コールデン)

 「バディもの」と言う言葉がある。主人公が二人一組で活躍する物語のことだ。これは創作における一つの定型と言って差し支え無く、映画だけでは無くて、ドラマや小説、コミックやアニメーションなど、ありとあらゆる「おはなし」の中にバディを組んだ男たち(時には女たち)は存在している。
 ここ数年、国内でヒットした「バディもの」と言えば、ドラマ“相棒”だろうか。水谷豊演じる右京さんの相棒は何回か変わったけれども、それは長寿番組の宿命とでも言うべきものだろう。ドラマのキモはタイトル通り、彼らがバディを組んで事件解決に当たると言うところで、そこはぶれていない。
 “相棒”の場合は、沈着冷静な登場人物・Aと、熱血漢のB、と言うギャップのあるキャラクター作りが受けたのが、ヒットの第一の理由であろう。キャラクターが立っているバディものは、比較的人気が出やすく物語のネタも出しやすいので、結果長寿番組になる傾向があるように見受けられる。なつかしの“あぶない刑事”シリーズしかり、海外ドラマ“X-ファイル”しかり。近年の海外作品ならば“スーパーナチュラル”もそうだ。この辺が、時代を問わず「バディもの」が製作され続ける理由ではないだろうか。
 さて、今回ご紹介する“ハリウッド的殺人事件”だ。タイトルどおり、舞台は映画の都・ハリウッド。西海岸の陽光がさんさんと降り注ぐこの街で起きた2件の殺人事件をめぐる、刑事もののバディ・ムービーである。
 この映画に登場するバディは、両人に共通したとある「事情」を抱えている。二人とも刑事と言う本業のほかに、副業を持っているのだ。とは言え、脚本を担当したロバート・ソウザによると、合衆国の刑事が副業を持つのはそんなに珍しいことではないらしい。大方の刑事は、経験を生かして探偵業などを営むらしいのだが、この映画の二人は一味変わっている。
 ハリソン・フォードが演じるジョーの副業は不動産業だ。ただし、肝心の業績は芳しくなく、自家用車のローンの返済も滞り気味。相棒のK・C(演じているのはジョシュ・ハートネットである)の副業は自宅でのヨガ教室。こちらの客入りは上々で、ハリウッドという土地柄だろうか、生徒の女性たちはみな美しく、彼女たちとプライベートを共にすることもしばしばあるようだ。
 ジョーと比べるとK・Cがあまりに恵まれた状況に置かれているように見えるが、彼は彼で俳優への志を捨てられず、本業に情熱を傾けられないでいる。
 そんなわけで、ジョーにもK・Cにもそれぞれ副業に邁進する理由がある。殺人現場で証拠探しをしているときも、重要参考人を追いかけてハリウッド中を走り回っているときも、副業のクライアントから掛かってきた電話には、彼らは何があろうとも必ず出る。緊迫した雰囲気をぶち壊すような、二人の携帯電話から流れるお気楽な着信メロディと、電話に出た二人がまくし立てる「物件」とか「お値引き」とか「脚本」とかの文言。このムードが、本作の全体観を表現していると言ってもいい。
 刑事物として不可欠な、謎解きであったり、ふてぶてしい悪者であったりと言う要素、それはそれできっちりと押さえている。特に終盤のアクションシーンは30分以上にも及ぶボリュームだが、場面や小道具を巧みにスイッチさせているので、中だるみを感じない。ダイナミックなカーチェイスは、同じLA市警の破天荒な刑事の活躍を描いた名作“フレンチ・コネクション(’71)”を思い出させる。そんな本格的な映画作りをしつつも、その他のシーンでは徹底的に「ユルい」。これが本作の面白さであると思う。自宅でブランデーを嗜みながら、オールディーズに合わせ弛緩しきった表情で、ひとりチークダンスを踊るハリソン・フォード……。そんな名優の姿を観ることが出来るのは、きっとこの映画だけだろう。それもこれも、映画としての骨格がしっかりしているから。基礎が出来ているからこそ応用も効果的、と言う言葉を体現しているような作品である。
 そしてバディ同士のバランスも良い。年齢差のある二人だが、お互い実にフラットでカジュアルな関係。丁々発止のやり取りも笑いを誘う。両人ともキャラが立っており、続編の製作にも耐えうるバディなのではないかと個人的には思う。残念ながら、その予定は無いようだが……。
 息もつかせぬサスペンス&アクション、と言った作品を多く取り上げてきた小欄がご紹介する作品としては、初めてのコメディ映画。休日の午後あたりに、ビール片手に、ソファに寝そべりながらご覧いただく、と言う鑑賞スタイルをお勧めしたい。
 もしかしたら酔いに誘われて、途中でウトウトしてしまいかもしれない。でも、まあ、それも良いか。……と言うくらいのスタンスで。画面の前で正座して展開に一喜一憂、なんてことをする必要は全く無い。それでも十分、楽しめる作品である。

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