古今東西刑事映画レビューその29:グランド・イリュージョン
2011年から2015年の間、知人の編集する業界誌に寄稿していた刑事物映画のレビューを編集・再掲します。
2013年/アメリカ
監督:ルイ・レテリエ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ(ダニエル・アトラス)
マーク・ラファロ(ディラン・ローズ)
モーガン・フリーマン(サディアス・ブラッドリー)
本稿を書くにあたって、マジックショーを最後に観たのはいつだろうか、と記憶の糸を手繰り寄せてみたのだが、思い当たらない。おそらくテレビの「笑点」で観たナポレオンズあたりではないかと思われるが、確証はない。ヘタをしたら小学生のころ毎週楽しみにしていたMr.マリックの番組まで遡ってしまうかもしれない。そのくらい、マジックショーに疎いまま大人になってしまった筆者だが、この“グランド・イリュージョン”を観て俄然マジックを目の前で観てみたくなった。そう、これはマジックの映画だ。
そしてまた、これは犯罪の映画でもある。プロフェッショナルの犯罪者が鮮やかな手腕でもって金品を掻っ攫っていく、そんな映画を「ケイパー・ムービー」と呼ぶが、本作もこのフォーマットを踏襲した作品なのだ。
獲物は、パリの銀行に眠る320万ユーロの札束。しかし犯人は、パリはおろかヨーロッパにすら足を踏み入れない。ラスベガスでの大マジックショー、マジシャンである彼らはその舞台に立ったまま、衆人環視の中で札束を盗み出すことを公言する。なんともワクワクするではないか。
こんな大胆不敵な犯罪を企てたのは、4人の若者だ。スライハンドマジシャンのダニエル、メンタリストのメリット(ウディ・アレルソン)、脱出アーティストのヘンリー(アイラ・フィッシャー)、プロのマジシャンを夢見るストリートハスラーのジャック(デイヴ・フランコ)。マジシャンとしては無名の存在だった彼らは、ある日、それぞれのもとに届けられたタロットカードに導かれ、出会う。
そしてその1年後、彼らは「フォー・ホースメン」と言うユニットを結成。エンターテインメントの殿堂・ラスベガスで、万雷の拍手に出迎えられる人気マジシャンとなっていた。そこで前段に出てきたような摩訶不思議な金庫破りをやってのけ、一夜にしてアメリカ中の話題をさらう。FBIは彼らを拘束したが、証拠不十分で釈放せざるを得なかった。
フォー・ホースメンを追うことになったのは、FBI捜査官のディラン・ローズと、インターポールから派遣されてきた女性捜査官、アルマ・ドレイ(メラニー・ロラン)。捜査に行き詰った彼らは、かつて自らもマジシャンであり、今はマジックのネタばらしサイトの運営で生計を立てる男・サディアス(モーガン・フリーマン)に助力を求めるが、自由の身となったマジシャンたちは、FBIとインターポールの捜査網をかいくぐり、ニュー・オリーンズ、ニューヨークでも次々とマジックを駆使した大犯罪を繰り返していく……。
ケイパー・ムービーでは、警察は損な役回りを担わされることが多い。「ルパン3世」の銭形警部のように、ファンからも愛され、見せ場まで作ってもらえるような存在になれたキャラクターは幸せで、多くは主人公たちの引き立て役で終わってしまい、顔も覚えてもらえない。だが、本作の警察官たちは、一味違う。時には犯人たちに先回りし、けれど出し抜かれ、それでも諦めず……主人公のマジシャンたちのライバルとして、魅力的に造形されている。マジシャン・元マジシャン・警察、と言う三つ巴の知恵比べの中で、どうしても一足遅れになってしまうが、彼らの動向を甘く見てはいけない。もし彼らの出演シーンを見逃したなら、真実は遠いものとなるだろう。
どの立場の人間にも見せ場がある。エンターテインメントな群像劇としての、この作品の魅力のひとつだ。そして何より、捜査官役の役者が豪華だ。“インクレディブル・ハルク(’08)”でも監督のルイ・レテリエとコラボレーションしているマーク・ラファロ。タランティーノの“イングロリアス・バスターズ(’09)”でハリウッドデビューを果たしたメラニー・ロラン。ロランは筆者も好きな女優で、最近また盛り上がりつつあるフランス美人女優のホープともいえる存在。カジュアルなパンツスタイルにトレンチコートを羽織っただけ、と言う出で立ちでも、スクリーンの中で美しさが際立っている。
監督のルイ・レテリエは、出身のフランスで“トランスポーター(’02)”“トランスポーター2(’05)”でアクション映画に才能を発揮し、ハリウッドでも“タイタンの戦い(‘10)”などの大型娯楽作品を手がけている。その手腕は本作でも十分に振るわれており、街そのものをキャンバスにするような、ダイナミックな作品作りは健在だ。今後の作品も楽しみな監督である。
本作の原題は「Now you see me」。マジシャンの定番のセリフで、これから消すものをお客の前でヒラヒラさせて「Now you see me… Now you see me…」なんて言ったりするそうである。日本語にすれば「見えますね?見えてますね?」と言う感じか。そこで指を鳴らした瞬間に、ハトやらバラやらを見事に消して、「Now you don’t!(さあ消えた!)」と言うのがお約束なんだそうだ。
観客に向けて、これからすごいものをお見せしますよ!と言う製作陣の意気込みが伝わってくるようなタイトルである。そして勿論、我々の期待は、裏切られることは無いだろう。