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意思の探検【Miracle Fanta詩 Ⅱ 332】
──ここは冬籠りのクジラ号、船内──
アストンは
意思の短剣の力で
ミナミたちを
別の場所へ転移させると
自分のやるべきことに目を向けた
いやぁ、悪いね。
そんなつもりなかったんだけど。
君を巻き添えにしちゃってさ。
──ダイヤモンドの少年、アストン
いいよ。
これがぼくの運命なんだろうね。
もう充分旅はしたし、
目的はもう果たしてるから。
──意思の短剣
声の無い会話を済ませたあと
ふたりはニガマトに埋め尽くされた
ここから火山はどのくらい?
──アストン
う〜ん、そうだなぁ…。
大体一日あれば着く距離だとは思うけど…。
──意思の短剣
今すぐ行けたりしないかな?
──アストン
いいよ、今すぐにでも着けるさ。
この船も一緒になるけど、いいかなぁ?
──意思の短剣
そうだよね。
今度はホントに街に落ちたら大変だ。
ねぇねぇ、その前に…
──アストン
アストンは
意思の短剣に
或るお願いをした
すると
アストンは
みるみるうちに巨大化し
天井が丸見えのクジラ号の
ブリキの板の裂け目から
黒ずくめの巨人が出てきた
クジラ号にとりついたニガマトは
すべてアストンの身体に移り
やがて岩肌へと変化した
アストンは肩に視線を落とすと
見覚えのある姿を見かけた
イースター!
こんなところに居たのか!
──アストン
ソンナコト言ッテ、スッカリ忘レテタクセニ。
──レドキュラのイースター
忘れることなど、あるもんか。
君のおかげで僕はみんなと
意思疎通が出来たんだから。
──アストン
ニガマトに取り込まれたきり
行方がわからなくなっていた
アストンの相棒、イースター
感動の再開とは程遠いが
お互いのこころの奥底で
欠けていた感覚が
取り戻されたようだった
イースターは以前のように
アストンの額に収まった
さぁさぁ、行こうか。
船の操縦は君に任せた。
──アストン
言われなくともそうするさ。
きみが祈れば、なんだって。
──意思の短剣
冬籠りのクジラ号は
活火山を目指して舵を切った
──ここはヤスメヤセン郊外の平原──
ミナミたちは
一瞬の出来事に
何が起こったか
状況を掴めずにいた
アストンは…、
どこへ行ったの…?
雑草くんも…、
一緒に居なくなっちゃったの?
──ヤスメヤセンの少女、ミナミ
ミナミは心配そうに辺りを見渡した
ウィードの意思号はというと
律儀に草原の上に乗っていた
しかし
雑草魂の魔法使いたちは
船内ではなく、船外にいた
オイラたち
船のなかに居たはずだよな…?
確かに魔道炉室に
居たはずなのに…。
一体何が起きたんだ….?
──紅いツナギのホッキョク
目つきの悪いホッキョクでさえ
目をまんまるくし驚いていた
イタタタ…。
やっぱこりゃあ、歩けないな…。
──発明家、ドブナガ
ドブナガは相も変わらず
地べたを這いつくばっていた
アイウェオは
久しぶりに踏む
地の感触を
小さくなった
身体で感じた
終わったの…?
これで、帰れるの…?
お家に帰って…、いいん…だよね…?
──ミナミ
ああ、終わったさ。
お前は自由だ。
生きるも死ぬも
好きにすればいい。
お前の故郷は
目の前に見えているだろう?
──ドラゴンの仔、アイウェオ
アイウェオは
喚く赤子を鎮めるように
ミナミへやさしく助言した
ミナミは
アイウェオの言葉を受けると
何歩か歩いて
背後を振り返った
これで…、さよならだね。
いろんなことがあったけど
なんでだろう…。
家に帰れる方が嬉しくてたまらない。
沢山、たくさん一緒に旅をしてきたのに…。
わたし、やっぱりこうゆう人間なんだね…。
自分でも、ちょっとだけ気味が悪いよ…。
──ミナミ
人間なんて、そんなもんだろ。
今に始まったこっちゃないさ!
──ホッキョク
ホッキョクは
ミナミの言葉を蹴散らすように
半ば投げやりに吐き捨てた
じゃあ…、行くね。
──ミナミ
身体には気をつけて。
──ドブナガ
ミナミはそれから
一度も振り向かず
故郷ヤスメヤセンへと
歩を進めたのだった
彼女の歩いた足跡は
露を纏った雑草が
踏まれてもなお
起き上がろうと
もがいていた
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