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溶け出す本音【Miracle Fanta詩 Ⅱ 330】
ウィードの意思号は
ニガマトに寄生された冬籠りのクジラ号のなかに
取り込まれてしまった
「真っ暗だ…。ここは…、ニガマトの中なのか…?」
「そのようね。どうにかして、脱出する方法を考えないと…」
「ごめん…、僕が操縦を誤ったばかりに…」
アストンは信じられないくらいに落ち込んでいた
「アストン、あなたのせいじゃないわ。わたしは操縦できたから、すぐに代わればよかったの。ごめんなさい。
ホッキョクも、わたしも、あなたがどれだけできるのか、見てみたかったのかも…」
「どれだけ?って、どういうこと…?
僕は…、自分の身体がなくなって…、それでも君を助けたかったから…、マダムネヴァも殺したし…、君のことだって、守ったのに…。
僕にはやっぱり…、居場所なんて…、ないんだ…」
「そ、そんな…!そういう意味じゃないの…!
違うの…!だから…、これは…」
「どう違うんだよ!言ってみろよ!」
アストンは柄にもなく激昂した
まるで
初めて出会った時のような
言いようのない狂気を孕んでいた
ミナミは
アストンに発した言葉に
答えられなかった
弱い自分が
アストンの身体に輝く
ダイヤモンドに映し出されているような感じがした
実際
ミナミは
アストンがもう一人の自分に見えていた
しかも
黒い樹皮鎧を纏っている状態の…
『ミナミ、そんなに慌てる必要はないよ。
困っているのなら、願えばいい。きみの願いはなんだい?
さぁ、願いを』
もはや
かつて一緒に冒険をした
意思の短剣のことも信じられなくなっていた
黒い樹皮鎧が出て
暴走してしまった原因も
彼女にはわからなかった
短剣を手に取ってから
おかしなことが頻繁に起こるようになった
短剣の所為ではないだろうか…
そんな疑念さえ浮かんできたのだった
「おい、二人とも、やめないか。
アストン、キミが叫びたい気持ち、ボクにはわかるぞ。
この変な旅団に出会うまで、地下でひとりぼっちだったし。
今だって、孤独に感じることはあるけど、この変な旅団のみんながいる」
アストンはドブナガを睨みつけた
しかし
ドブナガは
それに怯むことなく
床にへたり込みながらも
アストンの目をまっすぐに見つめた
「キミの行動は、間違ってなんかいない。
キミが選んで、選択したのだから。
少なくとも、ボクはキミのことを信じているよ」
アストンの鋭い眼光は
たちまち和らいでいった
「こんなこと言ったら、ミナミさんのことを信じていないみたいだけど、キミのことも信じているよ。
なんせ、このボクを発明家として見込んでくれたのだからね。
必要とされてるって、なかなか気持ちいいじゃいない?」
ミナミはドブナガの声を聞いて
少し冷静さを取りもどした
「みんなさ、目的があって、この変な旅団にいるんじゃないの?
一人じゃ達成できないから、みんなで一緒に行動しているんでしょ?
達成するまでは、仲良くしてよ、ボクは仲間内で喧嘩するのなんて見たくないんだよ」
ドブナガが
少し恥ずかしそうに言った
「わたし…なんでここにいるんだっけ…?
なんで、こんなことしてるんだっけ…。
わたし…、もうヤスメヤセンに帰りたい…。
お父さんとお母さんに会いたい…」
「はぁ〜、ボクの今の話、聞いてた?
帰りたいなら、ここから出なきゃ。
泣いてたって、ここがお墓になるだけなんだよ?
ちょっと残酷だけど、本当のことだから」
その時だった
何やらステーキの焼けるような音が
あたり一体に広がっているのに気づいた
肝心の匂いは…
鉄が焼けた時のような
胃の奥を抉る匂いだ
「もしかして、溶けてるかな、コレ…。
アストン、気晴らしついでに、北極のところへ連れてってくれよ。
アイウェオは、ミナミさんのケアをよろしく」
「言われなくても、そうするつもりだよ。
願力も、なんとかしないといけないからね」
アストンは
ドブナガを抱えて
ホッキョクのいる魔道炉室へ向かった
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一方こちら魔道炉室
「やっぱ魔力不足だよな…、というか、エンジンが限界か?」
ホッキョクが頭を抱えていると
彼はよからぬものを見てしまった
「おいおい…、勘弁してくれ…」
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