巻きもど詩【Miracle Fanta詩 Ⅱ 333(最終回)】
── 火山列島上空 ──
巨大化したアストンたちは
収まりの良さそうな火山を探していた
あそこなんかどうだろう?
なんか良さそうじゃない?
── 邪炭素の少年、アストン
いいね、あそこにしよっか。
── 意思の探検
アストンと意思の探検は
ニガマトを焼き切るのに
十分な火山を発見した
思い起こすことは?
ないね?
── アストン
もちろん。いつでもどうぞ。
── 意思の探検
ちょうどいい
足場くらいの大きさになった
冬籠りのクジラ号の
コントロールを微調整しながら
アストンは虚空へ飛び降りた
さよなら…、みんな…。
── 英雄、アストン
アストンはそう言い遺し
火口へ落ちて行った
とろとろのシチューに
にんじんでも落としたように
マグマの湖は鈍く沈み
アストンの身体を容赦なく包み込んでいった
ニガマトは弱点の炎に耐えきれず
断末魔の叫びをあげて
すべて燃やし尽くして絶命した
アストンの軍服は燃やし尽くしたが
身体は炎に包まれながらも
まだ形を保っており
彼の瞳からは
ダイアモンドの涙がこぼれ落ちていた
── ヤスメヤセン付近の平原地帯 ──
ウィーザーズと別れたミナミは
ふとアストンの涙を思い出した
涙を浮かべるミナミの手には
ダイアモンドの涙が握られていた
後ろを振り返ろうとするミナミだが
我慢しながらヤスメヤセンへ進んでゆく
行っちまったなぁ…。
── 紅いツナギのホッキョク
うん…。
── 発明家、ドブナガ
おい、立てるかよ。
── ホッキョク
悪いね、ありがとう
── ドブナガ
三人は意思号へ戻って行った
── 故郷、ヤスメヤセン ──
ミナミは久しぶりに故郷へ帰ってきた
果たしてどれくらいぶりだろう
とても長い夢を見ていた気もするし
ほんの一瞬の出来事だったかもしれない
待ち望んだ故郷の景色が
ミナミの目の前に拡がっていた
真ん中の電波塔がなくなって
新たな塔の建設が始まっていた
ミナミは高鳴る気持ちを抑えながら
実家へと足を急いだ
途中路地裏から飛び出した黒猫は
どこか見覚えのある雰囲気だった
ミナミは少し立ち止まったが
気のせいだと思い
再び走り出した
一階が喫茶店の角の家が
ミナミの実家だ
ただいま!
── ヤスメヤセンの少女、ミナミ
からん、からん
と店内に軽やかなベルが鳴り響いたので
ミナミの母はいらっしゃいませと言いかけたが
ミナミ!
── ミナミのママ
大きな瞳がさらに大きくなると
ミナミと母はお互いにハグをした
ミナミは母の胸のなかでわんわん泣いた
厨房にいた父も
遅れてミナミに駆け寄った
ミナミ…!
無事でよかった…!
── ミナミのパパ
ガラス張りからその光景を眺めていた黒猫は
あくびをするように
にゃあ
と鳴き
ひょいひょいっとどこかへ駆けて行った
── ヤスメヤセン郊外、石薔薇の壁 ──
ミナミが先ほどすれ違った黒猫は
ヤスメヤセンを囲う石薔薇の壁まで来ていた
少し歩くと
石薔薇の壁から顔と手を出したモントローザが
腕を血まみれにしながらジタバタしていた
瘡蓋だらけになっていて
古傷がさらに裂けて出血していた
く、くそぉ〜!
どのくらいここに居るんですの?
くっ、屈辱…!
ヤスメヤセンのうじ虫どもに振り向きざまに
変な顔をされてさらに屈辱ですわ…!
魔法が使えたなら…、
こんな石ころなんてことないのに…!
こんの憎っくい街を見ながら永遠にこのままなんですの〜⁉︎
── 石薔薇の魔女、モントローザ
モントローザは
ミナミと意思の探検の力によって
石薔薇の壁に閉じ込められていた
そこへ
一人の少年が立ち寄った
おばさん、困ってる?
── 謎の少年
おばっ…、そうね見ての通り困ってますわ。
ただね、お姉さまとお呼びなさい。
── モントローザ
ここから出してあげられるけど、どう?やってみる?
── 謎の少年
こんなガキンチョに何ができるっていうんですの⁉︎
やれるもんならやって見なさいよ!
── モントローザ
ただし、条件付きだよ。
出してあげる代わりにぼくと一緒に暮らして欲しいんだ。
── 謎の少年
謎の少年はほくそ笑んだ
一緒に⁉︎
なんでアンタみたいなクソガキと
このわたくしが一緒に住まないといけないんですこと!
── モントローザ
じゃあ、帰るね〜。
── 謎の少年
だ〜っ‼︎
お待ちなさい!
わかりましたわ!
一緒に住んであげるから
ここから出してちょうだい…。
(このクソガキ…、家に行ったら毒漬けにしてぶち殺してやりますわ!)
── モントローザ
(ニヤリ)
ありがとう!
じゃあ出してあげるね〜!
── 謎の少年
少年は石薔薇の壁に手を当てて
少しだけ祈ると
モントローザを取り囲んでいた石薔薇は
ことごとく崩れ落ち
モントローザは呆気に取られた
同時に石薔薇の魔法を使って
少年の殺害を試みたが
本当に魔法が使えなくなってしまっていた
ぼくの名前はヒタムキ!
おばっ…、お姉さんの名前は?
── ヤスメヤセンの少年、ヒタムキ
わたくしは石薔薇の魔女、モントローザですわ。
よろしくね、ガキンチョ。
── モントローザ
モントローザは平静を装っていたが
内心かなり焦っていた
(なんなの、このガキンチョ!気味が悪いわ!
まぁ、いいですわ。
ミナミとかいう小娘を見つけ出して、
バラバラのギッチョンギッチョンにして
スープにして食べてやるんだから!)
── モントローザ
いつの間にか三つの陽はすべて沈んで
夜空の海が静かに波打っていた
幻影の鷲がその上を舞う…
散りばめられたダイヤモンド
いつか輝く生命の炎
いまも忘れぬ生命の鼓動
きみも原石ということを忘れないで
本当のダイヤモンドは
きみ自身なのだから──
あなたの世界の歯車は
順調に進んでいますか?
わたしの世界の歯車は
それは順調に進んでいますよ
ほら、
ページを捲ると
また次の奇跡の物語…
けれどもそれは、またの機会に…
── 本当のダイヤモンド、終わり ──
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?