覚悟【Miracle Fanta詩 Ⅱ 331】
ウィードの意思号魔道炉室
ホッキョクは
船内に侵入したニガマトと交戦していた
ホッキョクはマッチに火をつけ
口に咥えたタバコに持っていった
ホッキョクはすぐさま
フィルターを吸い込むと
タバコに火がジリジリと移った
煙を燻らせると
タバコはバチバチ音を立て火花を散らした
ホッキョクは勢いよく灰色の煙を吐き出すと
纏うように煙を周りに集めた
たちまち煙は火炎に変わり
ホッキョクは纏った炎を巧みに操った
炎はまるで生きている大蛇のようだった
大蛇のように見えた火炎の生き物は
龍の顔に変化し
侵入してきたニガマトの一部に向かって喰らいついた
ホッキョクは経験上
ニガマトが炎に弱いことを熟知していた
悲鳴めいた奇妙な叫び声を上げながら
船内の壁の隙間から飛び出ていた
ニガマトの一部は一旦引っ込んだ
しかし
またすぐに出てきては焼かれるという
いたちごっこが続いた
その時
操縦室から
ドブナガをおんぶしたアストンが駆けつけた
ホッキョクが喋り終わる前に
食い気味にアストンが言った
この時のアストンは
妙に落ち着き払っていて
ホッキョクは気味が悪かった
ホッキョクはアストンの言葉通り
ドブナガと一緒に魔道炉の修復にあたった
魔道炉はふたりの身長よりも遥かに巨大で
蟻の大きさに等しかった
ホッキョクはドブナガをおんぶしながら
魔道炉上部に上がるための階段を登った
ふと下を見てみると
アストンはニガマトに取り込まれていた
ホッキョクは
アストンの理解不能な行動に困り果てたが
妙に緊張感のある声色に押され
ドブナガと一緒に作業にあたった
一方
こちら操縦室
ミナミは相変わらず項垂れていたが
アイウェオに諭されていた
ミナミは泣きながら
しかし先ほどよりも足に力を入れながら立ち上がった
その時だった
操縦室にもニガマトの脅威が襲ってきた
ミナミが探検に願うと
彼女の身体は樹皮鎧に包まれ
船内にはどこからか出てきた樹木の盾が
ニガマトの脅威を退けていた
木と木の間から入り込もうとするものもあったが
その間すらも木々が埋め尽くした
ミナミは静かに頷くと
アイウェオとともに魔道炉室へ向かった
こちら魔道炉室
アストンがニガマトに取り込まれているなか
ホッキョクとドブナガが魔道炉修復を進めるという
奇妙な構図が出来上がっていた
アストンをよく見ると
取り込まれているというよりかは
自分の身体に吸い集めている風に見えた
魔道炉の要である魔導石は
魔法を倍増させるために重要だ
ホッキョクはここで覚悟を決め
背中のドブナガを比較的安全な場所へ下ろした
向こうから樹皮鎧に身を包んだミナミが走ってきた
ミナミが短剣に祈ろうとしたその時
アストンは待ち侘びていたように
ニガマトのなかから手を伸ばした
ミナミは音速に次ぐ速度で
アストンの元へ駆け寄り援護に回ろうとしたが
彼は腕だけで顔は見えなかった
しかし確かに
ミナミが振りかざした短剣を握りしめた
その後わずかに
ニガマトの漆黒の物体のなかから
アストンの目だけが見えた
その目からはダイヤモンドの涙が一粒こぼれ落ちた
ミナミは落としてはいけない気がして
即座に拾い上げたが
気がつくと別の場所にいた
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