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ザ・ノンフィクション

毎年プロになりたいと上京する者達と出会い、そのほとんどが夢破れ去って行く。生き残ってプロになれたとしても、それが始まりであって更に過酷な道は続いていく。
多くの地方出身者は生活費をバイトで稼ぎ、限られた時間の中で日々練習を積み重ねていかなければいけない。
それは他のスポーツだったり、芸能界や、ホストやホステスも一緒なのかも知れない…知らんけど。
ある程度の才能があればTRIBEの練習メニューをこなすだけでプロMMAファイターになるだけだったらなれると思う。
先輩であるプロ選手とも練習で肌を合わせることが出来て無理なく1週間の練習をしっかりこなせばMMAに必要な全てを習得できるプログラムになっているはず。
あとはやるかやらないかの問題で、やらなければ当然強くはなれないし試合では勝てない。

福岡から来た男

2019年の12月の日曜18時のジム閉館間際の時間だった。
一人でジム番をしていたのだが「入会をしたいです」と金髪にした瘦せ型の若者が現れた。
入会時は23歳だったが年が明ければ、すぐ24歳。自称格闘経験者で福岡から上京して来たと言ってるのだが体系を見て、ちゃんと格闘技をやっていた様には見えなかった。
12年も指導していると耳が沸いてるかだけではなく首周りの筋肉や立ち方を見るだけで何かしらの経験者と、そうでない者を見分けることが出来る。
この日入会に来た古賀優兵というそこまで若くはない若者は圧倒的に後者に見えた。

会員番号745

古賀の入会翌日が月曜日で打撃の練習が初日となった。
体系を見て判断した通りの実力だった。パンチも蹴りも全てが軽く、地元の福岡でいったい何をやって来たのか?と言うレベルだった。
入会から翌々日となる火曜日はグラップリングの日。打撃同様に寝技も弱かった。
女子の三浦彩佳にポンポン投げられ極められていた。
1週間をただやられるだけで終えた。
こういう若者は古賀に限った話ではない。やられることを悔しいと思い努力して改善しようとする者もいれば、すぐに諦めて辞める者もいる。
結果やられても、やり続けた者達はアマチュアでも勝ちプロ選手としてデビューしている。

ジムに入会してから、練習でやられてもやられても毎日来るスタイルなのが古賀ともう1人、山口県出身の片山将宏(現不動産屋勤務)だった。
普通、練習を継続して続けている者達はやられても次はやられない様に考えたり工夫したりするのだが古賀と片山には驚くほどそれがなかった。
本当に毎日欠かさず来るだけなのだ。
技を教えても全く覚えないのには腹がたった。
そもそも人の話を聞いていない。
俺は説教するのが嫌いなのだが流石に彼らには怒った。
「何を考えて練習してるんだ?」
馬の耳に念仏とは正しくこの事だ。彼等は何も考えてなどいないのだ。
ただ格闘技が好きだから毎日来る。それだけだった。

親友

プロ選手の石井逸人は同い年で北海道出身の後藤丈治と親友になりたかった様だが、逸人の上京当初(2019年5月)はアウトローに憧れ、練習後に飲みも出来ない酒を飲んで酔っ払う逸人は丈治に呆れられて距離を置かれていた。
丈治にフラれた逸人が見つけ出したのが同い年の古賀だった。
練習が終われば古賀は逸人に飯や酒に付き合わされ練馬の街をうろついていた。
時には粗相を犯して2人纏めて俺に怒られる日もあった。

古賀のプライベートは全く知らなかったので所属選手である逸人を通して知る事が出来た。
「あいつ借金塗れでめちゃ貧乏ですよ」
古賀は1人暮らしを自力でする金が無いので同郷の友人達と一部屋のアパートに暮らしていた。不法滞在者の外国人のようなタコ部屋生活だ。
同部屋も同じような貧乏人だらけで1人、2人と帰省して家賃を払えなくなり逸人のアパートに居候した事もあった。
何故そんなにも金が無いのか?

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