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虚無の夜。

 薄暗いマンションの一室は栄華を極めていた。
最高級の日本酒やシャンパンが贅沢に空けられ、五人程度の男たちが豪快に笑いながら半ば屈託もなくその瞬間の誇らしい勝利感に寛ぎ、もたれかかっていた。
大仰な革張りのソファや日本刀が飾られた鎧のディスプレイ。達者な毛筆で書かれた掛け軸。虎の毛皮。
まるで絵に描いたような武闘派の反社会勢力の事務所は、今夜とても浮かれていた。

 「いやあ、それにしても今頃あいつら、きっと泡食っていやがりますねえ!!」

 「そうだろうなあ!」

今夜何度目ともしれない今回の手柄の話だ。
男たちは迫力に満ちた顔を崩し、下品に笑いながら手を組んでいた中華系マフィアを裏切り、
折半するはずだった上がりを独り占めした姑息な手口とアイデアを何度も何度も酒の勢いに飲まれて語り尽くした。
 「まあまあ、そんなに喜んだら裏切られて泡を喰った向こうさんに失礼だろうが。」
ガハハハハハ!!と、一夜にして巨万の富を築きしのぎを削る同格の他の組事務所に大きく差をつけた親方が高笑いをして、
周りの組員たちもそれに釣られるように腹を抱えて笑った。

 「おいなんかヤレる女呼べよ!」
気を良くしたそのうちの一人が大声でそんなことを叫んだ。

ガハハと笑っていた男たちの頭の中で、
「ヤレる」がほんの一瞬「殺れる」に変換された。

その瞬間、言葉にはできない不穏な風が組事務所の中を一陣、駆け回ったような気配があった。
言葉というのは、常に何らかの力を孕んでいる。
もし彼がそんなことを言わなければ、そしてそれを聞いた組員たちがそんなことを考えなければ、この先の展開は変わっていたかもしれなかった。

ガチャ・・・・。

と音を立てて、事務所の扉が開いた。

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