呼吸の温度。6
松田茂は興味津々だった。
先日から立て続けに起こる未成年の入水自殺。
まるで何かに呼び寄せられるように、遺書もなく、きっかけもなく
ただそこで死ぬ。それは呪いのようでもあり、また、理由のない殺人事件のようでもあった。
その家族はそれぞれに苦悩し、ある時は後を追い、その人生を大きく変えて行った。
松田はこの一連の未成年の連続入水自殺になんらかの共通点を求めて森の中にある池を眺めていた。
大学を出て、就職に失敗した松田はフリージャーナリストの道を歩んでいた。
あらゆる出版社の小間使いのような身分ではあるが、それでも何にも制限されない人生を松田は楽しんでいた。
将来への補償は何もない。ただ、まだ24歳の松田にとってその自由は何にも替え難い価値があった。
音のない静かな世界だった。
元々、それほど喧騒にあふれた土地ではないが、
それでも車通りから遠く登った場所にあるひと気のない池、森。
暮れかかっている夕焼け空に煽られて、それらは妙にセンチメンタルな気分にさせる。
この景色の魔法が中学生や高校生を池に飛び込ませたのだろうか。
松田は、池の周りをぐるっと一周歩いて回る。
特に見るところもないが、しかしそれなりに大きな池である。
すうっと息を大きく吸い込む。
瞬間、
ちゃぽ・・・・・。。。
っと、音がして水面に波紋が広がる。
鯉がいるのか、何かが一瞬顔を出したのだろう。
松田の頭にはその波紋の中央に白い手が飛び出していて、
こちらに向かっておいでおいでと手招きする映像がサッとインサートされた。
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