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暗風〜傍観者〜
退屈な日々であった。
いつも通り大学から帰って、バイトに行って。
そして帰って来れば課題か、何か暇つぶしをする。
どこにでもいる女子大生、遥香にとってその生活は退屈そのものだった。
これと言って趣味もなく、彼氏もいない。
遥香にとって一人暮らしの部屋のパソコンの前が定位置で、
特に興味があるわけでもない動画を見ながら最近覚えたお酒をちびちびと飲みつつ、初めは心躍った新生活にも飽きて、いよいよ退屈も極まったこの生活を持て余していることを忘れるのが日課になっていた。
その日は、もう夏も終わったことが明らかになったような涼しい夜だった。
ヒュルっ。。。と吹く風が窓を叩いて、
華奢と言っていい遥かにとってもう肌寒いという表現が当てはまる季節だ。
もう3年目に入って、そのアパートにも慣れ親しんだ。
コンビニは近いし、スーパーも遠くない。
美味しいご飯屋さんもそれなりにある。駅からも遠くないし、暗い道というのもない。何より、このアパートにはあまり住人がいないというのも、遥香には好都合だ。
周りに気を遣いながら暮らすというのは窮屈だ、と感じる遥香には動画を見て大きな声で笑うことくらい憚られないでいたいことだった。
ピン・・・・。
とパソコンが音を立てて、メールが届いたのを知らせた。
「む。」
遥香はテーブルに肘を立てて頬杖をして、
画面の中のマウスを操作した。
「幻影流本部」という差出人。
「なあにこれ。怪しいんだけど。」
もう一人暮らしも3年目になると独り言も板についてくる。
それでも遥香は自動的に迷惑メールに分類されないそのメールを面白がって開いた。生活に退屈していたという背景も相まって、何か面白いことを探していたのかもしれない。
メールにはこう記されていた。
「拝啓 佐伯遥香様
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