秀才の詭弁。
僕の高校の同じクラスには、いわゆる「よくできた子」が二人いる。
彼女らは勉強もできるし運動もそれなりにできる。
何より二人ともびっくりするほど可愛くて、「性格もいい」。
先生への態度も模範的だし、友達も多い。
学内でもファンクラブができるほどのルックスの良さは、二人で街で遊んでいればまず間違いなくスカウトの声がかかるほどらしい。
かと言って彼女らがそれを鼻にかけるかというとそんなこともなく、クラスの誰とでも分け隔てなく話してくれる。実に、よくできた子。なのだ。
僕もつい最近ようやく、彼女らと話すことができるようになった。
というかこれは単純に僕が人見知りというか、
変に意識をしてしまっていただけで、彼女らが悪いとかいうことでもないんだが。
いざ話してみると本当に、彼女らは気安い人間であり
その見た目の美しさとか成績の良さとか、そんなものを微塵も感じさせない
柔らかさというか、そういうのがあった。
だから、案の定僕はたやすく彼女らに惚れた。
クラスのほとんど全てがそうだと思う。
「麗奈」と「玲」というのが彼女らの名前で、その名前の凛とした印象に違わない美少女だ。麗奈はどちらかというとフェミニンな女子らしい女子。もうもろにアイドルっていう感じの小柄で華やかな女の子だ。
玲はもう少し大人っぽい、麗奈よりも少し背の高い感じで一見して冷たそうな印象があるがキャハハとよく笑う、綺麗な女の子だ。
二人ともタイプが違うけど、よく気が合うらしく部活も同じチアリーディング部に所属しているしいつも一緒にいる。
そしてこれは、そんな秀才を間近でみることになった僕の、少し変わった青春の短い話だ。
「ねえ芝山、」
理科室の帰り、授業と授業の合間。
僕の前を歩く麗奈が長い髪の毛をふわりとなびかせ、ブレザーの胸に教科書と筆箱を抱きしめながらにっこり振り返った。
その隣には玲がいて、にっこりと彼女も僕を向き直る。
ちなみに芝山というのは僕の名前で、フルネームを芝山隆一という。
実にどこにでもある味気ない名前を持った、どこにでもある味気ない高校2年。男子。
「ん?ど、どうしたの?」
僕はまだまだ日の高い光の差し込む廊下で彼女の美しい顔に見惚れながら、ギリギリそう答えることができた。
「今日放課後暇?」
短いスカートがふわりと浮かび上がり、女子高生らしく肉付きのはっきりした脚が紺色のハイソックスへ続くわずかな合間を煌めいて見せる。
タタっとステップを踏みつつ、彼女はそう尋ねてきたので
万年帰宅部である僕は、もしかして遊びに行くお供に任命してもらえるのか?と浮き足立ちつつ「ああ、暇といえば・・・暇かな・・・。」とかっこつけたい半分、即答したい半分という下心と思春期の純情を豪速球で行ったり来たりする揺らめいた答えを緩慢と発した。
「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ。」
完全にこちらを振り返らない玲の流し目でそう言われて断れる人間がいたらぜひ名乗り出てもらいたい。
「うん、わかった。」
あっという間に放課後がきた。
嘘だ。あっという間ではない。
どちらかというとその後の授業が長くて長くて仕方なかった。
僕は放課後を待ち遠しく思った。
長い長い時間を経て、そして僕はようやく放課後にたどり着いた。
と記述するのが正しい。ワクワクと胸が爆発しそうになりつつ、僕は自席で彼女らが声をかけてくれるのを待った。
クラスから生徒が消えていく。
ほとんど全員が麗奈と玲に声をかけて帰っていくのが実にクラスのバランスを表現していると思った。彼女らは紛うことなき人気者でありクラスのアイドルなのだ。
「じゃ、いこっか。芝山。」
麗奈がにっこりと声をかけてくれる。
「うん・・・。」
帰り道を彼女らと共にできるなんていうのは周りの男どもからすれば羨望の眼差しで見ざるを得ない光景だろう。
控えめな返答に落ち着きはしたが、それでも僕は実に意気揚々と教室を後にした。後にして、彼女らがエントランスに向かわないことに気がついた。
「ど・・・どこいくの?」
僕は実に腰を低くして玲に尋ねた。
「ん?ああ、ちょっとそこまで。あはっ!」
玲は思わせぶりなことを口にして、いつも通り明るく笑った。
目を細めてにっこりとすると、本当にその顔の出来の良さがわかる。
あどけなさ、というのを見つけるのが難しい完成された顔に
少しだけそれが戻る、笑顔。これを見て惚れない男はきっとホモかなにかだろう。
気がつけば僕は、第二体育館の体育倉庫の前に連れてこられていた。
第二体育館、というもののここは部活で使えるような広さではなく、放課後になると誰も来なくなる場所だ。第一体育館の上に位置していて、建物の高さで言うと3階くらいになるんだろうか。僕もほとんど初めて立ち入った場所だ。倉庫、と言っていいだろう。昔は剣道場だったというようなことを聞いたこともある。
そしてその第二体育館の倉庫の扉を開けると、そこには人影があった。
「ん?あれ?東野?」
それはクラスで一番のいじめられっ子、東野健太だった。
背は小さく体は細く、勉強ができるわけでもなければ運動ができるわけでもない。いつも静かに黙って、男どもに揶揄われ女の子からは相手にされていない。実にわかりやすくクラスのカースト最下位に位置する人間であった。
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