
人生で一番不幸な日。
ずいぶんと前のことになる。
あれは、確かまだ暑い夏の残り香が色濃い九月の半ばだったか。
僕は取ったばかりの免許で、安く先輩に譲ってもらった軽自動車に乗って、
知らない町を飛ばしていた。
すると、ある角を曲がったところで1人の女の警察官が僕の車を止めた。
晴れた、皮肉なくらいに晴れた真っ青な空に
彼女は1人で、赤色棒を振って僕の車を止めた。
窓を開けて、「何ですか?」と怪訝に聞いた。
交通法規を無視した覚えはないし、
何も咎められるようなことはないはずだ。
「この角左折禁止になったの知らないの?」
と彼女は高飛車に言い放った。
僕はそんな標識は出ていないから、
「そんなの知る訳ないじゃないか!」
と声高に言い返した。
人通りのない、今思うと何故そこで曲がろうと思ったのかもわからないような、うらぶれた川沿いの道だ。よくよく見ると街灯もろくになく、夜になればさぞかし暗闇に落ち込む通りだろうなと思った。
「ほら、反則金だしなよ。」
彼女はぶっきらぼうにそう言い放った。
「はあ?だから、そんな標識が出てないならその管理を先にしろよ!」
僕はそんな風に言った。
それにその場で反則金をせびられることなどありえない。
しかも女の警官1人で。
「なあ、あんた本当に警察?なんか怪しいんだけど。警察手帳みせてよ。」
と僕がいうと、彼女は
「何生意気なこと言ってんの?」
と開けた窓越しにこちらにすごんできた。
何だこいつ、と思って僕はハザードを焚いて
その場で自分の携帯に手を伸ばし、警察に電話をかけた。
この場所で現在、取り締まりがあるのかどうか、
直接罰金を受け取るようなことがあるのかどうか、
という確認をしなければどうにも納得がいかなかったからだ。
ここから先は
¥ 100
読んでいただきましてありがとうございます。サポート、ご支援頂きました分はありがたく次のネタ作りに役立たせていただきたいと思います。 皆様のご支援にて成り立っています。誠にありがとうございました。