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インフォメーション。

 岩口孝雄は昔から自分という人間の特別性について意見を持っていた。
周りの人間が蒙昧に日々を過ごし、ただ促されるままに課題をこなすことを横目に、なぜ自分の頭でものを考えたりしないのだろうかと不思議に思うことがあった。

もっと、子供の頃から。

自分と周りの人間との間にある、如何ともし難い断絶。
そのようなものを岩口孝雄は漫然と胸に秘めていた。

大学を卒業する頃、周りの人間はこれまでと同じように
『生まれてから今日までの間を常にそうして過ごしてきたように』
就職活動に明け暮れて、自分がやりたいことが何なのかさえわからないままただ疲弊するばかりの面接を受け、次はどこだ、次はここだと右往左往している。
岩口孝雄にとってそれは、ルールの認識が曖昧なままゲームに参加することと然も似たりだとはっきりと確信していた。
自分が持っている才能をどの角度で、どの標的に向かって照射するのかで今後の人生は変わる。その感覚を持っているか持っていないかで、人生の延び方は大きく変わる。

彼にはその確信があった。

だから、自分が何者であるのか
また何者になりたいのかを追求するために
就職活動などという息急いだ真似はやろうという気にもならなかった。
この大学の四年間、または高校の三年間を通じて
それまでの人生の全てを通じて、
世の中を見てきたことの結果だ。

みんな、システムの中に適応できていない。

「だからこの国はこんなに自殺者が多いんだ。」

岩口孝雄は、イライラと一人暮らしの狭い部屋で独り言を言った。
夜はとっくに更けて、もうすでに肌寒い風が窓ガラスを撫でる。
少し強い風がふくと窓も扉も揺らぐ。
絵に描いたような古い時代のボロアパートだったが、
岩口は自分の人生の出発点としてのこのロケーションを気に入っていた。

いつの日か、この前の道を自分は高級外車に乗って通り過ぎるだろう。

そして「ああ、僕はここから始まったんだよな。」と感慨に耽るだろう。
そんなイメージが岩口孝雄の頭の中にははっきりと浮かんでいた。

焦りもあった。
周りの人間が次々に就職先を見つけてくるにつけて、
就職してからでも自分のいく末を見つけるのは遅くないのではないか、という考えが頭に浮かんだ。その就職先において獲得できる人脈や関係性を放棄するのが果たしていい策なのか。という自問がふとした瞬間に自動的に沸き、岩口孝雄はそれに対する言い訳を頭の中で延々とこねくり回した。

「インフォメーション」

という組織に出会ったのは、ちょうどその時だった。
岩口はそのホームページを見つけた最初の感想を、「胡散臭い」とした。
「インフォメーション」という組織の存在意義は生きとし生けるもの全てに情報を与えなければならないというもので、世の中には情報を与えるものと受け取るものの二種があり、このページを見て感じるものがあった者は全て与える側の存在である。ということが滔々と書き連ねられていた。

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