ファイナルアドベンチャー。
タケルは草木をかき分けて前に進んだ。
邪悪な瘴気を放つあの城に目掛けて、ザクザクと道を急いでいた。
木々が鬱蒼と生い茂る道なき道はさっきも同じところを通ったのではないか、という疑心に駆られるほど同じ景色が続く。が、木になっている果実が、悪魔の巣食うあの城に近づくにつれて赤から紫に変化していくことが同じ道をぐるぐる回っているのではないことの証左であった。
空は木々の影に阻まれて見上げることも叶わない。
薄暗い風景の中をただ一心不乱に前に進む。
ガザっ!!
と音がして、ハッと横を見ると犬型のモンスターが牙を剥き出しにして襲いかかってくるところだ。
「ハッ!!!」と持っていたエクスカリバーを振るう。
「ぎゃううっっ!!!!」モンスターは致命傷を負い、緑色の血を吹き出して消滅した。
「ぐううっ・・・!!」
しかし、回復薬を飲まなくてはタケル自身もここにくるまでにかなりの痛手を負っている。
そしてエクスカリバーは、明滅を繰り返している。
この武器ももう、そう長くはない。
攻撃力に優れるこの武器は耐久性があまりない。
しかし、ここから先の道中に便利のいい道具屋や合成をしてくれる店があるとも思えない。引き返すには、自分のHPがすでに足りない。
「くそっ・・・・。」
その時、ほとんど真後ろで「グゥルルル・・・・」という危ない呻き声が聞こえた。振り返ると、白眼の羆、「ヘルベア」がこちらを睨みつけていた。
「こ・・・こんなボスレベルの敵が・・・・。」
タケルは愕然とした。
ヘルベアは道中の難関エリアに存在する「砦」に出てくるボスだ。
しかも白眼はこの世界の中でレベルマックスを意味する。
こんなやつの相手・・・できるわけがない・・・が、もう逃げ出すには距離がない。
せめてもの悪あがきに・・・・。
タケルはもう最後の一撃にかけ、思い切りエクスカリバーを振りかぶった。
ガキイインッッ!!!!!!!!
それは、ヘルベアの肩口に思いっきりヒットしてスタンの効果を出した。
スタンとは一瞬相手を怯ませ、行動不能にする特殊効果だ。
そして、ビリビリっ!!!と音を立ててエクスカリバーにヒビが入る。
バギン!!!と雷のような音を立ててエクスカリバーは粉々に砕け散った。
「くそっ!!!」
もう持ち物の中に有効そうな武器はない。
それにヘルベアはまだ20分の19ほどのHPを残している。
会心の一撃といえたさっきのスタンほどのダメージをあと19回。
素手ではまるで無理だ。しかも攻撃している間は相手もこちらにダメージを与えてくる。白眼のヘルベアの打撃をもろに受けたら、一撃だってたまらない。
タケルは頭の中を必死に巡らせた。
そしてスタンがとけ、ヘルベアが怒りの形相でこちらに突進を開始するその瞬間を目掛けてMPを振り絞り、大声で「スリーパっ!!!!」と唱えた。スリーパはタケルが扱える相手を眠らせる魔法の最上位だ。この大声で他のモンスターがこちらに向かって集まってこないことを祈りつつ、はなちょうちんをぷくーっと立てて居眠りモードに入ったヘルベアを尻目に、タケルはその場を後にした。
なんとか、回復・・・・なんとか・・・・・・。
草木をかき分けることももう辛くなってくる。
もう、無理か・・・・。あの悪魔たちの巣食う城に入ったとしても・・・・。もう・・・・戦えない・・・・・。
ほとんど絶望していたタケルの目の前に、
突如として大きな教会が現れた。
それは絶望の中に差し込んだ大いなる光だった。
この世界では教会は全回復と店の役割をする。
HP,MPを全てシスターの祈りによって回復され、
そして現段階で最も強力な武器と盾が手に入る。
調子が良ければレベルも上がる。
そういう場所だ。
最終決戦の場の手前には、最終決戦への準備を整える場所があって然るべきか。
タケルは壮絶な気分が、一気に救われたような気になってそう思い安堵した。遠くからモンスターの気配が近づいてきている。ぼやぼやしていられない。教会の中は聖域であるため、モンスターも侵入できない。一刻も早く飛び込まなければ。
タケルは、その教会の屋根に設られた十字架が傾いていることにも気づかないまま、その大きな扉を開けて中に飛び込んだ。バタンっ!と閉まった扉の勢いで、十字架がまた大きく傾いた。
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