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素敵な孤独。

前川良太には夢があった。

小学生のある日、テレビで見た柔道世界選手権。
テレビ画面の中では小さな日本人が大きな外国人をバッタバッタとなぎ倒していた。幼心に戦隊ヒーローは作り物で、ゴジラは本当はこの世にいなくって、宇宙大戦争も当分は起こりそうにないということをなんとなく理解していた良太にとって新しいヒーロー像は白い和服の日本人だった。

筋骨隆々がヒーロの最低条件だとは思ったが柔道においてはそれほど体の大きくない良太にも希望があるように思えた。
が、あまり両親がいい顔をしなかったためその夢に踏み出すには中学生まで時間をつぶさねばならなかった。ちょうど世の中では柔道による不幸な事故のニュースが盛んに取りざたされていた頃だった。

「そんなことより野球はどうだ!」

「これからは陸上競技もいいぞー!」

父親の意味不明な説得は良太を落胆させるばかりだった。
良太はお小遣いをためて古本屋に出向き、柔道の参考書を親にも内緒で買い込みまるで同年代の男の子が漫画を読むように熱心にそれを読んだ。

そして二年の時が経ち。良太はついに中学生になった。
新しい環境への不安もあるにはあったが、そんなことよりも柔道部へ入部できることを喜んでいた。

「良太は何部に入るの?」小学校からの友人が聞く。と、良太は柔道部!と即答していたほどだ。その意思は固い。
が、別の小学校から中学校で同じクラスになった友人がこういった。
「僕のお兄ちゃんも去年までここの柔道部だったんだけど、先生がいなくなるから柔道部なくなったんだよ。もう部員もいないし。お兄ちゃんたちも同い年の三人だけでやってたんだって。」

これには参った。良太は目の前が真っ暗になるような感覚に見舞われて言葉をなくしていた。

「まあ、仕方ないよ。他にも楽しそうな部活色々あるよ。」友人はそういって慰めてくれたが、気が収まらない。

しかし確かに、見回してみれば帰宅部っぽい人もたくさんいる中で、
野球部、陸上部、サッカー部、文化部も多数。剣道部なんていうのもある。
柔道部にばかり目が行って気がつかなかったけれど、自分のいる環境をよくよく見渡してみれば自分と同い年の人がこんなにたくさん集まり、一つ、二つ年上の先輩たちも、ちょっと悪そうな人も、賢そうな人も、面白そうな人も、たくさんいる。

そうか。こんなに楽しそうな場所にいるのに一つのことばかり盲目に追いかけたんじゃ勿体無いよな。

良太はそう思いなおし友人とある放課後、学内散策に出かけた。
いろんな部活を見て、感じて、いいと思ったところがあればそこで懸命に頑張ろう。と、思っていた。

下駄箱のあたりで良太は、初めて近くで三年生と思しき女の子を見た。

髪の綺麗な女の子が2人、両方ともとても綺麗で、同い年の女の子が牛か何かに見えるほど洗練されていた。スカートは短く、自分より背が高い。
年が二つ違うだけでこんなにも大人っぽく見えるんだなあ。。。
と、良太はその女の子たちに見とれていた。
ほんのり気づいてはいたが、良太も思春期に突入していた。

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